【イベルメクチン】新型コロナウイルス感染症の治療薬となれるのか? 副作用は?
2021年7月1日、興和株式会社(製薬メーカー)が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を対象に、イベルメクチンを投与する臨床試験(開発コード:K-237)を開始すると発表しました。
果たしてイベルメクチンは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬として、期待ができるのでしょうか?
イベルメクチンとは
イベルメクチンは、2015年にノーベル医学生理学賞を受賞した大村智博士らが発見した、16員環マクロライド系抗生物質です。
1993年にフランスで承認されて以来、寄生虫感染症治療薬として世界中の臨床現場で約30年使用されています。
日本でもストロメクトール(製造MSD、販売マルホ)という医薬品名で、抗線虫薬・疥癬治療薬として用いられています。
一般的にマクロライド系抗生物質は、抗菌作用以外にも様々な作用を示すことが知られており、多機能性を有する化合物が多いのが特徴です。
イベルメクチンは in vitro (試験管レベルの研究)で、新型コロナウイルスがヒトの細胞内で増殖する際に、ウイルスのたんぱく質の核内移行を妨害し、増殖を抑制することが報告されています。
世界各国でCOVID-19に対するイベルメクチンの臨床試験がされ、効果を認める観察研究も多数でております(効果を否定する報告もあります)。
ただ質の高い臨床試験が実施されているかといえば、このコロナ禍ではなかなか難しい面が多いのではないかと思います。
国内で質の高い臨床試験を実施して、治療薬としての有効性を示すことが、一番重要だと思います。
イベルメクチンを飲んで感染予防や重症化防止効果があるのは、本当に薬理作用によるものなのかを判断するためには、プラセボ対照のランダム化二重盲検比較試験で確認しないといけません。
特にこのような感染症では、自然治癒とプラセボ効果(薬を飲んだという安心感)が大きく影響します。
薬の有効性・安全性に影響を与える要因については、関連記事をご参照ください ↓
日本国内でのイベルメクチンの現状
2020年4月9日、新型コロナウイルス感染症の治療に際して、医薬品の適応外使用に係る保険診療上の取扱いについての通知があります。
(地方厚生(支)局医療課宛て) 適応外使用の取扱いについて (mhlw.go.jp)
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」に提示されている薬剤では、保険による適用外使用が認められています。
イベルメクチンは2020年5月18日に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き(第2版)に記載され、COVID-19治療への適応外使用が認められました。
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き(第2版)」
現在の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き(第5版)でも、引き続きイベルメクチンの適用外使用が認められています。
しかし、イベルメクチンの適用外処方を行っている医療機関は非常に少なく、医療関係者の間でもあまり知られていないのが現状です。
その原因の1つは、国内の販売メーカー(マルホ)から、2020年4月17日に出荷調整および適正使用に関するお願いが出されているからです。
ストロメクトール(イベルメクチン)の適用症は抗線虫薬・疥癬治療薬であり、そのための製造しか行っていません。
つまり国内では普段はそれほどたくさん処方される薬ではなく、広くCOVID-19の治療目的で適用外使用されると、すぐに医薬品の供給がストップしてしまうのです。
また、東京都医師会でもイベルメクチンの有用性を期待しています。
イベルメクチンの国内臨床試験
2020年9月からイベルメクチンの国内臨床試験は、北里大学病院で医師主導により開始されました。
その臨床試験のデザインは、軽症および中等症のCOVID-19患者を対象にした、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験です。
例数は240例(イベルメクチン群120例、プラセボ群120例)、主要評価項目は「PCR検査でSARS-CoV-2が陰性化するまでの期間」です。
このような状況下で、もともとの製造会社(MSD)ではなく、興和からイベルメクチンの臨床試験のプレス発表がありました(2021年7月1日)
臨床試験のデザインの詳細ははまだ公表されていませんが、例数は1000例程度で、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験で実施されると思われます。
この臨床試験で一番重要なポイントは、対象患者の設定と、主要評価項目のエンドポイントです。
それによってその治療薬に価値があるかどうかが決まります。
重症化するリスクが高い高齢者や基礎疾患がある人が、重症化して死亡するリスクを減らす効果を評価しなければ、治療薬としての存在価値は非常に低いと思います。
北里大学での臨床試験では、主要評価項目を「PCR検査でSARS-CoV-2が陰性化するまでの期間」としており、「真のエンドポイント」で評価されていません。
「真のエンドポイント」については、関連記事をご参照ください ↓
北里大学の国内第Ⅲ相臨床試験の結果については、2023年5月23日に論文発表されています。詳しくは関連記事をご参照ください ↓
インフルエンザ治療薬の問題点
真のエンドポイントでの評価が重要であることは、同じウイルス感染症である、インフルエンザの治療薬を例に考えてみましょう。
インフルエンザは治療薬があるので、感染したとしても安心だと思っている方が多いのではないでしょうか?
