「レカネマブの有効性」アミロイド仮説の誤り
アミロイドβのモノクローナル抗体「アデュカヌマブ」が、2021年6月に米国の米食品医薬品局(FDA)でアルツハイマー病治療薬として条件付きで承認されました。
しかしその後、EUの欧州医薬品庁(EMA)では安全性や有効性などを理由に否定的な見解を示し、「アデュカヌマブ」の承認が見送られました。
日本国内においても、有効性を明確に判断することは困難であり、追加の臨床試験データの提出が必要として、「アデュカヌマブ」の承認が見送られています。
そのような状況下で、2023年1月6日に米食品医薬品局(FDA)は、エーザイと米バイオジェンが開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」を迅速承認しました。
「レカネマブ」は「アデュカヌマブ」と同様、アミロイドβを除去するタイプの抗体医薬品です。
その有効性について評価しました。
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レカネマブ(Lecanemab)とアミロイド仮説
脳内でアミロイドβというタンパク質が細胞の外に蓄積し、老人斑(アミロイド斑)が形成されます。
アミロイドβの蓄積が神経毒性を示して、傷ついた神経細胞がアポトーシスを起こして脳が萎縮していくと考えられています。
アミロイド仮説というのは、アミロイドβの蓄積を防ぐことが、アルツハイマー型認知症の根本治療につながるという考え方です。
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アミロイドβは、記憶及び学習と関わるシナプス活性の調節する働きを持ち、通常は一定濃度に保たれています。代謝が正常に行われていれば、古くなれば分解され、脳脊髄液から血液の中へ排泄されます。
アミロイドβの排泄には、グリンファティック系や硬膜リンパ管が重要な役割を果たしていると考えられます。詳しく関連記事をご参照ください ↓
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しかし、産生と分解のバランスが崩れて、アミロイドβが過剰になると、凝集されてアミロイドβオリゴマーを形成して、神経毒性を示します。
高分子アミロイドβオリゴマーの1つである「プロトフィブリル」は強い酸化傷害作用を持っています。
そのためアミロイドβ分子を結合して、線維状のアミロイド線維を形成して、その毒性を緩和しています。
このアミロイド線維が細胞外に蓄積したのが、老人斑(アミロイド斑)となります。
「レカネマブ」はアミロイドβのプロトフィブリルに対して高い親和性を示すモノクローナル抗体であり、「アデュカヌマブ」はアミロイド線維やアミロイド斑に対する親和性が高いモノクローナル抗体と考えられています。
「レカネマブ」はアミロイドβが凝集していく過程の中間段階であるプロトフィブリル(アミロイドβオリゴマー)を取り除く抗体医薬品と考えられています。
レカネマブの有効性
第Ⅲ相試験(Clarity AD試験)
脳内アミロイド病理が確認されたアルツハイマー病(AD)による軽度認知障害(MCI)および軽度AD 1795人を対象とした、プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験(レカネマブ群 n=898、プラセボ群 n=897 )
主要評価項目 CDR-SB(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)
患者本人と介護者にインタビューを行い、記憶、見当識、判断力・問題解決、社会適応、家庭状況・興味・関心、介護状況の6項目について、評価表に基づいて「健康(CDR0点)」、「認知症疑い(CDR0.5点)」、「軽度認知症(CDR1点)」、「中等度認知症(CDR2点)」、「重度認知症(CDR3点)」の5段階に分類します。各項目 0~3 点の 6項目なので、最大18点となります。
投与18ヵ月時点での主要評価項目であるCDR-SBスコアの平均変化量は、レカネマブ投与群がプラセボ投与群と比較して-0.45となり27%の悪化抑制を示し主要評価項目を達成したと発表されました。
第Ⅲ相試験の結果が2023年1月5日にNEJM誌に論文が掲載されましたので、それを基に有効性の評価を行いました。
Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease
N Engl J Med. 2023 Jan 5;388(1):9-21.doi: 10.1056/NEJMoa2212948.
ベースラインでの平均 CDR-SB スコアは、両群とも約 3.2 でした。
18 ヵ月時のベースラインからの平均変化は、レカネマブ群で 1.21、プラセボ群で 1.66 でした 。
つまり、18ヵ月投与を行った結果、プラセボ群ではCDR-SBスコアが1.66点悪化したのに対して、レカネマブ群ではCDR-SBスコアが1.21点悪化したので、0.45点悪化するのを抑制できた(27%抑制)という結果です。
CDR-SBスコアは18点のうちのわずか0.45点変化したにすぎません。
MCIや早期AD患者に投与したとしても結局悪化しており、それをわずかに抑制したという結果にすぎません。
この結果にどれだけ臨床的な意味があるのか大きな疑問があります。
アルツハイマー病治療の真のエンドポイントとして、”施設入所を遅らせて自立して生活できる期間を延ばすこと”が重要となります。
真のエンドポイントについては、関連記事をご参照ください ↓
またグラフから考察すると、治療による有効性は最初の12ヵ月に起こり、それ以降、両群の軌跡がほぼ平行となっています。
やはりアミロイドβによる単一病因論には無理があり、”アミロイド仮説の誤り”を証明する結果ともいえるのではないかと考えます。
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まとめ
エーザイと米バイオジェンが開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」は、アミロイドβのプロトフィブリルに対して高い親和性を持つモノクローナル抗体です。
アミロイドβが凝集していく過程の中間段階であるプロトフィブリル(アミロイドβオリゴマー)を取り除くモノクローナル抗体として、同じアミロイドβ抗体のアデュカヌマブより期待されています。
第Ⅲ相試験(Clarity AD試験)の有効性の主要評価項目である CDR-SB スコアの変化量は、レカネマブ投与群がプラセボ投与群と比較して-0.45となり27%の悪化抑制を示したと発表されています。
しかしその詳細を確認すると、18ヵ月投与を行った結果、プラセボ群ではCDR-SBスコアが1.66点悪化したのに対して、レカネマブ群ではCDR-SBスコアが1.21点悪化したので、0.45点悪化するのを抑制できた(27%抑制)という結果でした。
CDR-SBスコアは18点のうちのわずか0.45点が変化したにすぎません。
この結果にどれだけ臨床的な意味があるのか大きな疑問があります。
やはりアミロイドβによる単一病因論には無理があり、アデュカヌマブと同様に”アミロイド仮説の誤り”を証明する結果ともいえるのではないかと考えます。