「パチニ小体」振動と皮膚共鳴

「パチニ小体」振動と皮膚共鳴

「パチニ小体」振動と皮膚共鳴

【この記事のまとめ】
私たちは触覚を通じて、外界との力学的相互作用を認識しています。力学的相互作用の1つに振動があり、基本的にモノに触れた際に振動は発生します。

私たちは静的な圧に比べて振動に対して敏感であり、特に250 Hz 程度の振動に対して最も感度が高くなります。

皮膚は200~250Hzで共鳴し、パチニ小体の求心性神経が最も敏感な周波数と一致します。

パチニ小体は皮膚の奥深く(皮下組織)にあり、境界がはっきりしない大きな受容野を持っています。

また、骨膜、骨間膜、内臓など深部組織にも広く分布しており、ファシアのコラーゲン線維を伝播してくる振動を捉える働きをしています。

パチニ小体の感度特性である高周波の振動は皮膚表面を広がり、さらに骨膜のパチニ小体の求心性神経を活性化する可能性があります。

シナプス後電位の加重には時間的加重と空間的加重があります。パチニ小体はどちらの特性も示します。

 

皮膚は外部からの刺激を真っ先に受けるところであり、自己と環境との境界としての役割をしています。

境界としての皮膚の感覚は、「自己意識」と深い関わりを持っています。

皮膚の感覚を失うと、「私」という自己を認知できなくなってしまう可能性があります。

 

視覚では網膜にある複数の感覚センサーが異なる色に対して感覚を持つように、触覚での皮膚の感覚センサーにも種類があります。

皮膚の表面に密集しているセンサーや皮膚の深い所に点在するセンサーなど、異なる構造と分布をしています。

また、ゆっくりとした変形に応答するセンサー、高周波の振動に応答するセンサーなど、種類によって特徴が異なります。

 

 

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「記憶と自己」海馬とトラウマとアルツハイマー

触覚と皮膚の特性

「パチニ小体」振動と皮膚共鳴

「パチニ小体」振動と皮膚共鳴

私たちの皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3層で構成されています。

皮膚には、メルケル細胞・マイスナー小体・ルフィ二小体(終末)・パチニ小体の4種類の低閾値機械受容器があります。

これらは存在する場所や形状、大きさ、受容できる刺激の種類、刺激への応答性などが異なります。

皮膚への刺激に対する「順応の速さ」と「受容野の広さ」から以下のように分類されます。

順応の速さは、刺激を加えた瞬間にのみパルス信号を出力する受容器はRA(Rapid Adapting)型、刺激を加えた瞬間だけでなく刺激を加え続けている間もパルス信号を出力する受容器はSA(Slow Adapting)型に分類されます。

受容野の広さは、受容野が狭いものをI型、受容野が広いものをII型に定義されます。

 

持続的な圧力(静的な刺激)に反応して、ゆっくりと順応するSAタイプには、 I 型(メルケル細胞)および II型 (ルフィニ小体)の低閾値機械受容器があります。

振動など動的な刺激に反応して、順応が速いRAタイプは、刺激の開始と停止時に応答して、Ⅰ型 (マイスナー小体)および II 型(パチニ小体)の低閾値機械受容器があります。

SA I (メルケル細胞)および RAI (マイスナー小体)は皮膚表面近くに位置し、小さく明確な受容野を持っています。

SA II (ルフィ二小体)およびRA II(パチニ小体) 受容体は皮膚の奥深くにあり、境界がはっきりしない大きな受容野を持っています。

 

人間の皮膚の低閾値機械受容器は、さまざまな環境刺激に関する重要な情報を提供します 。

糖尿病やパーキンソン病などの病気が原因で、このフィードバックシステムが機能しなくなると、歩行のバランスが悪化することがよくあります。

位置や大きさだけでなく、刺激の振動数や振幅における敏感な帯域、皮膚表面温度の影響の有無(例えば、パチニ小体は低温では感度が低下)など特性に差異があり、4つの低閾値機械受容器には役割分担があると考えられます。

 

皮膚の低閾値機械受容器については、関連記事をご参照ください ↓

「優しいタッチの神経伝達」触覚とメカノセンサー

振動に関わる皮膚特性

「パチニ小体」振動と皮膚共鳴

振動に関わる皮膚特性,触知覚,運動特性

バイオメカニズム学会誌,Vol. 41,No.1(2017)

 

私たちは触覚を通じて、外界との力学的相互作用を認識しています。

対象との接触や、対象の形状、テクスチャー、硬さ、温度などを感じ取ることができます。

力学的相互作用の1つに振動があり、基本的にモノに触れた際に振動は発生します。

 

振動と皮膚特性

私たちは静的な圧に比べて振動に対して敏感であり、特に250 Hz 程度の振動に対して最も感度が高くなります。

これは機械受容器のパチニ小体に関わる特性として知られています。

パチニ小体が皮膚の深部に分布しているにも関わらず、高感度を示します。

パチニ小体は膠原繊維(コラーゲン線維)に覆われており、膠原線維がひずみエネルギーを皮下組織に拡散させる働きをして、深部に伝えやすくしている可能性があります。

 

パチニ小体は、皮下組織のほか、深部組織にも存在します。

例えば、骨膜、骨間膜、内臓にも広く分布しており、固有受容器としてファシアのコラーゲン線維を伝播してくる振動を捉える働きをしています。

 

ファシアについては、関連記事をご参照ください ↓

ファシア(筋膜)のつながり

固有受容については、関連記事をご参照ください ↓

固有受容感覚とPIEZO

皮膚の共鳴周波数

「パチニ小体」振動と皮膚共鳴

The Effect of Surface Wave Propagation on Neural Responses to Vibration in Primate Glabrous Skin

PLoS One. 2012;7(2):e31203. doi: 10.1371/journal.pone.0031203. Epub 2012 Feb 13.

