ガンマ波(40Hz)とアルツハイマー病治療

Innovations in noninvasive sensory stimulation treatments to combat Alzheimer’s disease
PLoS Biol. 2025 Feb 28;23(2):e3003046. doi: 10.1371/journal.pbio.3003046
アルツハイマー病とガンマ振動

アルツハイマー病(AD)は、緩やかに進行する致死的な神経変性疾患であり、認知症の中で最も多くみられる形態で、世界中の認知症症例全体の60~80%を占めています。
ADの病態の特徴と最も有力な仮説は、アミロイドβによって形成される細胞外プラークの蓄積と、リン酸化タウタンパク質からなる細胞内神経原線維変化です。
どちらの病態も、大脳皮質と海馬において、多様な神経毒性カスケードを引き起こし、ニューロンとシナプスの大規模な喪失を引き起こします。
歴史的に、アルツハイマー病の治療は、病気の根本的な原因に対処するよりも、症状の管理に重点が置かれてきました。
アミロイドβプラークとタウ神経原線維変化を標的とする従来の治療法は、ほとんど成果を上げていません。
最近の承認されたアデュカヌマブやレカネマブのAD治療薬は、その高額な費用、わずかな効果、潜在的な副作用のために様々な問題や限界に直面しています。
全体として、ADは複数の脳領域、回路、細胞タイプ、分子経路が損なわれる複雑な疾患であるため、単一のメカニズムを標的にしても包括的な効果が得られない場合が多いと考えられます。
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人間の脳は、約860億個のニューロンと数兆個のシナプスで構成された非常に複雑な器官です。
各ニューロンは数千個のシナプスを形成し、様々な脳領域間での情報伝達を可能にする広大で複雑な回路を形成します。
脳が同期してネットワークを形成する神経活動は、リズミカルなパターンを介して通信することが示されています。
ガンマ波は人の脳内で最も速い脳波であり、互いに通信する多数のニューロンから発せられる同期した電気パルスによって生成され、約25~100Hzの周波数で共鳴します。
ガンマ波は、視覚系に加えて、様々な皮質および皮質下の脳構造にも広く見られます。
ガンマ帯域の同期は、さまざまな認知プロセスに不可欠な基本機能をサポートすることが示唆されています。
ガンマリズムが海馬でも顕著であり、記憶機能に重要な役割を果たしていると考えられます。
このようにガンマ波は、感覚情報の統合、注意、知覚、記憶などの高次機能に不可欠であると考えられます。
このガンマ波の乱れは、統合失調症、てんかん、自閉症、アルツハイマー病などの多くの神経疾患と精神疾患に関係しています。
AD患者では、毒性アミロイドタンパク質の蓄積やその他の病態により、脳シグナル伝達が阻害され、脳領域間のニューロン同期が阻害されます。
ガンマ波領域における健全な振動を促進することは、AD治療介入の有望な標的となると考えられます。
40Hz振動のアミロイド除去メカニズム

40Hzの振動が、アミロイドの除去を助けると考えられているメカニズムは、脳脊髄液の流れを制御して脳から老廃物を除去するグリンパティック系の促進によるものです。
脳内の同期したガンマリズムは、血管作動性腸管ポリペプチド発現(VIP)介在ニューロンと呼ばれる抑制性ニューロンにVIP神経ペプチドの放出を促します。
これらのタンパク質は、次に動脈の血管運動(血管平滑筋の律動的な収縮と弛緩)を引き起こし、とアストロサイトのアクアポリン4水チャネル(AQP4)の脱分極を増加させます。
AQP4の脱分極により、血管を取り囲む血管周囲腔から脳への脳脊髄液の流入が起こって、アミロイドが洗い流され、硬膜リンパ管に排出されます。
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ガンマ振動(40Hz)が、アルツハイマー病の病態に対する神経保護作用を発揮するメカニズムの一つは、老廃物除去系であるグリンファティックシステムの活性化にあります。
しかし、これが唯一の根本的なメカニズムではない可能性が高いです。
ガンマ振動が、海馬や前頭前皮質などの学習、記憶、および高次機能に重要な他の領域と同期することがわかっています。
また、シナプス損失の減少が、神経保護および血流の増加と結びついていることもわかっています。
40Hzの音・光刺激によるアルツハイマー病の臨床試験

