「糖質制限」糖尿病は糖質が原因なのか?
私たちは、食事によりエネルギー源となる物質を摂取しないと、エネルギー代謝を回し続けて生命活動を維持することができません。
しかし、現代社会の現実は、食品として食べた物質の毒性によって、私たちの健康が大きく損なわれて、様々な慢性疾患を生み出しています。
「糖質ゼロ」、「ノンカロリー」などの糖質制限ブームとなっていますが、私たち生物の本来のエネルギー代謝の仕組みを考えると、非常に矛盾したものでもあります。
グルコース(ブドウ糖)の役割
糖質であるグルコース(ブドウ糖)は、私たちの代謝の仕組みから考えると、欠かすことができない最も重要な化合物です。
植物は太陽の光エネルギー使って、二酸化炭素から炭素同化によって糖質(グルコース)と酸素をつくります(光合成)。
それを私たちは、食物として摂取し、酸素を使ったミトコンドリアの内呼吸によって、二酸化炭素と水にまで分解して排出しています。
炭素循環としては、もっともシンプルかつクリーンな流れであり、この代謝によってATPを合成して生命活動を行うためのエネルギーを得ています。
代謝と生命活動、ATP合成については、関連記事をご参照ください ↓
機械であれば、エネルギーとなる燃料を補給すれば、ある一定期間動き続けることができますが、私たち人間はそういうわけにはいきません。
外部とのつながりを常に維持し続けて、酸素やエネルギー源となる物質を取り入れ続けて、いらない物質を排出し続ける循環がなければ、生命を維持することができない構造となっています。
代謝によってATP(エネルギー)を合成できなければ、リンモデリング(新陳代謝)ができなくなって、私たちの生体構造や機能に様々な障害が起こってきます。
グリコーゲンは、グルコース(ブドウ糖)分子がグリコシド結合によって重合した、高分子の多糖です。
私たちはグルコースからグリコーゲンを合成して、一時的に肝臓や筋肉に貯蔵しています。
食後など血糖値が高くなると、肝臓ではグルコースからグリコーゲンを合成して貯蔵します。そして血糖値が下がってくると、グリコーゲンを分解してグルコースを供給して、血中のグルコース濃度をある一定範囲内に保っています。
筋肉もグリコーゲンを貯蔵しており、いつでもすぐに筋肉運動ができるように、一時的なエネルギー源を確保しています。
しかし、グリコーゲンとして蓄えられるエネルギー源は、基礎代謝量の1日分にも足りません。
どうして私たちの体には、エネルギー源となる糖質を長期的に蓄えることができないのでしょうか?
糖毒性と脂肪毒性とインスリン抵抗性
グルコースは、エネルギー源となってATP合成に使われ、また代謝によって様々な体内物質が同化される、非常に重要な物質です。
しかし、グルコースは比較的反応性が高い化合物であり、高濃度になると酵素の作用がなくても、タンパク質や脂質と反応してしまう性質があります。
つまり体内にたくさんあると、毒性を示す物質なのです。
実は病院の血液検査で糖尿病の指標に使うHbA1c値は、赤血球のヘモグロビンというタンパク質がグルコースと結合して変性した値を数値化しています。
つまり、この数値が高いということは、血液中のグルコース濃度が高くなって、タンパク質を変性させる糖毒性がでていることを現わしています。
タンパク質や脂質で成り立っている私たちの体にとって、糖毒性は非常に脅威となります。
血糖値が高くなると膵臓からインスリンというホルモンが分泌されて、肝臓や筋肉でグルコースを取り込んで、貯蔵用としてグリコーゲンを合成します。
脂肪組織でもインスリンの働きによって、グルコースを取り込んで脂肪酸に変換し、中性脂肪の形にして貯蔵しています。
脂肪は同じ重量の糖より蓄えられるエネルギーの量が大きく、ある程度の期間貯蔵するのに適しています。
グリコーゲンは緊急用の一時的な貯蔵用であり、本当のエネルギー源の貯蔵は中性脂肪がその役割をしています。
どんどん中性脂肪が貯まって、主に中性脂肪を貯蔵する脂肪組織が肥大化していきます。それが肥満です。
脂肪組織の肥大化が限界に達してくると、脂肪組織ではないところに中性脂肪が貯まっていきます。これが内臓脂肪など異所性脂肪です。
