「記憶と自己」海馬とトラウマとアルツハイマー

「記憶と自己」海馬とトラウマとアルツハイマー

「慢性炎症」肥満と糖化によるリスク

【この記事のまとめ】
記憶というのは、過去の経験から学習して、未来のより効率的な生存を選択するために、ホメオスタシス(恒常性維持)という生命の本質から生まれたシステムです。

脳内の神経ネットワークにおいて、感覚の固定化を行うのが記憶であり、それが自己意識の本質となります。記憶により過去から今という時間軸が生まれ、そして自己という自伝的なストーリーが生みだされています。

記憶の中枢である海馬は、非常に繊細でストレスに弱く、ダメージを受けやすい特徴があります。

脳はこれから起こり得る出来事に備え、無意識下でデフォルト・モード・ネットワークを形成して活動をしています。海馬の機能もそのネットワークに大きく関与しています。

危機的な出来事により海馬の一時的な機能障害が起こったため、恐怖の記憶の断片だけが残った場合に、トラウマ(心的外傷)が残ってしまいます。

海馬の機能障害が少しずつ少しずつ進行していくのがアルツハイマー病であり、やがて自分の年齢や名前さえ忘れて、自己の喪失につながっていきます。

 

私たちが生き続けるためには、体内を一定の範囲内の状態に保つこと(恒常性維持)、外部との関係を良好に保つこと(危機管理)が必要です。

生命とは基本的に危うい存在であり、酸素や二酸化炭素の濃度や、体液の酸度(PH)、体内温度についても、かなり狭い範囲内でしか生存できません。

また、体内を循環する栄養素の量もそうであり、糖質・脂質・タンパク質やその他の微量栄養素についても、その変動範囲を超えてしまうと、身体は不快に感じるようになっています。

そのため脳は神経系や内分泌系(ホルモン)によって、体内を動的にコントロールし続けています。

そして脳の記憶という機能も、実は恒常性を維持するために、私たち人間に与えられたシステムなのです。

 

エネルギー代謝による栄養素の調整については、関連記事をご参照ください ↓

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記憶と自己

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私たちが生まれた時は、自己という意識は存在しません。

私たちは生命を維持するために、体内あるいは外部から常に情報を集めて、恒常性の範囲から外れないようにしています。

脳は内臓や感覚器から得られた知覚情報をまとめて、身体内部の状態をモニターして、イメージとして把握をしています。

恒常性からのずれを知らせる役目として、内臓の生み出す筋肉の動きが情動となり、心となって現れます。

 

さらに複雑になった知覚を統御するために、神経細胞のネットワークにおいて変化しないように、感覚の固定化を行うようになりました。それが記憶であり、自己意識の本質となります。

記憶のなかの自己の状態や刺激を思い出すことで、かつての状態の自己と、それを思い出している自己との連続性が生まれます。

過去から今という時間軸が生まれ、そして自己という自伝的なストーリーが生みだされていきます。

 

過去の経験から学習して、未来のより効率的な生存を選択するために、脳内でシミュレーションを行うことができ、ホメオスタシス(恒常性維持)という生命の本質から生まれた調整システムです。

 

記憶や自己意識というものは、ストレスや自律神経反応と深い関係があります。

肉体のリモデリングに関わる、呼吸や食べ物の消化吸収、血液の循環などの生命活動は、無意識の状態で行われていて、自己という意識は必要ありません。

 

デフォルト・モード・ネットワーク Default Mode Network(DMN)

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私たちの脳はぼんやりとしている時でも、脳が勝手に仕事をしている脳内ネットワークがあります。

脳は意識的な活動を行っている時より、この無意識下で行う活動に20倍ものエネルギーを消費すると言われています。

実は私たちがぼんやりしている時に、脳では非常に重要な活動が起こっているのです。

この脳活動をデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と呼び、脳の複数領域で構成される最も大きな脳内ネットワークの一つだと考えられています。

DMNは、自動車がいつでも再発進できるように、エンジンを低速回転でアイドリングさせているのと似た状態です。

脳がこれから起こり得る出来事に備え、すぐ意識した行動ができるように、脳内のネットワークをアイドリング状態に保っているのです。

 

脳のアイドリングについては、関連記事をご参照ください ↓

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海馬と扁桃体

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海馬の働き

海馬は大脳辺縁系の一部で、側頭葉の内側部に存在します。脳の記憶や空間認知に関わる脳の器官です。

海馬には外部からの様々な感覚情報が入力されます。五感により、見たり、聞いたり、味わったり、匂いを嗅いだり、触れたりした刺激は、すべて海馬で統括されて整理されています。

海馬は日常的な出来事や覚えた情報を、要か不要か判断して整理整頓し、その後、大脳皮質に保存されていきます。脳の中で、新しい記憶は海馬に、古い記憶は大脳皮質にファイルされています。

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アルツハイマー病 における最初の病変部位としても知られており、最も研究の進んだ脳部位でもあります。

この記憶の中枢である海馬は、非常に繊細でストレスに弱いという特徴があります。

ストレス を長期間受け続けると 、コルチゾールの過剰分泌により、海馬の神経細胞が破壊され、海馬が萎縮していきます。

また海馬は虚血による酸素不足に非常に弱く、脳がダメージを受けるときには、最初に海馬から機能がストップするといわれています。

 

ストレスとホルモン、海馬の機能障害によるHPA軸のダウンレギュレーションについては、関連記事をご参照ください ↓

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扁桃体の働き

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扁桃体は、海馬と同じく大脳辺縁系の一部で、快、不快などの情動に関わります。

