「優しいタッチの神経伝達」触覚とメカノセンサー
外界を感知するためには、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)に代表される感覚神経の働きが重要ですが、私たちはそれを無意識に利用して日々の生活を送っています。
タッチ(触覚)を感知するのはニューロン(神経)だけではありません。
ほとんどすべての細胞は何らかの機械的な力を受けて、それを電気化学(生化学)的応答に変換する、メカノトランスダクションを行っています。
昔から「手当て」といって、優しいタッチによって人間の痛みを緩和できることは、よく知られている現象です。
皮膚には複数の機械受容器(メカノセンサー)が存在をする為、触れ方によって、どの機械受容器が反応するかが変わってきます。
軽くそっと皮膚に触れた場合、奥まで圧がかかるように強く押した場合、さする様に振動を加えた場合など、刺激によって私たちの体に起こる反応はすべて違ってきます。
メカノトランスダクションやメカノセンサーについては、関連記事をご参照ください
触覚ニューロン
鳥の羽ばたき、そよ風、雨滴、優しい愛撫など、様々な機械的な力を皮膚は感じています。
私たちが生きるためには、無害なものと有害なものを感覚神経によって解読することが必要となります。
無害な機械的刺激に対して低閾値機械受容器 (LTMR)の感覚神経が働いて、有害な機械的刺激に対して高閾値機械受容器 (HTMR)の感覚神経が働いています。
神経線維の種類
皮膚感覚ニューロンは、細胞体のサイズ、軸索の直径、髄鞘形成の程度、および軸索伝導速度に基づいて、Aβ、Aδ、または C のいずれかに分類できます 。
有髄線維と無髄線維では有髄線維のほうが伝導速度が速くなります。有髄神経の中でも直径が大きい太い線維の方がより伝導速度が速くなります。
有髄線維のうち最も細いものはAδ線維、無髄神経はC線維と呼ばれています。
C 繊維は最小かつ最も豊富で、無髄線維で最も遅い伝導速度 (0.2 ~ 2 m/s の範囲)となります。
Aδ および Aβ 繊維は有髄線維で、Aδ の伝導速度は 5 ~ 30 m/s の範囲、Aβ は 16 ~ 100 m/s の範囲を示します。
低閾値機械受容器 (LTMR)は、4種類の機械受容器がAβ 繊維に接続しています。
Aδ 線維と C 線維の神経末は、有害な機械的刺激、熱刺激、または冷刺激に対する反応に基づく侵害受容器であると考えられています。
一般的に慢性痛とは、高閾値機械受容器(HTMR)のAδ線維 やC 線維が活性化している状態です。
疼痛閾値が低下して、弱い刺激でも応答して、痛みを感じやすくなっています。
神経のつながり・疼痛については、関連記事をご参照ください ↓
皮膚の低閾値機械受容器 (LTMR)
The sensory neurons of touch
Neuron. 2013 Aug 21;79(4):618-39. doi: 10.1016/j.neuron.2013.07.051.
触覚センサーとして、表皮に細かく入り込む感覚神経の先端である自由神経終末がありますが、それ以外に機械受容器としてマイスナー小体、メルケル細胞、パチニ小体、ルフィニ小体があります。
各受容器の特徴が異なっており、私たちは様々な刺激に反応できるメカノセンサーを持っています。
順応
一定の刺激を受容器に持続的に与えると、受容器につながっている神経線維の放電頻度は、次第に減少します。
この現象を(受容器における)インパルスの順応といいます。
受容器につながっている神経線維に生じるインパルス放電は、刺激の続く限り継続する順応の遅いもの(SA:slow adapting)と、すぐやんでしまう順応の速いもの(RA:rapid adapting)の2種類があります。
ルフィニ小体やメルケル複合体は、遅順応性の受容器となります。
速順応性の受容器は、刺激の開始時と終了時にだけ一時的に反応し、起動電位は、刺激の開始と終了の直後には、閾値以下に減少します。
パチニ小体やマイスナー小体は、速順応性の受容器となります。
メルケル細胞複合体
遅順応Ⅰ型ー低閾値機械受容器 (SAI-LTMR)
メルケル細胞は表皮層と真皮層の境界に位置する、もっとも皮膚表面に近い機械受容器です。
メルケル細胞に神経終末が侵入して1つの複合体を形成することで機械受容器として機能しています。
皮膚変位のしきい値が非常に低い (人間の場合は 15 μm 未満)で、物体の角、端、湾曲に接触すると、最大の反応を示します。
高い空間解像能を示し、刺激の位置と速度に非常に敏感です。そのため垂直方向の変形に応答できます。
SAI-LTMRは、皮膚が刺激されていない場合は静かであり、皮膚の伸びや受容野に隣接する皮膚の変位に比較的鈍感であり、通常、人間では2〜3 mmの範囲です。
