漢方薬が効かない エキス剤は効果が弱いのか?
病院で漢方エキス剤を処方されて、飲まれている方は多いのではないでしょうか?
漢方薬を処方する場合には、病名や症状から漢方薬を選ぶのではなく、「証(体質・病気の本質)」を判断して、それに合った処方を選ぶことが非常に重要となります。
日本で行われる漢方治療は、中医学ベースなのか日本漢方ベースなのか(日本漢方にも古方派、後世派など流派が存在します)、それとも西洋医学ベースなのかで、漢方処方が大きく違ってきます。
西洋医学ベースで、病名で漢方薬を処方している場合には、その価値を大きく損なっていると思われます。
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漢方を専門にしている先生でも、日本漢方派の先生と中医学派の先生では、用いる漢方薬の処方が大きく異なります。
漢方は日本独自で発展した医学
6世紀頃、中国の医学が日本に伝わり、江戸時代の鎖国により、中国からの情報が途絶え、日本漢方は独自の発展を遂げることなりました。
明治8年、医療を行なう者は西洋医学を学んだ医師に限られ、日本漢方は医学の表舞台から姿を消しました。
昭和51年、43種類の漢方処方が医療用漢方製剤として薬価収載されました。それ以降、適用範囲が拡大されて、現在148種類の漢方処方が保険適用となっています。
中国の中医学とは、使用する薬剤や処方は類似したものがありますが、考え方や理論はかなり違うものとなっています。
中医学の弁証論治(べんしょうろんち)
中医学は陰陽五行学説などに基づいた、基礎理論のある医学体系となっています。
基礎理論に基づいた弁証論治が行われます。
八綱弁証、気血弁証、臓腑弁証、病邪弁証などから、原因と病態を判断した上で、治療していきます。
【弁証】「証」を自・他覚症状を基に見極め、どのような「証」であるのかを判断します。
【論治】その「証」を基に治療法としての漢方処方を論じ治療します。
この中医学の基礎理論を学ぶことは、非常に時間がかかり大変ですが、それがわかれば理論的な弁証ができるようになります。
日本漢方の方証相対(ほうしょうそうたい)
日本漢方では【方証相対】「この証があればこの方剤を用いる」という考え方が定着しています。
つまり先人の経験の蓄積を口訣によって伝えています。「〇〇のような状態の証には、〇〇湯がよい」
初心者にはとっつきやすく、簡便に学べます。
患者の病態が、この漢方薬の証に一番近いかなという感じで、漢方薬の方剤を選ぶことになります。
しかし、なぜその病態に用い、なぜ効果があるのか?という理論がなく、もし効果がでなければ、方剤を見直すことが難しいと思われます。
日本漢方は独自に発展する中で、臓腑弁証をなくしてしまったことが、一番の欠点ではないかと思います。
漢方エキス剤とは?
エキス剤は、病院でよく処方される、ツムラの〇番で馴染みの深い漢方薬です。
〇〇湯という処方の煎じ液を乾燥(フリーズドライ)して、乳糖などの賦形剤を加えて粉薬や錠剤にした製剤です。
簡単にいえば、インスタントコーヒーと同じです。お湯に溶かせば、もとの煎じ液に戻るというわけです。
エキス剤の漢方薬を、そのまま口に入れて水で飲む方がいますが、インスタントコーヒーをお湯で溶かさず、口の中にいれて水で流し込むようなものです。
基本的にはお湯で溶かして、煎じ液の状態に戻して、飲まれることをおすすめします。
〇〇湯という名前の方剤
葛根湯・補中益気湯・大建中湯など。生薬をお湯で煮出した後の煎じ液を服用します。
〇〇散という名前の方剤
五苓散・四逆散・当帰芍薬散など、生薬を粉砕して原末散として服用します。
これらの方剤は、本来は煎じ薬ではありません。
しかしエキス剤として製造されているのは、煎じ液をフリーズドライした製品です。
〇〇丸という名前の方剤
八味地黄丸・牛車腎気丸・桂枝茯苓丸など。生薬を粉砕して原末散とした後、蜂蜜を加えて丸剤をつくり服用します。
このような方剤は、本来は煎じ薬ではありません。
しかしエキス剤として製造されているのは、煎じ液をフリーズドライした製品です。
〇〇散という名前の漢方薬は、当然本来の原末散にした方が効果があると考えられます。
〇〇丸という名前の漢方薬は、当然本来の丸剤にした方が効果があると考えられます。
また生薬という自然のものを原料とするため、その品質は一定になりません。
さらに、〇〇湯という方剤に配合されている生薬の種類と量は、各メーカーによって違う場合があります。
意外と知られていないのですが、漢方薬は臨床試験がされずに、保険適用が認められている医薬品です。
このような理由から、漢方薬のエキス剤の中には効き目が悪いと感じるものがあります。
しかし経験則でしかなく、どのメーカーのどの製品がということは正確にはわかりません。
煎じ薬の方が効果が高いのか?
一般的には、エキス剤より煎じ薬の方が、効果が高いと考えられています。
また構成生薬の量を多くすることで、少しぐらい「証」がはずれていても、効果を出すことができるという考え方もあります。
しかし煎じ薬の原料となる生薬の品質はピンキリであり、用いる生薬によっても大きく結果が違ってきます。
また現代人の生活では、毎日時間をかけて煎じ薬をつくることは、非常に負担となります。
持ち運びができ、飲みたい時にすぐ飲めるので、エキス剤の方が利便性が高いのです。
まとめ
漢方薬が効かない1番の原因は、「証」が合っていないことです。
特になかなか効果がでない場合には、基礎理論があり弁証論治を行う中医学の方が、経験則に基づく方証相対を行う日本漢方より、優れていると思われます。
「証」が合っている場合には、エキス剤でも十分効果がでますので、最初から無理に煎じ薬を飲む必要はありません。
メーカーにより配合されている生薬の種類や量が異なるので、同じ名前のエキス剤でも、メーカーにより効果の違いがあります。
また〇〇散や〇〇丸という処方のエキス剤は、本来の特性とは違う”煎じ薬のエキス剤”として製品化されています。
「証」が合っていることが前提ですが、エキス剤を飲んで効果がない場合には、煎じ薬や原末散・丸剤の製剤への変更も検討する必要があります。