ラゲブリオ(モルヌピラビル)のリスクとベネフィット

ラゲブリオ(モルヌピラビル)のリスクとベネフィット

ラゲブリオ(モルヌピラビル)のリスクとベネフィット

【この記事のまとめ】
新型コロナウイルス感染症の経口治療薬として、ラゲブリオ(モルヌピラビル)が国内で特例承認されましたが、日本人に対してはほとんど有効性・安全性が評価されていません。

ワクチン未接種で、重症化リスク因子を持つ(肥満が大半)、発症5日以内の軽症又は中等症患者において、入院又は死亡の相対リスクを30%低下させました。

しかし、重症化リスク因子を個別にみると、肥満での有効性が高く、高齢者や糖尿病での有効性が低く有意差を示していません。

日本国内でのワクチン接種状況や、重症化リスク因子として高齢者が多いことを考えると、この海外での臨床試験結果は、日本国内での患者層に適合しないと考えられます。

モルヌピラビルが有益性を示す対象患者の幅は非常に狭く、服薬によって有害性を示す可能性があるので、安易な投与は避けるべきです。

メルク社の新型コロナウイルス感染症の経口薬「モルヌピラビル」は2021年11月4日に英国で初めて承認され、2021年12月23日には米国FDAでも緊急使用(EUA)が許可されました。

しかし、フランスでは効果が低いことを理由に緊急使用を認めず、メルク社からの購入注文を取り消しました。

 

2021年12月24日、日本国内でも米国FDAの緊急使用許可を受けて、「商品名:ラゲブリオ(Lagevrio)」として特例承認が認められました。

米国FDAでの緊急使用許可後、日本国内での特例承認という流れは、新型コロナウイルス感染症のワクチンや治療薬ベクルリー(レムデシビル)、ロナプリーブ(抗体カクテル)とまったく同じ流れです。

 

モルヌピラビルは、発症早期の軽症から中等症の患者が1日2回5日間服用することで、ウイルスの増殖を抑えて重症化を防ぐ効果があると言われています。

重症化リスクの高い人を対象とする臨床試験(治験)では、入院・死亡するリスクを30%下げる効果があると発表されています。

メルク社のリリース

 

しかし、緊急性を理由に、新型コロナウイルス感染症の関連薬は、通常の臨床試験が行われずに特例承認されるものばかりです。

そのリスクとベネフィットについては、慎重に正しく評価する必要があります。

 

 

ロナプリーブ(抗体カクテル療法)については、関連記事をご参照ください ↓

抗体カクテル療法「ロナプリーブ」 期待できない理由

核酸アナログ「モルヌピラビル」

ラゲブリオ(モルヌピラビル)のリスクとベネフィット

モルヌピラビル

ラゲブリオ(モルヌピラビル)のリスクとベネフィット

 

シチジン(RNAヌクレオシド)

ラゲブリオ(モルヌピラビル)のリスクとベネフィット

モルヌピラビルはもともとインフルエンザの治療用に開発されていた化合物で、N4-ヒドロキシシチジンのプロドラッグであり、シチジンの構造を化学修飾したアナログ(類似化合物)です。

ウイルスが複製する際に、本物のシチジンの代わりにアナログ化合物が取り込まれることで、転写エラーを発生させて変異を生じて機能不全を起こさせます。それによって抗ウイルス作用を示すと考えられています。

 

このような核酸アナログは、核酸塩基やヌクレオチドの構造を一部改変した形の医薬品として、抗がん剤や抗ウイルス剤などとして開発されてきた歴史があります。

新型コロナウイルス感染症の治療薬として特例承認されたベクルリー(レムデシビル)も核酸アナログです。

 

レムデシビル

ラゲブリオ(モルヌピラビル)のリスクとベネフィット

レムデシビルはアデノシンの構造を化学修飾したアナログ(類似化合物)であり、細胞内でリン酸化され、抗ウイルス活性を有する核酸アナログとなるプロドラッグです。

 

アデノシン(RNAヌクレオシド)

ラゲブリオ(モルヌピラビル)のリスクとベネフィット

アデノシンがリン酸化されたものが、アデノシン一リン酸(AMP)、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン三リン酸(ATP)であり、私たちの体内で「エネルギー通貨」となる物質であり、非常に重要な役割を担っています。

 

ATP(アデノシン三リン酸)については、関連記事をご参照ください ↓

「代謝と生命活動」異化と同化とエネルギー

ラゲブリオ(モルヌピラビル)の臨床試験

ラゲブリオ(モルヌピラビル)のリスクとベネフィット

 

モルヌピラビルは、新型コロナウイルス感染症の外来患者(MOVe-OUT)および入院患者(MOVe-IN)に対する試験を計画実施されていました。

MSDのニュースリリース(2021.4.15)

 