ルフィ二小体
遅順応Ⅱ型ー低閾値機械受容器 (SAⅡ-LTMR)
皮膚のへこみに対して持続的な反応を示します。
SAII-LTMR は SAI よりも皮膚の神経支配が弱く、その受容野は約 5 倍大きくなります。
SAII は SAI の 6 分の 1 の皮膚のへこみに対する感度ですが、皮膚の伸びや手や指の形状の変化に対する感度は 2 ~ 4 倍となります。
マイスナー小体
速順応Ⅰ型ー低閾値機械受容器 (RAⅠ-LTMR)
SAI-LTMR と比較して、RAI-LTMR は約 4 倍の感度がありますが、受容野を横切って移動する刺激に対する空間感度ははるかに低くなります。
RAI-LTMR は皮膚刺激に対して一貫して非常に短い待ち時間で応答します。
RAI-LTMR は微細な動きに非常に迅速に応答することができますが、静的な力と低周波振動に対する鈍感性を示します。
パチニ小体
速順応Ⅱ型ー低閾値機械受容器 (RAⅡ-LTMR)
RAII-LTMR 応答の特徴は、その極端な感度と、手に保持された物体を介して伝達される高周波振動に対して反応します。
RAII-LTMR は非常に敏感で、RAI-LTMR よりも低い振幅閾値を持ち、ナノメートル範囲の動きに反応することがよくあります。
Ⅰ型応答は、受容野が小さく境界が鮮明なのに対し、Ⅱ型応答は、受容野が大きく境界が不鮮明となります。
メルケル細胞は、垂直方向の変形に応答して皮膚に接触した材質や形を検出し、ルフィ小体は、局所的な皮膚の圧迫や伸張を検出します。
マイスナー小体は、点字のような小さな盛り上がりを検出し、パチニ小体は、振動を検出します。
無害な触覚の知覚につながる最初のステップは、低閾値機械受容器 (LTMR)によるAβ求心性神経(Aβ線維)の活性化です。
固有受容における低閾値機械受容器 (LTMR)となるPIEZOの役割については、関連記事をご参照ください ↓
優しいタッチ(触覚)のシナプス伝達
Merkel Cells Activate Sensory Neural Pathways through Adrenergic Synapses
Neuron. 2018 Dec 19;100(6):1401-1413.e6. doi: 10.1016/j.neuron.2018.10.034.
Synaptic Communication upon Gentle Touch
Neuron. 2018 Dec 19;100(6):1272-1274. doi: 10.1016/j.neuron.2018.12.001.
メルケル細胞は触覚の中でも、何かに触れられているようなソフトな感覚を機械受容して、感覚神経に伝えています。
PIEZO2 チャネルに依存して機械的刺激を感知し、活動電位を発生させ、Aβ求心性神経(Aβ線維)を活性化します。
メカノセンサーチャネル「PIEZO」については、関連記事をご参照ください ↓
膜電位の変化、電気信号による情報伝達については、関連記事をご参照ください ↓
メルケル細胞はAβ 求心性神経によって神経支配されています。
機械的刺激の後、メルケル細胞はノルエピネフリン(NE)を放出し、その求心性神経は感覚求心性神経で発現するβ 2 -アドレナリン受容体に依存して情報伝達をします。
Aβ求心性神経は、自由神経末が機械的刺激に直接応答する一次感覚神経と、メルケル細胞からのシナプス信号に応答する二次感覚神経の両方として機能することになります。
求心性神経の自由終末は動的な刺激に対して応答し、メルケル細胞が働くことで持続的な接触である静的な刺激に応答し続けられます。
まとめ
私たちが恒常性を維持するために、外界からの刺激が無害なものか有害なものなのかを、感覚神経によって伝えています。
無害な機械的刺激に対して低閾値機械受容器 (LTMR)の感覚神経が働いて、有害な機械的刺激に対して高閾値機械受容器 (HTMR)の感覚神経が働いています。
Aδ 線維と C 線維の自由神経末は、有害な機械的刺激、熱刺激、または冷刺激に対する反応に基づく侵害受容器であると考えられています。
一般的に慢性痛とは、高閾値機械受容器(HTMR)のAδ線維 やC 線維が活性化している状態です。
疼痛閾値が低下して、弱い刺激でも応答して、痛みを感じやすくなっています。
触覚の低閾値機械受容器 (LTMR)として、4つの機械受容器がAβ線維に接続しています。
触れ方によって、どの機械受容器が反応するかが変わってきます。
メルケル細胞は触覚の中でも、何かに触れられているようなソフトな感覚を機械受容して、Aβ求心性神経(β線維)に伝えています。
優しいタッチ(触覚)は、メルケル細胞の膜タンパク質「PIEZO2 」がメカノセンサーチャネルとなって、活動電位を発生させ、Aβ求心性神経を活性化します。