扁桃体は、海馬から送られてくる視覚や味覚など感覚器からの記憶情報を、それが「快」か「不快」かを瞬時に判断しています。つまり海馬と扁桃体との間で、私たちの感情が作り出されています。

扁桃体の「快」か「不快」かの判断が、自律神経反応やホルモン分泌の中枢である視床下部に伝えられ、私たちの体の自律神経が反応します。

 

扁桃体は、五感からの感覚情報を判断し、危険とつながるものなのかどうかを、過去の記憶(海馬)から評価しています。

強く生命の危機を感じて、交感神経反応(闘争・逃走 反応)で対応できない場合には、防御反応を示してシャットダウン(凍りつき反応)を起こします。

 

ポリヴェーガル理論、凍りつき反応(シャットダウン)については、関連記事をご参照ください ↓

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トラウマになる原因

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心的外傷(トラウマ)

外的内的要因による肉体的及び精神的な衝撃(外傷的出来事)を受けた事で、長い間それにとらわれてしまう状態のことです。

 

心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder:PTSD)

トラウマが突如として記憶によみがえり、フラッシュバックするなど特定の症状がでて、持続的に著しい苦痛を伴うことを急性ストレス障害といいます。それが1ヵ月以上持続する場合に、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と呼ばれます。

地下鉄サリン事件や阪神大震災の被害者が、PTSDになったことで注目されるようになりました。

 

フラッシュバック

その体験の記憶が自分の意志とは無関係に思い出され、その時と同じ感情、身体の感覚を感じたり、実際に当時の光景が見えたり、加害者がすぐ近くにいるように感じるというものです。

過覚醒症状

そわそわして驚きやすくなったり、周囲の物事に敏感に反応するようになったりします。

回避

トラウマを思い出して不快にならないようにするため、感情自体がマヒして自分の体の感覚がなくなっていったりします。トラウマを想起しないように無意識に、行動や人との接触を避けるようになります。

 

トラウマと海馬の関係

海馬は出来事がいつから始まり、どのくらい続いて、いつ終了したのかを記憶しています。

しかし、危機的な出来事により海馬の一時的な機能障害が起こったため、「いつ、どこで、どのように、なぜ起こったのか、その結果はどうなったのか」という、つながりが分からなくなっています。

非常に不安定な状態になっているので、記憶の断片がフラッシュバックしたりします。

トラウマ体験は記憶が断片化していますので、その一部を思い出すと、それが様々な断片的なイメージと結びついて、何もかもが怖くなってしまったりします。

本来脳は、一度恐怖を体験し、恐怖を事前に予測できるようになると、扁桃体のブレーキ回路が活性化して、さらなるトラウマ記憶が作られるのを防いでいます。

このブレーキ回路がうまく働かないと、危機が去っても安心することができず、また何度でも同じ目に遭うかもしれない恐怖を感じてしまいます。

不安や緊張が消えることがないので、その防御反応として、現実感をなくしてぼんやりとし、記憶の一部を飛ばしてしまったりします。

海馬の一時的な機能障害により、トラウマが終わったことを記憶できていない場合、感覚と感情などの潜在記憶だけが残ってしまい、それがブロックとなって人間関係や社会生活に苦しむ場合があります。

 

アルツハイマーにおける自己喪失

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海馬の機能障害が少しずつ少しずつ進行して、機能を失っていくのがアルツハイマー病です。

アルツハイマー患者では、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)のつながりが弱いことが分かっています。

 

自分が何処にいて何をしているという情報認識は、DMNにおける記憶による海馬の役割であり、見当識の脳内ネットワークが働いています。

アルツハイマー患者は起る出来事を次から次へと忘れる(新しいことが記憶できない)ため、一貫した連続性を自覚するための時間経過を把握できません。

ここへ来てどのくらい時間が経ったのか、この出来事とあの出来事はどちらが先なのか、という時間の順序付けが困難になっています。

DMNが十分に機能せず、非常に不安感の強い状態になっています。

 

海馬の萎縮がどんどん進行すると、見当識の悪化がひどくなり、自己の存在感も薄れていきます。やがて自分の年齢や名前さえ忘れて、自分忘れ(自己の喪失)につながっていきます。

自己意識の本質となるのが記憶であり、それが失われていくからです。

 

アルツハイマー型認知症については、関連記事をご参照ください ↓

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まとめ

「記憶と自己」海馬とトラウマとアルツハイマー

 

記憶というのは、過去の経験から学習して、未来のより効率的な生存を選択するために、ホメオスタシス(恒常性維持)という生命の本質から生まれたシステムです。

脳内の神経ネットワークにおいて、感覚の固定化を行うのが記憶であり、それが自己意識の本質となります。

記憶により過去から今という時間軸が生まれ、そして自己という自伝的なストーリーが生みだされています。

 

記憶の中枢である海馬は、非常に繊細でストレスに弱く、ダメージを受けやすい特徴があります。

脳はこれから起こり得る出来事に備え、無意識下でデフォルト・モード・ネットワークを形成して活動をしています。海馬の機能もそのネットワークに大きく関与しています。

 

危機的な出来事により海馬の一時的な機能障害が起こったため、恐怖の記憶の断片だけが残った場合に、トラウマ(心的外傷)が残ってしまいます

トラウマが終わったことを海馬が記憶できていないと、危機が去っても安心することができず、また何度でも同じ目に遭うかもしれない恐怖を感じてしまいます。

 

海馬の機能障害が少しずつ少しずつ進行していくのがアルツハイマー病であり、やがて自分の年齢や名前さえ忘れて、自己の喪失につながっていきます。

自己意識の本質となるのが記憶であり、それが失われていくからです。

 

「記憶と自己」海馬とトラウマとアルツハイマー