細胞外マトリックスとスローエイジング
私たちの体は約60~70%が水で占められており、体を構成する物質としては最も多く占めているのは水です。
私たちは皮膚で覆われた体を自分の体と思っているので、機械のような個体と考えてしまいますが、その構成からすれば人間の大部分は液体でできています。
体内の水が不足することを脱水症状と言います。
脱水症状が起きると、体温を調節する汗が出なくなり体温が上がってしまいます。また、汗や尿が出なくなるため体内に老廃物が溜まり、血液の流れが悪くなり、全身の機能が障害を起こしてしまいます。
1滴の水も摂らなければ、5日も生きることができません。
私たちが生命維持するためには、水分保持することが非常に重要です。
老化(エイジング)は乾燥による水分量の低下と関係があることがわかっており、体内の水分量を十分保つことが、スローエイジング(若さを保つこと)につながります。
たくさん水分を摂れば、体内の水分量が増えるかといけば、そうではありません。
体内に水分保持して、老化(エンジング)を防ぐには何が重要なのでしょうか?
細胞内から細胞外へ
現代西洋医学は、機械論とウィルヒョウの細胞病理学を基盤として発展してきました。
すべての疾患は器官をつくっている細胞に器質的な変化が現れると考え、疾患の原因追及をするようになりました。
現代西洋医学の特徴である機械論・細胞病理学については、関連記事をご参照ください ↓
そのため器官や臓器、そして組織など細胞からできる部分を追求してきましたが、細胞外(細胞と細胞の間にある)部分には、あまり注目をしてきませんでした。
しかし私たち多細胞生物においては、細胞から適切に組織や器官をつくっていくには、細胞のまわりの環境が重要であることがわかってきました。
細胞と細胞のつながり、組織と組織のつながり、器官と器官のつながり、つながりが失われると生命を維持することができません。
細胞そのものだけでなく、細胞外の環境・つながりから、人体というものを考えることが重要となります。
細胞外マトリックス Extracellular matrix(ECM)
細胞と細胞のつながりが保持されているのは、細胞外マトリックスと呼ばれる結合組織があるからです。
細胞外マトリックスの成分には、コラーゲンやエラスチンという繊維性タンパク質が多く、ムコ多糖タンパク質なども含まれます。
糖鎖(多糖)の機能については、関連記事をご参照ください ↓
細胞外マトリックスは、細胞間の調節機能を有し、様々な機能を果たしています。
細胞、組織、臓器、器官の支持安定と保護作用、そして異なる臓器や器官と癒着しないように文節の役割を果たしています。
血管を通して運ばれてきた酸素や栄養素は、細胞外マトリックスのムコ多糖タンパク質によって保持されている水分を水路として、各細胞に送られます。老廃物もこの水路を通って、血管に回収されます。
人体の1つ1つのすべての細胞と毛細血管はつながっておらず、酸素や栄養素を運び、老廃物を回収できるのは、細胞外マトリックスの水分が毛細血管とつながっているからです。
血管系やリンパ系だけでなく、細胞外マトリックスによっても、内循環が支えられています。
細胞外マトリックスの水分保持が、細胞の生命維持を支えているのです。
つまり細胞外マトリックスは、細胞のホメオスタシス(恒常性維持)に大きな役割を果たしています。
ホメオスタシス(恒常性維持)については、関連記事をご参照ください ↓
また細胞の分化や増殖、組織形成も細胞外マトリックスによって導かれています。
細胞外マトリックスによって、私たちの体は新陳代謝されているのです。
細胞外マトリックスによる細胞再生、線維化については、関連記事をご参照ください ↓
ムコ多糖タンパク質
ムコ多糖の「ムコ」というのは、ラテン語で「MUCUS=動物の粘液」を意味します。
私たちの身体の唾液や血液などの体液は、ヌルッとした特徴があり、この性質はムコ多糖が含まれているからです。
代表的なムコ多糖には、コンドロイチン硫酸・ヒアルロン酸・ヘパラン硫酸などがあり、名前を聞かれたことがあるのではないでしょうか?