やがて中性脂肪を分解して血中に脂肪酸を放出するようになります。MCP-1を分泌して脂肪細胞のまわりにマクロファージを集めて、貪食処理してもらいます。炎症性サイトカインが分泌されて、慢性炎症を引き起こす原因となります。
中性脂肪を貯蔵するシステムが限界を超えると、脂肪毒性を示すようになっていきます。
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その時にさらに、グルコースの取り込みを制限するために、TNF-αを分泌してインスリン受容体の感受性を低下させます。その状態がインスリン抵抗性という病態です。
インスリン抵抗性については、関連記事をご参照ください ↓
インスリン抵抗性は、エネルギーの貯蔵システムが崩壊している状態です。血液中のグルコース濃度が高くて、インスリンが分泌されても、細胞がグルコースの取り込みをしにくくなって、高血糖の状態が続きます。
高血糖により糖がタンパク質や脂質と反応してAGEs(終末糖化産物)を生成します。それがさらにまた慢性炎症を引き起こす原因にもなります。
インスリン抵抗性のような代謝異常を起こしてしまうと、体内の代謝反応の流れが大きく変わってしまいます。
脂肪毒性も糖毒性も示している状態であり、血糖値を下げるコントロールをするだけでは、問題は解決されません。
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低血糖は生命の危機
脂肪酸(脂質)やアミノ酸(タンパク質)からでも、ミトコンドリアの内呼吸によるエネルギー代謝で、大量のATPを合成することができます。
エネルギー効率から考えると、脂肪酸はグルコースより高いエネルギーを生み出す物質です。
いったいどうして私たちの体は、高濃度になると毒性を示すグルコースを、生体代謝の中心にしないといけないのでしょうか?
血液中にグルコースが一定濃度存在しないといけない理由が、エネルギー代謝という側面と、物資代謝という側面で存在します。
グルコースは、ミトコンドリアの内呼吸による代謝だけでなく、酸素がない状態でも解糖系と呼ばれる代謝過程(異化同化反応)によって、ATPを合成することができます。
解糖系・ミトコンドリアの内呼吸については、関連記事をご参照ください ↓
血液中の赤血球は、細胞内にミトコンドリアも持っていません。
赤血球はグルコースを原料とした解糖系でしかATPを生産することができないのです。
赤血球は血液中の酸素そして二酸化炭素を運ぶという非常に重要な役割を担っています。この機能が障害されてしまうと、私たちは各組織の細胞でミトコンドリアによる内呼吸でのエネルギー代謝を行うことができなくなります。
またグルコースは生体内で必要な様々な物質をつくりだす原料となります。
核酸(DNA、RNA)や電子伝達体(NAD、FAD)など、生体内で非常に重要な役割をする物質をつくりだすには、グルコースが必要となってきます。
外部からの糖質の供給がカットされると、貯蔵用のグリコーゲンを分解して、血液中のグルコースを維持しようとします。しかし、グリコーゲンは一時的な貯蔵用で、やがてすぐに枯渇してしまいます。
すると、副腎皮質からコルチゾールが分泌して、血糖値を上げるように代謝を調整します。
低血糖は私たちにとって、生命の危機であり緊急時のストレス反応となるのです。
コルチゾールの作用については、関連記事をご参照ください ↓
タンパク質をアミノ酸に分解し、中性脂肪をグリセロールと脂肪酸に分解します。
主に肝臓では、脂肪酸を代謝して得たエネルギーを使って、アミノ酸やグリセロール、乳酸を原料として、代謝によりグルコースを合成します(糖新生)。
つまり、体内物質の異化によって得たATP(エネルギー)を使って、わざわざ同化によって、グルコースをつくりだしているのです。
極端な糖質制限を行うと、この糖新生のために筋肉のタンパク質が使用され、中性脂肪よりも先に筋肉量が落ちてしまうのです。
ブドウ糖-脂肪酸サイクル(ランドルサイクル)
ランドルサイクル(Randle cycle)
多くの方が、糖質の取り過ぎが、血糖値やHbA1cを高くする原因だと思っているのではないでしょうか?