しかし、その認識は大きな間違いです。
インフルエンザ治療薬には、タミフル、イナビルなど代表的な治療薬が存在しますが、その臨床試験での有効性は、どのように評価されているのでしょうか?
主要評価項目は「インフルエンザ罹病期間」で、インフルエンザの症状が治るまでの期間で評価されています。
既存のインフルエンザ治療薬は、インフルエンザ罹病期間を約1日短縮する効果があります。
簡単に説明すると、インフルエンザに感染した場合、薬を飲まなかったら回復するのに約4日間かかるのが、治療薬を飲むと約3日間で回復するという有効性です。つまり約1日早く治すことができます。
重症化して死亡するリスクを下げる効果は評価されていません。
健康な人のほとんどは、インフルエンザに感染しても自然治癒します。既存のインフルエンザ治療薬は、その罹病期間を約1日だけ短くするというベネフィットしかありません。
インフルエンザ治療薬の本当の目的(真のエンドポイント)は、小児や高齢者、基礎疾患があるリスクが高い人が、重症化して死亡するのを防ぐことです。
まとめ
いざという時に治療薬があることは、精神的にも非常に心強いものです。
イベルメクチンは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬としての位置づけで、国内で臨床試験を行い承認をめざしています。
ワクチンにとってかわる予防薬ではありませんので、安全性が高いことはあまり売りにはなりません。
治療薬の有効性として、PCR検査で陰性化するまでの期間を短くできることは、真のエンドポイントではありません。
真のエンドポイントは、重症化して死亡するのを防ぐことです。
これから実施する国内臨床試験で、真のエンドポイントで有効性が示されることを期待します。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の日本国内の感染状況から考えると、抗原検査やPCR検査で陽性になれば、全員に治療薬が必要というわけではありません。
また全員に予防のためのワクチン接種が必要という状況でもありません。
ワクチン接種のリスクとベネフィットについては、関連記事をご参照ください ↓
補足(イベルメクチンの安全性)
「イベルメクチンには副作用がない」という情報が出回っているようですが、重篤な副作用報告があり、死亡例も多数報告されています。
現在、日本ではそれほど処方数が多くない状況ですが、もし仮に何百万人、何千万人規模で服薬するようになった場合には、かなりの副作用報告が出てくると思われます。
安全性が非常に高いといえるような薬ではありません。
市販後の副作用報告の情報の取り方について説明いたします。
PMDAのホームページの「副作用が疑われる症例報告に関する情報」
イベルメクチンと入力して、検索実行
”件数”をクリックすると、2004年度から2020年度の副作用報告の一覧を見ることができます。
”症例”をクリックすると、副作用症例一覧をみることができます。
全日本民医連の副作用モニター情報(イベルメクチンの薬物性肝障害や死亡について)
2016年9月までにPMDAに集積された副作用報告は合計122例。薬物性肝障害は31例、原因によらない死亡41例のうち、何らかの肝障害を発症していたのが10例あり。
新型コロナウイルス感染症の経口治療薬ラゲブリオ(モルヌピラビル)については、関連記事をご参照ください ↓