ムコ多糖はスポンジのように水分保持する性質があります。
コンドロイチン硫酸は、1gで500mlの水を保持する能力、ヒアルロン酸は1gで5000mlの水を保持する能力があると言われています。
体内ではタンパク質と複合体をつくって、ムコ多糖タンパク質して細胞外マトリックスの成分として存在しています。
例えば、ストレッチのような筋肉を伸ばす運動では、ファシア(筋膜)が滑ることで柔軟に体を動かすことができます。
筋膜が癒着して滑走性が失われると、筋肉が拘縮して動きに制限がかかります。
ファシア(筋膜)の滑走性は、結合組織の保水性により支えられており、ムコ多糖タンパク質の働きが重要となります。
細胞外マトリックスであるファシア(筋膜)の働きについては、関連記事をご参照ください ↓
スローエイジングという考え方
アンチエイジングとは老化防止を意味しますが、人間は生まれてから少しずつ歳を重ねて、必ず死に向かっていく存在であり、本当の意味でのアンチエイジングは不可能です。
老化とうまく付き合いながら、ゆっくりと歳を重ねて、充実したライフスタイルを長く続けていけるようにすることが大切です。
老化とは乾燥への推移であり、高齢になれば体内の水分の占める割合が、50~55%くらいまで低下していきます。
20代後半ぐらいから、ムコ多糖タンパク質の体内での合成能力が落ちていくからです。
水分をしっかり摂取することも大切ですが、水分を保持する受け皿がなければ、水は流れて体外へ排出されていきます。
肌や髪の乾燥から、関節の動きの悪さまで、体内の水分量の低下を示すサインとなります。
体内の水分量が低下することは、老化現象のひとつだと考えられ、それによって新陳代謝が低下していきます。
水分保持を意識することは、老化のスピードをゆるやかにする「スローエイジング」につながります。
ヌルヌルネバネバしたものを食べると、体に精がつくと言われていますが、このような食材にはムコ多糖タンパク質が多く含まれています(ウナギ、スッポン、ナマコ、牛軟骨、フカヒレ、とんこつスープ、牛筋の煮込、ツバメの巣など)。
ではムコ多糖タンパク質の多い食材や、ムコ多糖タンパク質の健康食品をたくさん摂取すれば、解決するかといえばそれほど単純な話ではありません。
それこそ機械論による要素還元主義の考え方といえます。
摂ったムコ多糖タンパク質がそのまま吸収されて、体内で利用されるわけではないからです。
要素還元主義については、関連記事をご参照ください ↓
まずは運動して体を動かすことが一番重要です。
体を柔軟に動かすためにはファシアの滑走性(保水)が必要になり、体温調整のために汗をかくことは水分の必要性を高めます。
細胞外マトリックスでの水の内循環を活性化させることが、ムコ多糖タンパク質の体内での合成能力を高めてくれます。
腹式呼吸でゆっくり酸素を吸いながら、歩いて体を動かすします。ミトコンドリアでの内呼吸(細胞呼吸)による代謝が促進されて、代謝水の生成にもつながります。
内呼吸(細胞呼吸)については、関連記事をご参照ください ↓
まとめ
私たちが生命維持するためには、「空気」の次に大切なものが「水」といえます。
水分摂取することはもちろん、体内に水分保持することが重要であり、いかに水分保持できるかが、老化のスピードを遅らせるスローエイジングにつながります。
細胞外マトリックスは、体内の水分保持に重要な役割を果たしており、細胞の新陳代謝やホメオスタシス(恒常性維持)のための様々な機能を果たしています。
体を動かして歩くことは、細胞外マトリックスの保水機能を高めて内循環を活性化します。
細胞外マトリックスの剛性は、細胞骨格張力を誘発して、代謝やミトコンドリア機能を変化させます。詳しくは関連記事をご参照ください ↓