 

接触している皮膚で発生した振動は、対象と接触していない皮膚にも伝わり、この振動が触知覚に無意識に使用されている可能性があります。

振動の減衰は刺激の周波数に依存します。

振動は中間周波数よりも低周波数と高周波数 (例えば、20 と 1000 Hz)でより急速に減衰し、 200 ~250 Hz で最も減衰が遅くなります。

皮膚が200~250Hzで共鳴することを示しており、パチニ小体の求心性神経が最も敏感な周波数と一致します。

例えば、10 μm・250 Hz の刺激は、刺激部位から 6 cm 離れたパチニ小体の求心性神経を活性化します。

 

刺激面積が増加すると知覚閾値が下がる現象(空間的加重)があります。

40 Hz 以上で空間的加重がみられ、40 Hz 未満ではそれがみられないことが知られています。

特にパチニ小体の感度特性の周波数 200~300 Hzでは、空間的加重が最も見られるようになります。

パチニ小体の感度特性である高周波の振動は皮膚表面を広がり、さらに骨膜のパチニ小体の求心性神経を活性化する可能性があります。

 

パチニ小体は200~250Hzの刺激を繰り返し与えた時に閾値が最低となります(時間的加重)。

非常に感度がよく、最小閾値は0.2μm以下となります。

日常生活で微小刺激の存在を感じ取っているのは、主にパチニ小体であると考えられます。

 

神経の伝達とシナプス後電位

「パチニ小体」振動と皮膚共鳴

 

ニューロン(神経細胞)は、静止状態興奮状態の2つの状態をとります。

静止状態では能動輸送によって膜の内側に Kイオンが、外側に Naイオンが多く分布し、内側が「負」に外側が「正」に帯電しています。

この状態で生じる電位差を「静止電位」といい、細胞の内側が外側に対し-60mVになります。

 

膜電位(静止電位)については、関連記事をご参照ください ↓

「生命と電気エネルギー」膜電位とATP

ニューロンが刺激を受けるとその部分で細胞膜内外の電位が瞬間的に逆転し、隣接部とおよそ100mVの電位差が生じます。

この電位変化を活動電位といい、活動電位が発生することを「神経の興奮」といいます。

興奮が起こる最小の刺激の強さを「閾値」といいます。

 

活動電位(電気信号)として軸索を通って伝導してきた興奮は、シナプスで化学信号(神経伝達物資)に置き換えられて、次のニューロンを興奮させます。

神経終末と呼ばれる軸索の末端と次のニューロンの樹状突起の間には、「シナプス間隙」と呼ばれる隙間があり、活動電流が直接的に伝導しない構造になっています。

電気的な全か無かの信号を、段階的なシナプス電位に変換するのは、いろいろな修飾を可能にするためと考えられています。

 

興奮性シナプス後電位(Excitatory Post Synaptic Potential:EPSP)の加重

1つのニューロンから複数のニューロン、あるいは複数のニューロンから1つのニューロンへといった形でシナプス結合をしています。

興奮性シナプスでは、シナプス前ニューロンの興奮に対してシナプス後ニューロンが必ず興奮(発火)するわけではありません。

次のニューロンで活動電位が生じるためには、多数のシナプス入力を受けて、EPSPが加重されることが重要となります。

シナプス電位の加重には時間的加重と空間的加重があります。

1つのシナプス電位は一定の間隔で刺激を加えると、どんどん興奮性が高まります。これを時間的加重といいます。

1つのニューロンは複数のシナプス結合を受けているため、同時に多数の刺激が加わると興奮性が高まります。これを空間的加重といいます。

 

まとめ

「パチニ小体」振動と皮膚共鳴

 

私たちは触覚を通じて、外界との力学的相互作用を認識しています。力学的相互作用の1つに振動があり、基本的にモノに触れた際に振動は発生します。

私たちは静的な圧に比べて振動に対して敏感であり、特に250 Hz 程度の振動に対して最も感度が高くなります。

皮膚は200~250Hzで共鳴し、パチニ小体の求心性神経が最も敏感な周波数と一致します。

 

パチニ小体は皮膚の奥深く(皮下組織)にあり、境界がはっきりしない大きな受容野を持っています。

また、骨膜、骨間膜、内臓など深部組織にも広く分布しており、ファシアのコラーゲン線維を伝播してくる振動を捉える働きをしています。

パチニ小体の感度特性である高周波の振動は皮膚表面を広がり、さらに骨膜のパチニ小体の求心性神経を活性化する可能性があります。

シナプス電位の加重には時間的加重と空間的加重があります。パチニ小体はどちらの特性も示します。

 

 

「パチニ小体」振動と皮膚共鳴