コラム「要素還元主義」
『要素還元主義』
テレビの健康番組を見ていると、ある論理的思考が見えてくることが多い。
「トマトにはリコピンがたくさん含まれているから健康によい」
「リコピンは脂溶性なので水には溶けにくく、油に溶けやすい」
「トマトは油で調理した方が、リコピンの吸収がよくなる」
トマトは油で調理して食べたら健康によいと思ってしまうのではないだろうか。
トマトをニンジンに、リコピンをβカロテンに置き換えると、まったく同じようなことが言えたりするのだ。
健康によい食品がたくさんあって、健康な人で溢れていても不思議ではないと思ったりするが、現実はどうもそうではないらしい。
物事を考えるときに要素に還元して思考することを、教育によって教えられたせいかもしれない。
論理的かつ科学的だと思ってしまうのだろう。
トマトに含まれる単一要素だけで、トマト全体の性質を理解することができるのだろうか。
生命は代謝という名の化学反応が起こる場であり、様々な物質が複雑に相互作用しながら調整されている。
健康とは体内に存在するすべての物質循環が、正常に回転している状態ではないだろうかと思う。
トマトに含まれるリコピン以外の成分、一緒に食べる食品に含まれる成分、それらを無視して人体の健康を論ずることができるのだろうか。
油で調理した時点で大量の植物油を摂取するため、トマトよりそっちの方が人体への影響が大きかったりするのだ。
要素還元主義による思考による分析は、どうやら私たちの心を安心させるのではないかと思う。
原因と結果による因果の法則によって、納得できてしまったりするのだ。
病気の原因を単一要素で考えることも同じではないだろうかと思ったりする。
私たちの体は恒常性を維持するために、常にバランスをとろうとしている。
バランスを調整した結果、血圧や血糖値が高くなったり、様々な症状がでてきたりしているのではないだろうか。
要素還元主義の分析では、生命のような複雑系における根本原因を捉えることはできないというのだ。
どうやら結果の現象を捉えて、原因のように思ったりしているのだ。
因果関係をつくりだしているのは、私たち自身なのかもしれないと思う。