「筋膜リリース」ヒアルロン酸の特性とコラーゲン線維の粘弾性

「筋膜リリース」ヒアルロン酸の特性とコラーゲン線維の粘弾性

「筋膜リリース」ヒアルロン酸の特性とコラーゲン線維の粘弾性

【この記事のまとめ】
不動や炎症により筋膜の基質(ヒアルロン酸)濃度が上昇して高密度になると、流体粘度が上がります。

基質ゲルの粘度の上昇は、コラーゲン線維の滑走性を低下させ、コラーゲン線維の高密度化により血液やリンパ液などの循環障害を引き起こします。

循環障害により温度が低下すると、さらに基質ゲルの粘度が増加します。

筋膜リリースとは、持続する穏やかな圧と伸張により、基質(ヒアルロン酸など)の高密度化を解消してゾル化します。

水和したコラーゲン線維のネットワーク構造では、バイオテンセグリティーが働きます。

ゆっくりとした力が加えられることで、ネットワーク内に力が散逸して、コラーゲン繊維が粘性変形して再編成されます。

リモデリングによりコラーゲン線維の高密度化が解消され、筋膜の可動制限がリリースされます。

筋膜をリリースすることで、バランスの取れた姿勢における筋骨格系全体の身体平衡(テンセグリティー)がつくられます。

 

細胞外マトリックスのバイオテンセグリティー

「筋膜リリース」ヒアルロン酸の特性とコラーゲン線維の粘弾性

 

細胞外マトリックス(extracellular matrix : ECM)は、皮膚から5層の筋膜そして骨膜あるいは組織まで、多原繊維ネットワークが身体全体に広がっています。

「筋膜リリース」ヒアルロン酸の特性とコラーゲン線維の粘弾性

図は 人の生きた筋膜の構造より 引用

 

細胞外マトリックスについては、関連記事をご参照ください ↓

細胞外マトリックスとスローエイジング

 

5層の筋膜の構造については、関連記事をご参照ください ↓

「筋膜リリース」コラーゲン線維の可塑性

 

細胞自体は、組織の連続性には関与しません。

体にある結合組織は、各ファシア(筋膜)が別々の層として滑走するわけではなく、全体的性質としての連続性があります。

細胞や組織を多原繊維ネットワークがつないでいるというより、むしろ多原繊維ネットワークの中に、細胞や組織が埋め込まれていると考えられます。

原繊維は全方向に不規則に走っていて、そのパターンがあらかじめ決められているわけでもありません。

 

「筋膜リリース」ヒアルロン酸の特性とコラーゲン線維の粘弾性

図は 生きた筋膜の構造 より引用

 

微小空胞をつくる動的な三次元の原繊維フレームは、主にⅠ型コラーゲン(約70%)とエラスチン(約20%)などで構成されます。

微小空胞に充填している水性の性質は、主に水和した基質のゲル(約70%)、Ⅰ型コラーゲン(約20%)などで構成されます。

原繊維ネットワークのフレームが微小空胞を囲み、その微小空胞には細胞やコラーゲン、基質(グリコサミノグリカンのヒアルロン酸など)で満たされています。

グリコサミノグリカンの強い負電荷によって、水分子が引きつけられ、微小空胞が水分保持されています。

これによって、微小空胞内部の圧力を維持し、圧縮力に対して抵抗を示します。

 

「筋膜リリース」ヒアルロン酸の特性とコラーゲン線維の粘弾性

図は 人の生きた筋膜の構造 より引用

 

原繊維ネットワークは、最初からすでに内因性張力を持っています。

牽引すると、原線維は引き伸ばされて、長くなります。

さらに牽引すると、原繊維は2本、3本、4本と小さい原繊維に分裂していきます。

エネルギーの分布が同時にいくつかの原繊維に広がり、力を拡散せて効率的に吸収されます。

バイオテンセグリティーによって、牽引に対して、伸長・分裂・再配置を行い、局所の圧力上昇を防いで、力を拡散させて吸収します。

 

テンセグリティ―とバイオテンセグリティ―については、関連記事をご参照ください ↓

「テンセグリティー」ホメオスタシスのかたち

ヒアルロン酸の物理化学的特性

「筋膜リリース」ヒアルロン酸の特性とコラーゲン線維の粘弾性

Viscoelastic Properties of Hyaluronan in Physiological Conditions

F1000Res. 2015 Aug 25;4:622. doi: 10.12688/f1000research.6885.1

「筋膜リリース」ヒアルロン酸の特性とコラーゲン線維の粘弾性

 

ヒアルロン酸は、細胞外マトリックス(ECM)の高分子量グリコサミノグリカンポリマーです 。

β-1,3およびβ-1,4グリコシド結合によって接続された、D-グルクロン酸とN-アセチルD-グルコサミンの二糖の繰り返し構造で構成されています。

健康な組織では、ヒアルロン酸の平均分子量は約600〜800万 で、代謝回転率は高いです。

 

