ファシアリリース「張力と反力」

ファシアリリースの手技を行う場合、相手との信頼関係、力の伝え方(力の強さやベクトル)は非常に重要となります。
そして、「張力」と「反力」をうまく利用することがポイントとなります。
固有受容感覚と痛み

私たちの生命が恒常性を維持するためには、外部環境と内部環境の変化を感知して、それに対応することは非常に重要となります。
私たちには、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の5つの基本的な感覚(五感)があり、外部の世界を認識して、脳に情報を送っています。
またさらに、固有受容感覚と呼ばれる、空間における自分の身体の位置や動き、筋肉の緊張と力の入れ具合などを伝達する感覚があります。
固有受容感覚については、関連記事をご参照ください ↓
関節、筋肉、腱、靭帯、皮膚、ファシアなど、体あるセンサー(固有受容器)からの感覚情報を使用します 。
筋肉や腱の固有受容器には、筋紡錘とゴルジ腱器官があり、関節の動きに関する受容器には、関節包にあるルフィニ小体・パチニ小体などがあります。
筋紡錘やゴルジ腱器官の働きついては、関連記事をご参照ください ↓
ルフィ二小体やパチニ小体については、関連記事をご参照ください ↓
固有受容のメカニズムは、筋肉や関節が受ける機械的な力を電気信号に変換するメカノトランスダクションが行われています。
この固有受容器が検出した情報をもとに、体がどのように動いているのか、変化しているのかを私たちは知覚しています。
メカノトランスダクションについては、関連記事をご参照ください ↓
固有受容感覚など身体内部の情報は、外部からの知覚情報と統合されて、ペリパーソナルスペース(身体周辺空間)で脳が身体イメージとして把握しています。
ペリパーソナルスペースについては、関連記事をご参照ください ↓
痛みという症状を不都合な身体的な異常のように捉えている方が多いのですが、痛みは本来、私たちの体を守るための主観的な知覚です。
痛みというのは、即座に防御反応を引き起こし、体に損傷を与える可能性のある危険を回避するための感覚です。
不動による拘縮が起こると、侵害受容による痛みの知覚が活性化されます。
これは、ボディマッピング(脳の身体イメージ)がぼやけている(部分的に不鮮明になる)と、潜在的な損傷の予測が低下するため、痛みの閾値の低下が警告システムとして機能するからです。
つまり、本来は動くべき身体部位であっても、しばらく動かしていないと、脳の身体イメージとして、動かいない部位と認識してしまいます。
そして、その部位を動かそうとするると、脳は動かない部位が動くことに対して危険を感じて、痛みという警告の感覚を伝達します。
痛みとボディマッピング(身体所有感)については、関連記事をご参照ください ↓
拘縮とファシアの関係

不動による拘縮が起こるのは、ファシアが脱水して、捻れて縮こまった状態になっていることが一番の原因です。
ファシアのコラーゲン原線維の力学は、水和の程度に大きく依存し、結合水の損失(脱水)は原繊維の収縮につながり、それに応じて機械的特性に影響を及ぼします。
ファシアの水和については、関連記事をご参照ください ↓
ファシア本来のテンセグリティ構造による張力の伝達ができなくなり、機能が低下して動かせなくなっています。
ファシアの張力の伝達ができなくなると、神経の伝達や体液(血液やリンパ液)の循環も悪くなります。
ファシアのテンセグリティについては、関連記事をご参照ください ↓
ファシアの情報伝達と体液循環については、関連記事をご参照ください ↓
ファシアリリースとは、コラーゲン線維を機械的な力で引き剥がすことではなく、ファシアが正常に水和した状態を回復することです。
テンセグリティ構造による張力ネットワークを回復して、情報伝達する機能を高めます。
そうすることで、脳の身体イメージ(ボディマッピング)も書き換えられて、拘縮や痛みの症状も改善することができます。
ファシアリリースについては、関連記事をご参照ください ↓
ファシアリリースの手技

内力と外力
「内力」とは、私たちの身体内部から生み出される力のことです。
「外力」とは、私たちの身体の外部から作用する力のことです。
通常、「外力」が加えられると、私たちの身体は危険を察知して、身体を守ろうとする防御反応が現れます。
施術者が普通に接触して押したり、引っ張ったり、もみほぐしたりすると、それは「外力」を加えることになって、防御反応を引き起こします。
筋肉、靱帯、関節などのファシア(結合組織)が伸張されて生まれる「張力」は、骨(骨膜)にも力が伝達されています。
ファシアのネットワークによって生まれる「張力」は、身体内部から生み出される「内力」になります。
作用と反作用
運動の第3法則に「作用反作用の法則」があります。
二つの物体が互いに力(作用)を及ぼし合う場合、その力は同じ大きさで反対方向に作用します。
一方だけが他方へ力を及ぼすことはなく、必ずその反作用が存在することになります。
施術者が接触して力を伝える場合、相手に加えた力と同じ大きさで反対向きの力「反力」を受けることになります。
作用が起これば、必ず反作用が起こり、そこには「反力」が生まれてきます。
力がちょうど釣り合う(拮抗する)状態をつくると、相反する力が同時に存在して、押しながら引っ張るという「張力」が生まれてきます。
ファシアのネットワークを使って「張力」でつながりをつくることができます。
「張力」を使って相手に接触して力を伝達することで、防御反応を起こさせない施術を行うことできます。
ファシアのコラーゲン分子は、3重らせんの規則正しい配列を有しており、「張力」によって電気を発生する圧電性の特徴を示します。
組織を動かしファシアに「張力」が生まれると、微小な生体電気が発生します。
圧電性については、関連記事をご参照ください ↓
発生する電気エネルギーが、水和する水分子のコヒーレント振動を増幅して、ファシアの水和状態を変化させます。
水和状態が変化することで、コラーゲン繊維の機械的変形も起こし、拘縮などの症状を改善することができます。
水分子のコヒーレンスについては、関連記事をご参照ください ↓
まとめ

通常、「外力」が加えられると、私たちの身体は危険を察知して、身体を守ろうとする防御反応が現れます。
施術者が普通に接触して押したり、引っ張ったり、もみほぐしたりすると、それは「外力」を加えることになって、防御反応を引き起こします。
ファシアのネットワークによって生まれる「張力」は、身体内部から生み出される「内力」になります。
運動の第3法則に「作用反作用の法則」があります。
施術者が接触して力を伝える場合、相手に加えた力と同じ大きさで反対向きの力「反力」を受けることになります。
力がちょうど釣り合う(拮抗する)状態をつくると、相反する力が同時に存在して、押しながら引っ張るという「張力」が生まれてきます。
ファシアのネットワークを使って「張力」でつながりをつくることができます。
「張力」を使って相手に接触して力を伝達することで、防御反応を起こさせない施術を行うことできます。



