「イベルメクチン」新型コロナウイルス感染症での臨床試験結果
イベルメクチンは、2015年にノーベル医学生理学賞を受賞した大村智博士らが発見した、16員環マクロライド系抗生物質です。
一般的にマクロライド系抗生物質は、抗菌作用以外にも様々な作用を示すことが知られており、多機能性を有する化合物が多いという特徴があります。
日本でもストロメクトールという医薬品名で、抗線虫薬・疥癬治療薬として用いられてきました。
イベルメクチンについては、関連記事をご参照ください ↓
イベルメクチンの新型コロナウイルス感染症に対する国内臨床試験が、北里大学の医師主導で行われていましたが、有効性を示すことができない結果となりました。
この試験の詳細について、2023年5月23日論文発表されています。
国内第Ⅲ相臨床試験 被験者の特性
2020年8月~2021年10月、軽度あるいは中等度の新型コロナウイルス感染症患者を対象として、日本国内で実施されたプラセボ対照二重盲検試験(n=221)
イベルメクチン群 (n = 112)プラセボ 群(n = 109)と 1:1 で無作為に割り付け、完全な解析がされたのは、各治療群の 106 人ずつです。
被験者の平均年齢は、イベルメクチン群 47.9 歳、プラセボ群 47.5 歳で、65歳以上の高齢者は15%程度です。
70% 以上がベースライン時に肺炎を患っていました (イベルメクチン73.6%、プラセボ72.6%)
SARS-CoV-2ワクチン接種歴ありは、イベルメクチン群 9人(8.5%)プラセボ群 7人(6.6%)と、90%以上がワクチン未接種者です。
RT-PCR検査陽性の発生から治験薬投与までの平均期間は、イベルメクチン群とプラセボ群ともに 2.7日でした。
主要評価項目での有効性の結果
空腹時(絶食)にイベルメクチン(200μg/kg)またはプラセボのいずれかを単回経口投与。
RT-PCR検査で陰性になるまでの時間の中央値(95%CI)は、イベルメクチン群で14.0日、プラセボ群で14.0日で有意差なし。
最長 45 日間の追跡期間中のRT-PCR 検査結果の陰性化率は、イベルメクチン群 82.1%、プラセボ群 84% で有意差なし。
イベルメクチンは、軽度から中等度の新型コロナウイルス感染症患者での、RT-PCR検査が陰性になるまでの時間を短縮する効果は示さない結果となりました。
SAIVE試験
The SAIVE Trial, Post-Exposure use of ivermectin in Covid-19 prevention: Efficacy and Safety Results
参考までに海外でのイベルメクチンの新型コロナウイルス感染症に対する臨床試験の結果も示しておきます。
SAIVE試験は、2022年3月~11月にかけてブルガリアで実施された、プラセボ対照二重盲検の第Ⅱ相試験です。
SARS-CoV-2ワクチン未接種の成人を対象として、PCR検査でSARS-CoV-2感染が確認された人との濃厚接触者における感染予防効果を確認しています。
PCR陽性者はイベルメクチン群30/200(15.0%)、プラセボ群105/199(52.8%)
相対リスク減少率 71.6%
絶対リスク減少率 37.8%
治療必要数(NNT) 約2.6人
非常に有効性の高い結果となっていますが、被験者の平均年齢が40歳前後と非常に若く、65歳以上の高齢者が含まれていません。
新型コロナウイルス感染症で重症化するリスクの高い高齢者での有効性を示していません。
相対リスク減少率、絶対リスク減少率、治療必要数については、関連記事をご参照ください ↓
真のエンドポイント
PCR検査での陽性防止や、PCR検査が陰性になるまでの時間の短縮などは、あくまで「代替エンドポイント」となります。
新型コロナウイルス感染症における治療薬の「真のエンドポイント」(本当の目的)は、感染によって重症化することを防ぐことです。
重症化するリスクの高い高齢者や基礎疾患のある人が、重症化して死亡するリスクを軽減する効果を評価することに意味があります。
真のエンドポイントや代替エンドポイントについては、関連記事をご参照ください ↓
塩野義製薬が開発した新型コロナウイルス感染症の治療薬「ゾコーバ」も真のエンドポイントでは評価されていません。詳しくは関連記事をご参照ください ↓
その他の新型コロナウイルス感染症の経口治療薬については、関連記事をご参照ください ↓
まとめ
イベルメクチンの新型コロナウイルス感染症に対する国内臨床試験が、北里大学の医師主導で行われていました。その試験の詳細が2023年5月23日に論文発表されました。
イベルメクチンは、軽度から中等度の新型コロナウイルス感染症患者での、RT-PCR検査が陰性になるまでの時間を短縮する効果は示さない結果となりました。
この臨床試験で設定されたエンドポイント「PCR検査が陰性になるまでの時間を短縮する効果」は、あくまで代替エンドポイントであり臨床的意義は非常に小さいと思われます。
新型コロナウイルス感染症における治療薬の「真のエンドポイント」(本当の目的)は、感染によって重症化することを防ぐことです。
重症化するリスクの高い高齢者や基礎疾患のある人が、重症化して死亡するリスクを軽減する効果を評価することに意味があります。