ヒアルロン酸の物理化学的特性は、その濃度、分子量、溶媒イオン組成、温度、およびタンパク質や他の種との共有結合または非共有結合によって調節されます。

 

不動による粘度上昇

四肢または体の部分を固定すると、筋膜と筋肉およびそれらの間のヒアルロン酸濃度が上昇し、流体の粘度が上昇します。

不動による結合組織内の流体粘度の増加は、コラーゲン繊維の層間の滑走を減少させます。

また、コラーゲン線維の高密度化は、循環障害や神経伝導の阻害といった障害を引き起す原因となります。

循環障害による組織温度の低下が起こると、ヒアルロン酸のさらなる粘度を増加させます。

 

炎症による粘度上昇

損傷または他の病理学的な炎症が生じた場合、ヒアルロン酸がインターα阻害剤に由来する重鎖の共有結合を介して修飾されます。

炎症によりヒアルロン酸に共有結合の修飾が増加すると、その粘度を高めてしまいます。

 

筋膜性疼痛症候群(MPS)では、水分量の低下が起こってヒアルロン酸の粘度が上昇しています。詳しくは関連記事をご参照ください ↓

筋膜性疼痛症候群とファシアリリース

コラーゲン線維の粘弾性変形

「筋膜リリース」ヒアルロン酸の特性とコラーゲン線維の粘弾性

Inelastic behaviour of collagen networks in cell–matrix interactions and mechanosensation

J R Soc Interface. 2015 Jan 6;12(102):20141074. doi: 10.1098/rsif.2014.1074.

 

変形に対する細胞外マトリックスの耐性は、これらのネットワークが歪む速度に依存します。

速い速度の変形では、顕著な弾性挙動を示し、遅い速度の変形では、実質的に非弾性(粘性)の挙動への移行につながります。

速い速度で力が加えられると、細胞外マトリックスの変形に対して大きな抵抗を示し、ネットワーク内でのエネルギー散逸が最小限となって、ネットワーク内のコラーゲン線維の再編成が制限されてます。

ゆっくりとした力が加えられると、ネットワーク内のエネルギー散逸が強化され、コラーゲン繊維が粘性(液体のように)変形して再編成されます。

 

コラーゲン線維の密度と架橋、グリコサミノグリカン(ヒアルロン酸など)の組成、および水分含有量によっても影響を受けます。

 

コラーゲン線維の構造や架橋については、関連記事をご参照ください ↓

「筋膜リリース」コラーゲン線維の可塑性

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筋膜リリースによるコラーゲン線維のリモデリング

「筋膜リリース」ヒアルロン酸の特性とコラーゲン線維の粘弾性

 

持続する穏やかな圧と伸張により組織の温度やエネルギーの状態を高め、高密度化して粘度が高くなった基質(ヒアルロン酸)に、水和変化を起こさせてゾル化します。

基質の水和による粘度を低下により、バイオテンセグリティー(内因性張力構造)が働き、コラーゲン線維のネットワーク内に力が散逸して、コラーゲン線維が再編成されます

コラーゲン線維の粘性変形により、ネットワークの制限をリリースして、線維のリモデリングを行います。

 

細胞外マトリックスのバイオテンセグリティーが、バランスの取れた姿勢における筋骨格系全体の身体平衡(テンセグリティ―)をつくりだしています。

 

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ファシア(筋膜)のつながり

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まとめ

「筋膜リリース」ヒアルロン酸の特性とコラーゲン線維の粘弾性

 

不動や炎症により筋膜の基質(ヒアルロン酸)濃度が上昇して高密度になると、流体粘度が上がります。

基質ゲルの粘度の上昇は、コラーゲン線維の滑走性を低下させ、コラーゲン線維の高密度化により血液やリンパ液などの循環障害を引き起こします。

循環障害により温度が低下すると、さらに基質ゲルの粘度が増加します。

 

筋膜リリースとは、持続する穏やかな圧と伸張により、基質(ヒアルロン酸など)の高密度化を解消してゾル化します。

水和したコラーゲン線維のネットワーク構造では、バイオテンセグリティーが働きます。

ゆっくりとした力が加えられることで、ネットワーク内に力が散逸して、コラーゲン繊維が粘性変形して再編成されます。

 

リモデリングによりコラーゲン線維の高密度化が解消され、筋膜の可動制限がリリースされます。

筋膜をリリースすることで、バランスの取れた姿勢における筋骨格系全体の身体平衡(テンセグリティー)がつくられます。

 

「筋膜リリース」ヒアルロン酸の特性とコラーゲン線維の粘弾性