「ゾコーバ」緊急承認の有効性評価

「ゾコーバ」緊急承認の有効性評価

「ゾコーバ」緊急承認の有効性評価

【この記事のまとめ】
新型コロナウイルス治療薬「ゾコーバ」の有効性は、「真のエンドポイント」では評価されていません。

第Ⅲ相試験中にプロトコルが改訂され、「主要評価項目」や「有効性の主要な解析対象集団」が変更されているため、信頼性が非常に低い臨床試験となっています。

SARS-CoV-2による感染症の症状発現から72時間までにゾコーバを服用すると、倦怠感・発熱・鼻水・喉の痛み・咳などの症状が、約1日早く快復できると推定されています。

健康な人のほとんどは、新型コロナウイルスやインフルエンザに感染しても自然治癒します。

新型コロナウイルス治療薬あるいはインフルエンザ治療薬の「真のエンドポイント」は、高齢者や基礎疾患があるリスクの高い人が、重症化して死亡するのを防ぐことです。

ゾコーバは重症化リスクのない軽症者に投与可能な薬剤という事で緊急承認されましたが、その必要性に大きな疑問があります。

 

2022年11月22日、塩野義製薬の新型コロナウイルス治療薬「ゾコーバ」(一般名:エンシトレルビル フマル酸錠)が国内で緊急承認されました。

初の国産の軽症者用の経口治療薬であり、2022年5月20日に施行された緊急承認制度の第一号となり注目されています。

緊急承認とは、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病のまん延その他の健康被害の拡大を防止するため緊急に使用されることが必要な医薬品であり、安全性の確認と有効性を有すると推定されるものが条件となります。

「ゾコーバ」について、PMDAの資料を基にその有効性について評価を行いました。

 

塩野義製薬といえば、2018年に先駆け審査指定制度の第一号としてスピード承認された、インフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」の耐性化や副作用が大問題となった事が思い出されます。

 

ゾコーバの第Ⅲ相試験の有効性

「ゾコーバ」緊急承認の有効性評価

ゾコーバ PMDA審査報告書

 

第Ⅲ相試験中にプロトコルの変更

「ゾコーバ」緊急承認の有効性評価

第Ⅲ相試験は2022年2月10日に開始され、2022年8月10日にすべての被験者の観察期間が終了しています。

その後、2022年9月20日に第10版へのプロトコルの最終改訂が行われて有効性の解析が行われました。

第Ⅲ相試験実施中に第7版から第10版までプロトコルの改訂がされ、特に主要評価項目有効性の主要な解析対象集団変更されている点は通常の臨床試験ではあり得ないと思われます。

都合よく結果がでるように主要評価項目や解析集団を後付けで変更した臨床試験であり、信頼性が非常に低い試験だと考えられます。

 

主要評価項目の有効性(プロトコル変更後)

「ゾコーバ」緊急承認の有効性評価

SARS-CoV-2 は主にオミクロン BA.1、BA.2 及び BA.5

(主要評価項目)治験薬投与開始時点から SARS-CoV-2 による感染症の 5 症状が快復するまでの時間

承認量375/125㎎群で5症状が快復するまでの時間は24.3時間

日本人の部分集団で解析すると、5症状が快復するまでの時間はたった6.3時間

つまりSARS-CoV-2による感染症の症状発現から72時間までにゾコーバを服用すると、倦怠感、発熱、鼻水、喉の痛み、咳などの症状が、23.3時間(約1日)早く快復できるという結果です。

 

プロトコル変更前の主要評価項目での有効性

「ゾコーバ」緊急承認の有効性評価

プロトコル変更前の本来の主要評価項目と解析集団で評価した場合には、有意差はでておらず有効性が低くなっています。

SARS-CoV-2による感染症の症状発現から72時間以上経過して服用した場合には効果がないと判断できます。

 

緊急承認制度により、SARS-CoV-2 による感染症に対する有効性を有すると推定される薬剤と判断されたわけですが、真のエンドポイント」で評価はされていません。

 

有効性の真のエンドポイントとは

「ゾコーバ」緊急承認の有効性評価

 

新型コロナウイルス治療薬の「真のエンドポイント」は、重症化による死亡するのを防ぐことです。

重症化するリスクが高い高齢者や基礎疾患のある患者が、重症化して死亡するリスクを軽減する効果が評価されていないため、ゾコーバの治療薬としての存在価値は非常に低いと考えられます。

 

「真のエンドポイント」については、関連記事をご参照ください ↓

薬を飲まない理由 ベネフィットを自分で考えよう

 

先に特例承認されたラゲブリオ(モルヌピラビル)、パキロビッドパック(ニルマトレルビル・リトナビル)の有効性については、真のエンドポイントで評価されています。

 

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インフルエンザ治療薬も同様の問題点

インフルエンザ治療薬には、タミフル、イナビルなど代表的な治療薬が存在しますが、その臨床試験での有効性の評価にも大きな問題があります。

主要評価項目は「インフルエンザ罹病期間」で、インフルエンザの症状が治るまでの期間で評価されています。

既存のインフルエンザ治療薬は、インフルエンザ罹病期間を約1日短縮する効果があります。

簡単に説明すると、インフルエンザに感染した場合、薬を飲まなかったら回復するのに約4日間かかるのが、治療薬を飲むと約3日間で回復するという有効性です。つまり約1日早く治すことができます。

重症化して死亡するリスクを下げる効果は評価されていません。

 

健康な人のほとんどは、新型コロナウイルスやインフルエンザに感染しても自然治癒します。

新型コロナウイルス治療薬あるいはインフルエンザ治療薬の「真のエンドポイント」は、高齢者や基礎疾患があるリスクの高い人が、重症化して死亡するのを防ぐことです。

 

新型コロナウイルス治療薬「ゾコーバ」も、既存のインフルエンザ治療薬と同様に「真のエンドポイント」で評価されていないのです。

 

まとめ

「ゾコーバ」緊急承認の有効性評価

 

緊急承認制度の第一号として承認された新型コロナウイルス治療薬「ゾコーバ」の有効性は、「真のエンドポイント」では評価されていません。

第Ⅲ相試験中にプロトコルが改訂され、「主要評価項目」や「有効性の主要な解析対象集団」が変更されているため、信頼性が非常に低い臨床試験になっています。

SARS-CoV-2による感染症の症状発現から72時間までにゾコーバを服用することによって、倦怠感、発熱、鼻水、喉の痛み、咳などの症状が、約1日早く快復できると推定されています。

 

また既存のインフルエンザ治療薬も、インフルエンザ罹病期間を約1日短縮する効果しかありません。

健康な人のほとんどは、新型コロナウイルスやインフルエンザに感染しても自然治癒します。

新型コロナウイルス治療薬あるいはインフルエンザ治療薬の「真のエンドポイント」は、高齢者や基礎疾患があるリスクの高い人が、重症化して死亡するのを防ぐことです。

 

ゾコーバは重症化リスクのない軽症者に投与可能な薬剤という事で緊急承認されましたが、その必要性に大きな疑問があります。

 

「ゾコーバ」緊急承認の有効性評価