生体内の代謝(異化・同化反応)によって、糖質・脂質・タンパク質は相互につながっています。
私たちの細胞は、グルコースも脂肪酸も両方ともエネルギー源にできますが、同時に両方をエネルギー源としてATPを合成することはできません。
つまり状況によって、グルコースと脂肪酸のどちらをエネルギー源にするのか、代謝の流れを選んでいるのです。
グルコースをエネルギー代謝しているときは、脂肪酸のエネルギー代謝の流れは抑制されます。脂肪酸をエネルギー代謝しているときは、グルコースのエネルギー代謝の流れは抑制されます。これをランドルサイクルといいます。
血糖値が低下してくると、脳以外の大きな器官は脂肪酸を主に使うようになります。やがて肝臓で脂肪酸からケトン体が合成されると、脳にも供給されて脳もケトン体を使うことができるようになります。
脂肪酸を主なエネルギー源としている代謝の流れの時には、グルコースの内呼吸によるエネルギー代謝をブロックする作用が働き、食事で糖質を摂取すると高血糖になりやすくなります。
血中に脂肪酸が放出されて、血中脂肪酸の濃度が高くなり、インスリンの感受性が低下して、細胞内へのグルコースの取り込みが低下します。グルコースの処理能力(耐糖能)が低下してしまうのです。
逆にグルコースを主なエネルギー源としている代謝の流れの時には、脂肪酸のエネルギー代謝をブロックする作用が働くので、食事で摂取した脂質は、中性脂肪に変換されやすくなります。それがインスリン抵抗性の原因となります。
糖質が悪いのか?それとも脂質が悪いのか?
砂糖(二糖類)の代替として、異性化糖液(ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖など)の使用が、急激な血糖値の上昇につながる要因となっています。
異性化糖液は、トウモロコシなどのデンプンから作られる食品添加物で、高フルクトースコーンシロップとも呼ばれています。
清涼飲料水(スポーツドリンクなど)や調味料・食品など、たくさんのものに使用されているので注意が必要です。
消化をされる必要がないので、すぐに吸収されて急激に血糖値を上昇させます。
急激に血糖値を上げるような糖質を摂取することは、私たちの体にとって大きなリスクとなります。
エネルギー源として摂取している物質の血中濃度を下げるために、逆にインスリンをはじめ様々な代謝調整が必要となって、マイナスとなってしまいます。
油脂の過剰摂取も、血糖値を高める要因となっています。
調理用の植物油の普及により、揚げ物や炒め物の料理が増えました。またファーストフードやコンビニ食品、インスタント食品などにも多くの油が使用されています。
また、ケーキなど洋菓子には、砂糖などの糖質だけでなく、生クリームなど脂質がたくさん含まれています。
脂質の過剰摂取は、中性脂肪を増やす原因となって、それがインスリン抵抗性を引き起こして、2型糖尿病の原因となっています。
また過度な糖質制限は、低T3症候群などミトコンドリアの機能低下を引き起こす原因になるので、注意が必要です。
低T3症候群・甲状腺ホルモンの活性については、関連記事をご参照ください ↓
まとめ
糖質(グルコース)は、エネルギー代謝と物資代謝の両面で、私たちにとって欠かすことができない物質です。
私たちの体は、ある一定範囲のグルコース濃度を保ち続ける必要があって、多くすぎても少なすぎても問題があります。
状況によって体内の代謝(異化同化反応)によってグルコースが作り出されています。
グルコースは、ミトコンドリアの内呼吸による代謝だけでなく、酸素がない状態でも解糖系の代謝過程によって、ATPを合成することができます。
ストレス反応である交感神経反応(闘争・逃走 反応)時や、赤血球のようにミトコンドリアを持たない細胞では、解糖系でしかATP合成を生産することができません。
グルコースは比較的反応性が高い化合物であり、高濃度になると酵素の作用がなくても、タンパク質や脂質と反応してしまう性質があり、糖毒性を示します。
そのためグルコースを体内でたくさん貯蔵することはできず、エネルギー源の貯蔵は中性脂肪が担っています。
中性脂肪を貯蔵するシステムが限界を超えると、脂肪毒性を示して慢性炎症やインスリン抵抗性の原因となります。
中性脂肪の貯蔵システムの崩壊が、インスリン抵抗性を引き起こし、血糖コントロールシステムの機能障害による高血糖をつくります。
生体内の代謝(異化・同化反応)によって、糖質・脂質・タンパク質は相互につながっています。
私たちの細胞は、グルコースも脂肪酸も両方ともエネルギー源にできますが、同時に両方をエネルギー源としてATPを合成することはできません。
状況によって、グルコースと脂肪酸のどちらをエネルギー源にするのか、代謝の流れを選んでいます。
高血糖(糖尿病)では、急激に血糖値を上げるような糖質の摂取を避けるだけでなく、むしろ脂質の質と量をコントロールすることが非常に重要となります。
グルコースと脂肪酸のエネルギー代謝による、活性酸素種(ROS)の発生の違いについては、関連記事をご参照ください ↓
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糖質にはエネルギー源だけでなく、糖鎖として機能性を司る役割があります。詳しくは関連記事をご参照ください ↓