しかし、入院患者を対象としたMOVe-IN試験は、有効性を示せず第Ⅱ相パートで中止となっています。

致命的な有害事象が、プラセボ群 2/75例(2.7%)に対して、モルヌピラビル全用量群合計 14/218例(6.4%)と多く認められる結果となり、有益性がないと判断して中止に至りました。

米国FDA資料

 

外来患者を対象としたMOVe-OUT試験のみが、第Ⅲ相パートが実施されて、その結果により承認されています。

このことからも、モルヌピラビルが有益性を示す対象患者の幅は狭いと考えられ、服薬によって有害性を示す可能性があることがわかります。

 

モルヌピラビルの第Ⅱ/Ⅲ相 MOVe-OUT試験(MK-4482-002 試験)

ラゲブリオ(モルヌピラビル)のリスクとベネフィット

第Ⅱ相パート

(選択基準)

・SARS-CoV-2 陽性(無作為化前 7 日以内に採取された検体を用いた PCR 検査等により確認)

・SARS-CoV-2 による感染症の症状発現が無作為化前 7 日以内であり、かつ無作為化時点において SARS-CoV-2による感染症に関連する症状 が 1 つ以上認められる
中等症患者又は SARS-CoV-2 による感染症の重症化リスク因子を 1 つ以上有する軽症患者

・治験薬投与終了後少なくとも 90 日間避妊が可能な男性又は妊娠しておらず治験薬投与開始から 28 日間避妊が能な女性 

(重症化リスク因子)

60 歳超・活動性のがん・慢性腎臓病・慢性閉塞性肺疾患・形臓器移植による免疫抑制状態・ 肥満(BMI 30 以上)・ 重篤な心疾患(心不全、冠動脈疾患、心筋症等)・鎌状赤血球症・糖尿病

 

除外基準

SARS-CoV-2 による感染症に対するワクチンの接種歴を有する患者

 

ラゲブリオ(モルヌピラビル)のリスクとベネフィット

ラゲブリオのPMDA審査報告書

 

第Ⅱ相パートの結果を見る限り、主要評価項目「無作為化29日目までに理由を問わない入院又は死亡した被験者の割合」での有効性は非常に乏しいものであり、低用量の200㎎が最も有効性が高い結果となっていますが、最高用量800㎎でその後の第Ⅲ相パートが実施されています。

PCRの定量・定性評価による解析で、ウイルスRNA量のベースライン時からの減少幅が800㎎で最も高かったという、ウイルス学的評価により決定したと思われます。

 

第Ⅲ相パート

※選択基準の変更がされています

つまりプラセボ群と実薬群の差がでやすいように、対象患者を発症から5日以内に短縮し、COVID-19の転帰不良のリスクが高いと考えられる患者へと対象基準を変更して、その後の第Ⅲ相パートが実施されています。

 

(選択基準)

・SARS-CoV-2 陽性(無作為化前 5 日以内に採取された検体を用いた PCR 検査等により確認)
・SARS-CoV-2 による感染症の症状発現が無作為化前 5 日以内であり、かつ無作為化時点において SARS-CoV-2 による感染症に関連する症状 が 1 つ以上認められる
軽症患者又は中等症患者

SARS-CoV-2 による感染症の重症化リスク因子を少なくとも一つ有する

・治験薬投与終了後少なくとも 4 日間避妊が可能な男性又は妊娠しておらず治験薬投与終了後少なくとも 4 日間避妊が可能な女性

(重症化リスク因子)
60 歳超・活動性のがん・慢性腎臓病・慢性閉塞性肺疾患・肥満(BMI 30 以上)・重篤な心疾患(心不全、冠動脈疾患又は心筋症)・糖尿病

 

除外基準

・SARS-CoV-2 による感染症に対するワクチンの接種歴を有する患者
・本試験への組入れ理由となった今回の SARS-CoV-2 感染に対するモノクローナル抗体による治療歴を有する患者

 

ラゲブリオ(モルヌピラビル)の有効性

ラゲブリオ(モルヌピラビル)のリスクとベネフィット

Molnupiravir for Oral Treatment of Covid-19 in Nonhospitalized Patients

N Engl J Med. 2022 Feb 10;386(6):509-520. doi: 10.1056/NEJMoa2116044.

