「メチレンブルー」代替ミトコンドリア電子伝達
メチレンブルーは、外科手術の染色、マラリア、メトヘモグロビン血症と幅広い臨床用途を持っています。
この 100 年の歴史を持つ医薬品には、それとは別に抗酸化特性があり、最近新たな注目を集めています。
The Potentials of Methylene Blue as an Anti-Aging Drug
Cells. 2021 Dec 1;10(12):3379. doi: 10.3390/cells10123379
Mitochondria as a target for neuroprotection: role of methylene blue and photobiomodulation
Transl Neurodegener. 2020 Jun 1;9(1):19. doi: 10.1186/s40035-020-00197-z
メチレンブルーの構造と機能
私たちの体のエネルギー産生において、ミトコンドリアの電子伝達系(ETC)は大きな役割を果たしています。
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ETCはミトコンドリア内膜に位置する一連の電子輸送体であり、NADHとFADH2から分子状酸素に電子を輸送します。
この一連の過程で、ミトコンドリア内膜を挟んだH+濃度勾配と電位差が生じて、その駆動力によってATP合成酵素からATPが産生されます。
ミトコンドリアの電子伝達系については、詳しくは関連記事をご参照ください ↓
生理学的条件下では約0.4%から4%の酸素が部分的に還元され、副産物として活性酸素種(ROS)が生成されます。
電子伝達系には11か所のROS生成部位がありますが、主に複合体Iで生成されます。
ミトコンドリア機能不全は酸化的損傷につながる可能性があり、主に複合体IVと複合体Iの両方に障害をもたらします。
複合体Iが障害されると、ROSの過剰産生が酸化ストレスの増加につながり、細胞損傷を誘発する可能性があります。
活性酸素種(ROS)につては、関連記事をご参照ください ↓
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メチレンブルー(MB)は、外科手術の染色、マラリア、メトヘモグロビン血症などに広く使用されている医薬品です。
フェノチアジン誘導体で、還元されてロイコメチレンブルー(ロイコMB)になります。
酸化状態では、MB溶液は青色ですが、ロイコMBは無色となります。
親水性かつ親油性であるため、生体膜に対する透過性が非常に高く、組織に素早く送達されます。
また、MBの酸化還元電位は11mVと正に帯電しており、その低い酸化還元電位のため、ミトコンドリア内で酸化型と還元型の間を容易に循環することができます。
MBはミトコンドリア内で触媒的な酸化還元サイクラーとして働き、シトクロムc酸化酵素の活性とATP産生を促進します。
MBは複合体Iを介してNADHから電子を受け取り、ロイコMBに変換します。
ロイコMB はこれらの電子をシトクロムc に直接伝達し、再酸化されて MB になります。
MBは複合体Iの存在下でNADHから電子を受け取り、それをシトクロムcに提供して、代替の電子伝達経路を提供します。
病的条件下では、MBが複合体Iと複合体IIIの間の電子伝達経路をバイパスすることで、電子漏出とそれに続くROS生成を効果的に減衰させます。
抗老化薬としてのメチレンブルー
脳の老化の過程では、ミトコンドリア機能障害が神経細胞の喪失と関連しています。
アルツハイマー病(AD)では、明らかなプラーク沈着や記憶障害の前に、ミトコンドリアの機能不全が起こることが多いことがわかっています。
ADはアミロイドβ(Aβ)凝集と神経原線維変化(NFT)が、ADの2つの病理学的特徴となります。
ミトコンドリアの機能不全とAβの蓄積との関連が実証されています。
アルツハイマー病(AD)については、関連記事をご参照ください ↓
メチレンブルー(MB)は脂溶性が高く、血液脳関門(BBB)を効果的に通過することができます。
さらに、MBはミトコンドリアに対して強い親和性を持ちます。
MBは、NADHから複合体IVに電子を運ぶ触媒的な酸化還元サイクラーとして、ミトコンドリア電子伝達系と直接相互作用します。
MBとその還元型ロイコMBとの間の変換中に、複合体IとIIIの病理学的阻害を回避することで過剰なROSが減少します。
MBは、複合体IVの活性を高め、ヘム合成をアップレギュレーションし、それによってAD脳のミトコンドリア機能を促進することがわかっています。
フォトバイオモジュレーション(PBM)もまた、ミトコンドリアのATP産生を増加し、過剰なROS産生を減少する働きがあり注目されています。
PBMについては、詳しくは関連記事をご参照ください ↓
PBM 処理により、NO が複合体 IV (シトクロム c オキシダーゼ) から解離し、複合体の活性が高まります。
これにより、電子の流れ、プロトンのポンピング、ATP の合成が増加し、細胞のエネルギーレベルが高まります。
MB と PBM はどちらもミトコンドリアを標的としますが、その根本的なメカニズムは異なります。
これらを組み合わせた治療法は、どちらかの単独療法の能力を超えて脳疾患の症状を改善できる可能性があります。
まとめ
メチレンブルーはフェノチアジン誘導体で、還元されてロイコメチレンブルーになります。その抗酸化特性によって、最近新たな注目を集めています。
メチレンブルーは、ミトコンドリア内で酸化型と還元型の間を容易に循環することができます。
複合体Iの存在下でNADHから電子を受け取り、それをシトクロムcに提供して、代替の電子伝達経路を提供します。
ミトコンドリア内で触媒的な酸化還元サイクラーとして働き、シトクロムc酸化酵素の活性とATP産生を促進します。
病的条件下では、メチレンブルーが複合体Iと複合体IIIの間の電子伝達経路をバイパスすることで、電子漏出とそれに続くROS生成を効果的に減衰させます。