Safety, tolerability, and efficacy estimate of evoked gamma oscillation in mild to moderate Alzheimer’s disease
Front Neurol. 2024 Mar 6:15:1343588.doi: 10.3389/fneur.2024.1343588
MMSEスコアが14~26の軽度から中等度のアルツハイマー病で50歳以上の被験者対象(n=76)
アクティブ群とシャム群に2:1の割合で無作為に割り付けた、ランダム化二重盲検シャム対照試験(6カ月間)
※コリンエステラーゼ阻害剤の服用は許可、メマンチンの服用は除外
アクティブ群は脳波計(EEG)で検証されたガンマ振動(40Hz)を誘発する毎日1時間の治療
【有効性の主要評価項目】ベースラインから6ヶ月までのMADCOMSの変化
※MADCOMSは、軽度および中等度のアルツハイマー病に最適な複合スコアとして導入されたもので、ADAS-Cog 14、MMSE、CDR-SBの項目をベースとして構成されている
結果はアクティブ群とシャム群に統計的な有意差なし
Δ LS Mean[SE]:−0.23(0.568)、95%CI:[−1.38、0.91]、p = 0.6825
【有効性の副次評価項目】
探索的な副次評価解析では、ADCS-ADL、MMSE、MRI全脳容積で、アクティブ群とシャム群で統計的な有意差あり
●MMSE アクティブ群ではシャム群と比較して、ベースラインからの低下が76%抑制
Δ LS Mean[SE]:2.10(1.006)、95%CI:[0.08、4.12]、p = 0.0417
●ADCS-ADL合計スコア アクティブ群ではシャム群と比較して、べースラインからの低下が77%抑制
Δ LS Mean[SE] :6.61(1.842)、95%CI:[2.98、10.23]、p = 0.0004
●MRI全脳容積 アクティブ群ではシャム群と比較して、全脳容積の損失(脳萎縮)が69%減少
Δ LS Mean[SE]:11.93(3.97)cm3、95% CI: [3.87, 19.99]、p = 0.0049


40Hzのガンマ振動の音・光刺激によるアルツハイマー病患者への6ヶ月間の臨床試験では、主要評価項目のMADCOMSでシャム群との統計的な有意差なし、有効性を示すことができていません。
後付(探索的)の副次評価項目の解析で、ADCS-ADL、MMSE、MRI全脳容積で、アクティブ群とシャム群で統計的な有意差あり。
今回の臨床試験では、残念ながら有効性を示したとは言い難い結果です。
エンドポイントの検討を含めて、今後の臨床試験に期待したいと思います。
まとめ

ガンマ波は人の脳内で最も速い脳波であり、多数のニューロンから発せられる同期した電気パルスによって生成され、約25~100Hzの周波数で共鳴します。
ガンマ波は、感覚情報の統合、注意、知覚、記憶などの高次機能に不可欠であると考えられます。
このガンマ波の乱れは、統合失調症、てんかん、自閉症、アルツハイマー病などの多くの神経疾患と精神疾患に関係しています。
ガンマ波領域における健全な振動を促進することは、アルツハイマー病治療の有望な標的になると考えられます。
ガンマ振動(40Hz)が、グリンファティック系を活性化し、アルツハイマー病の病態に対する神経保護作用を発揮すると考えられています。
ただし、40Hzのガンマ振動の音・光刺激によるアルツハイマー病患者への6ヶ月間の臨床試験では、主要評価項目のMADCOMSではシャム群との統計的有意差なし、有効性を示すことができていません。