 

主要評価項目「無作為化 29 日目までに理由を問わない入院又は死亡が認められた被験者の割合」

モルヌピラビル800㎎群 48/709例(6.8%) 

プラセボ群 68/699例(9.7%)

相対リスク減少率 30%

絶対リスク減少率 2.9%

NNT  約35人

服薬した35人のうちの1人が、入院又は死亡しない恩恵を受け、その他34人にはベネフィットはない結果となっています。

 

相対リスク減少率・絶対リスク減少率・NNTについては、関連記事をご参照ください ↓

「高血圧治療のベネフィット」エビデンスに欠けるものとは

被験者が1つ以上有する重症化リスク因子は、肥満(BMI30以上)が約74%であり、高齢者が約17%、糖尿病が約16%となっています。

ラゲブリオ(モルヌピラビル)のリスクとベネフィット

重症化リスク因子を個別に分析すると、肥満(BMI30以上)での有効性が高く高齢者や糖尿病では効果が低く有意差を示していません。

モルヌピラビルは、ワクチン未接種で肥満(BMI30以上)患者の臨床試験成績であり、日本国内での重症化リスク因子を持つ患者層(高齢者など)には適合しないと考えられます。

 

3の法則(Rule of 3)

ラゲブリオ(モルヌピラビル)のリスクとベネフィット

 

一般的に臨床試験というのは、限られた使用症例で実施されるものであり、安全性に関しては不明な点がたくさんあります。

例えば、真の発生率が1000人に1人(0.1%)の副作用を、95%の確率で発見するためには、約3000人の症例が必要となります。

 

3の法則

真の発生率0.1%(1000人に1人)であるとすると、その逆数の1000を3倍した3000人にいないと、95%の確立で1人以上を発見できないという法則

 

通常、新薬開発のための症例数が1000人あれば、予測可能な副作用は検出できます。しかし、まれな副作用はほとんど見つかることはありません。

つまり発現頻度の低い副作用は確認できていません。

まれで重篤な副作用は、臨床試験ではほとんど見つかることはなく、製造販売後の調査などで判明することが大半で、そのため市販後の副作用報告というものが非常に重要となります。

 

仮に発現頻度が低い副作用の中に重篤なものがあった場合には、市販後に用いられる母数が多ければ多いほど、問題が大きくなります。

0.1%(1000人に1人)の発現頻度の重篤な副作用でも、1000万人に投与すれば1万人が重篤な副作用で苦しむことになります。

しかし、新型コロナウイルス感染症に関しては、緊急性が優先されて、短期間での有効性のみが評価され、海外での緊急使用許可を受けて、日本国内でも特例承認されてしまっているのが現状です。

日本人での安全性は確認されていません。

通常の臨床試験でも、症例数が少なく安全性には不明なリスクがあります。特例承認においては、安全性におけるリスクは非常に大きなものとなっています。

 

ラゲブリオ(モルヌピラビル)の安全性

ラゲブリオ(モルヌピラビル)のリスクとベネフィット

ラゲブリオの医薬品リスク管理計画書(RMP)

 

重要な潜在的リスクとして、動物実験から骨髄抑制の懸念があり、動物実験から催奇形性の懸念があります。

臨床試験では妊婦・授乳婦は除外されており、参加した男女ともに避妊を行っています。

胎児に害を与える可能性があって、妊娠中の人は禁忌となっています。

 

ノースカロライナ大学の研究

β-DN4-hydroxycytidine Inhibits SARS-CoV-2 Through Lethal Mutagenesis But Is Also Mutagenic To Mammalian Cells 

モルヌピラビルの第Ⅲ相試験では重大な副作用は報告されていませんが、この作用機序である変異原性メカニズムから、ヒト細胞でも問題を引き起こす可能性があります。

つまりモルヌピラビルは、ヒトのDNAにも突然変異をもたらす可能性が懸念されています。

 

また作用機序からウイルスの突然変異を促進させる可能性が高く、新たな変異株をつくりだすリスクが高いと考えられます。

ウイルスの変異が進むということは、武漢株のmRNAワクチン接種の潜在的リスク(抗体依存性感染増強)が高くなっていきます。

 

抗体依存性感染増強については、関連記事をご参照ください ↓

新型コロナウイルス変異株「抗体依存性感染増強の懸念」

日本国内でのワクチン接種が8割近い数字となった状況では、このような抗ウイルス剤が安易に投与されることは、避けなければならないと思います。

 

まとめ

ラゲブリオ(モルヌピラビル)のリスクとベネフィット

 

新型コロナウイルス感染症の経口治療薬として、ラゲブリオ(モルヌピラビル)が国内で特例承認されましたが、日本人に対してはほとんど有効性・安全性が評価されていません。

ワクチン未接種で、重症化リスク因子を持つ(肥満が大半)、発症5日以内の軽症あるいは中等症患者において、入院又は死亡の相対リスクを30%低下させました。

しかし、重症化リスク因子を個別にみると、肥満での有効性が高く、高齢者や糖尿病での有効性が低く有意差を示していません。

日本国内でのワクチン接種状況や、重症化リスク因子として高齢者が多いことを考えると、この海外での臨床試験結果は、日本国内での患者層に適合しないと考えられます。

モルヌピラビルが有益性を示す対象患者の幅は非常に狭く、服薬によって有害性を示す可能性があるので、安易な投与は避けるべきです。

 

 

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ラゲブリオ(モルヌピラビル)のリスクとベネフィット