多感覚統合とペリパーソナルスペース

多感覚が捉える世界
日本音響学会誌 77 巻 3 号(2021),pp. 180–185
感覚統合が創る知覚世界
日本音響学会誌 77 巻 3 号(2021),pp. 208–214
空間認知の身体化過程とその機序をめぐって
専修人間科学論集 心理学篇 Vol.1, No.1, pp.61~69, 2011
Peripersonal space in the front, rear, left and right directions for audio-tactile multisensory integration
Sci Rep. 2021 May 28;11(1):11303. doi: 10.1038/s41598-021-90784-5
多感覚統合

感覚モダリティとは、私たちが五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を通して外界から情報を得る方法を指します。
それぞれの感覚器官で異なる情報を処理し、それが脳で統合されることで、私たちが外界世界を認識する基盤となっています。
個々の感覚モダリティが運ぶ情報には、二つの種類があります。
一つは、各感覚モダリティに固有の情報、すなわち視覚なら視覚、聴覚なら聴覚でしか伝達できない情報です。
そして、もう一つが、空間・時間・質感のように、様々な感覚モダリティに共通して存在する情報があります。
例えば、空間位置を示すためには、視覚的に指差ししても、声で呼んでもよいし,頭や膝のような身体部位であれば触って触覚的に伝えることもできます。
このように複数の感覚モダリティに共通して存在する情報(時間・空間・質感など)は、異なる感覚モダリティ間を結ぶための非常に重要な手掛かりとなります。
例えば、空間における視覚と聴覚の感覚統合においては、視覚の空間情報の精度が高い時には、視覚刺激の空間位置の判断は聴覚刺激の影響を受けません(視覚優位)。
しかし、視覚刺激の空間情報の不確かさが増大すると、聴覚刺激の情報の影響を受けるようになります。
視覚優位の統合は絶対的なものではなく、聴覚の方が信頼性が高い時には聴覚に重みづけをした情報統合が行われます。
つまり、人間の脳は、その時々で信頼性の高い情報に重みづけをした最適な感覚統合を行っていると考えられます。
また、感覚情報の統合において、時間情報の処理も重要となります。
多感覚間の同時性知覚(同期)、すなわち視覚・聴覚・触覚など感覚モダリティ間で、知覚時間のズレに対して同時と判断されるのかどうかは重要となります。
空間情報が同時性知覚に影響を与えることがわかっており、手足が届く身体周辺空間の方が、知覚時間のズレに対して同一事象と知覚されやすくなります。
多感覚ニューロン
通常、視覚情報は後頭葉の1次視覚野、聴覚は側頭葉の1次聴覚野、触覚は頭頂葉の1次体性感覚野で処理されます。
しかし、脳には、視覚・聴覚・触覚など異なる感覚情報を統合する「多感覚ニューロン」が存在します。
多感覚ニューロンは、複数の感覚刺激が同時に入力された時に、ニューロンの発火率が増加して、統合された知覚を生じるようになります。
多感覚ニューロンは、上丘や高次脳領域で統合されると古典的には考えられてきました。
しかし、最近の研究では、1次感覚野のような比較的低次の皮質領域にも多感覚ニューロンが存在することが明らかとなっています。
多感覚ニューロンは、視覚野、聴覚野、体制感覚野にそれぞれ存在し、1次視覚野と1次聴覚野の間に位置する2次視覚野などに特に多いことがわかっています。
つまり、感覚情報は低次の皮質領域からお互いに相互作用して、段階的に統合処理されている可能性があります。
空間認知の身体化過程とペリパーソナルスペース

私たちが環境内に存在する物体や事象に対して適切な反応をするためには、自己の身体を中心とした空間の知覚を行う必要があります。
身体を中心とした空間表象は大別して、身体そのものにより規定される個人内空間(パーソナルスペース)、身体を直接取り巻く身体近傍空間(ペリパーソナルスペース)、そしてそれ以上に離れた身体外空間(エクストラパーソナルスペース)の3つに区分されます。
ペリパーソナルスペースについては、関連記事をご参照ください ↓
ペリパーソナルスペースは、単一の空間ではなく、各身体部位ごとにコード化された複数の領域の集合体により構成されています。
身体部位の ペリパーソナルスペースの表象には 、3 種類 (体幹、手、顔)があり、サイズは手が最も小さく、顔が大きく、体幹が最も広い空間に分布しています。
体幹のペリパーソナルスペースは、前後・左右にサイズがほぼ同じで、体幹の周囲をほぼ円形に覆っていることが示されています。
ペリパーソナルスペースの表象が生じるメカニズムは、ボトムアップ的な情報により多感覚ニューロンが活性化されると考えられます。
感覚モダリティの機能性により、その領域の特性や大きさも動的に変化しています。
通常、ヒトやヒト以外の霊長類は、エクストラパーソナルスペースに置かれた物体に触れることができません。
エクストラパーソナルスペースでは、触覚知覚による情報が入力されないと考えられます。
つまり、ペリパーソナルスペースは、多感覚ニューロンが活性化されて、視覚や聴覚だけでなく触覚情報も統合されている空間であり、それがエクストラパーソナルスペースとの違いと考えられます。
ペリパーソナルスペースは、明らかにエクストラパーソナルスペースとは異なる役割を持っています。
脳が自己と認識しているのは、パーソナルスペース(皮膚の内側)ではなく、ペリパーソナルスペースになります。
つまり、私たちの身体は、皮膚に覆われた内側だけに存在するのではなく、皮膚の外側の空間にも広がっていることになります。
ペリパーソナルスペースによって、自己と外界環境との線引きが動的にされていることになります。
ペリパーソナルスペース内にある物や人などを、自己(自分の体の一部)と認識させることも可能となります。
まとめ

複数の感覚モダリティに共通して存在する情報(時間・空間・質感など)は、異なる感覚モダリティ間を結ぶための非常に重要な手掛かりとなります。
脳には、視覚・聴覚・触覚など異なる感覚情報を統合する「多感覚ニューロン」が存在します。
多感覚ニューロンは、上丘や高次脳領域で統合されると古典的には考えられてきました。
しかし、最近の研究では、1次感覚野のような比較的低次の皮質領域にも多感覚ニューロンが存在することが明らかとなっています。
身体を中心とした空間表象は大別して、身体そのものにより規定される個人内空間(パーソナルスペース)、身体を直接取り巻く身体近傍空間(ペリパーソナルスペース)、そしてそれ以上に離れた身体外空間(エクストラパーソナルスペース)の3つに区分されます。
ペリパーソナルスペースの表象が生じるメカニズムは、ボトムアップ的な情報により多感覚ニューロンが活性化されると考えられます。
ペリパーソナルスペースは、感覚モダリティの機能性により、その領域の特性や大きさも動的に変化しています。
ペリパーソナルスペースは、多感覚ニューロンが活性化されて、視覚や聴覚だけでなく触覚情報も統合されている空間であり、それがエクストラパーソナルスペースとの違いと考えられます。
脳が自己と認識しているのは、パーソナルスペース(皮膚の内側)ではなく、ペリパーソナルスペースになります。
ペリパーソナルスペースによって、自己と外界環境との線引きが動的にされていることになります。
ペリパーソナルスペース内にある物や人などを、自己(自分の体の一部)と認識させることも可能となります。



