「ファシアの水和調整」真のファシアリリースとは
筋膜(ファシア)リリースという言葉がよく使われるようになり、筋膜(ファシア)の機能不全を癒着という言葉で表現されているのをよく目にします。
筋膜同士が糊で貼りついたような状態(癒着)を、機械的な力で引き剝がして、筋膜の滑走性をよくするのが「筋膜剥がし=筋膜リリース」であると、説明されている場合が多いように思われます。
しかし、本当は、結合組織でファシアの機能不全の多くは、ファシアに脱水が生じて、ファシアの連続性(情報伝達)が失われているのが原因です。
真のファシアリリースとは、コラーゲン線維を引き剥がすことではなく、ファシアが正常に水和した状態を回復し、情報伝達する機能を高めて、本来の全体性(つながり)をとり戻すことにあります。
ファシアの構造と役割
ファシア(fascia)は、狭義の筋膜(myofascia)ではなく、筋膜や骨膜、そして内臓・神経・血管など様々な組織を包んでいます。
ファシアは、コラーゲン、エラスチンなどの繊維と、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンなどの基質、水分によって成り立っています。
その中で大部分を占めるのが、コラーゲン線維です。
また、代表的な基質の1つは、グリコサミノグリカンであるヒアルロン酸で、保水性が高く大量の水分と結びつく性質があります。
私たちの体が恒常性を維持するためには、連続性をもったネットワークによって、絶えず情報伝達が行われる必要があります。
ファシアのネットワークは、情報伝達(機械的・化学的・電気的)を行い、神経・血液・リンパ液の働きに大きく関わって、私たちのホメオスタシスを支えています。
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ファシアの脱水
基質のヒアルロン酸は、高分子量グリコサミノグリカンポリマーで、β-1,3およびβ-1,4グリコシド結合によって接続された、D-グルクロン酸とN-アセチルD-グルコサミンの二糖の繰り返し構造をしています。
ヒアルロン酸は、保水性が高く大量の水分と結びつく性質があり、ファシアのネットワークに充填している水分の大部分(約70%)は、水和した基質のゲルによるものです。
加齢や長時間の不動、炎症などによって、ヒアルロン酸の分子が凝集(高密度化)して、水分量が低下して(脱水)し、ゲルの粘度が上昇してネバネバの状態になります。
ヒアルロン酸の脱水による高密度化については、関連記事をご参照ください ↓
コラーゲンは 3 つの左巻きのポリペプチド鎖で構成され、これが巻かれて右巻きの三重らせん構造、つまりトロポコラーゲン(コラーゲン分子)を形成します。
トロポコラーゲンは自己組織化して、中間の原線維構造 (ミクロフィブリル) を形成します。
これがさらに会合して、原線維の強度を最大化する整然とした分子パッキング構造を形成して、コラーゲン線維となります。
トロポコラーゲン(コラーゲン分子)の自己組織化の過程で、水はコラーゲン分子と相互作用し、コラーゲンの機械的特性を制御する水和殻を形成します。
タンパク質の自己組織化と水和殻については、関連記事をご参照ください ↓
水和は、コラーゲンの構造と力学の関係において重要な役割を果たしています。
コラーゲン原線維の力学は、水和の程度に大きく依存し、結合水の損失(脱水)は原繊維の収縮につながり、それに応じて機械的特性に影響を及ぼします。
脱水によって、コラーゲン線維が縮こまって捻じれてしまったような状態になり、本来のバイオテンセグリティのネットワークが機能しなくなります。
コラーゲンの水和と脱水と機械的変形については、関連記事をご参照ください ↓
ファシアの水和調整
コラーゲン原線維の機械的変形に関しては、粘弾性の性質があります。
コラーゲン内の水分子が構造の安定化に役立っており、脱水するとコラーゲン線維の配向が乱れます。
コラーゲン線維の硬い領域は、機械的に変形させるのがより難しく、より高い弾性率を持ち、圧電性が低下することがわかっています。
粘性変形は、コラーゲン分子の再配置や、原線維内の水分子の再配置および分子間の水素結合のダイナミクスに起因すると考えられています。
弱い力でゆっくりと負荷をかけると、分子のねじれがまっすぐになり、三重らせんの小さな領域が解けて、剛性が低くなります。
コラーゲンの三重らせんがほどけてまっすぐになる一方で、分子内水素結合が破壊され、コラーゲンと水の水素結合が形成されます。
水素結合の破壊と再形成が、張力下でのコラーゲン原線維の粘性挙動が現われます。
弾性変形は、コラーゲン分子の伸張に起因すると考えられています。
より強い力で負荷をかけると、三重らせんの骨格が引き伸ばされ、高い剛性をもたらします。
その時にはコラーゲンの水和変化は起こりません。
コラーゲン線維の粘弾性については、関連記事をご参照ください ↓
手技によるファシアリリースでは、施術者は持続的に弱い力を作用させて、コラーゲンに水和変化を起こして粘性変形させて、ネットワークの連続性(つながり)を回復させます。
ファシアの機能調整
ファシアの張力ネットワークによって、機械的な力は体全体に伝えられます。
さらに、機械的な力は、メカノトランスダクションにより化学的な力にも変換され、また圧電効果により電気的なエネルギーにも変換されます。
バイオテンセグリティのネットワークでは、機械的にも化学的にも電気的にも情報伝達が行われ、私たちの体の恒常性が維持されています。
圧電効果については、関連記事をご参照ください ↓
メカノトランスダクションについて、関連記事をご参照ください ↓
コラーゲンに水和している結合水(水和殻)は、EZ水と呼ばれると特性を有して、水の第4の層である液晶構造をとっています。
生体内の液晶水(EZ水)は電気エネルギーを生成し、エネルギーや情報の伝達に優れており、ファシアの安定した構造を支えています。
ファシアの脱水により、この液晶水(EZ水)が失われると、ファシアの情報伝達の機能が失われてしまいます。
EZ水については、関連記事をご参照ください↓
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手技では、施術者側のファシアのネットワークを機能させて、微細な振動やエネルギーを共鳴させることで、ファシアの液晶水(EZ水)を回復させて、情報伝達機能を高めます。
まとめ
ファシアの機能不全の多くは、ファシアに脱水が生じて、ファシアの連続性(情報伝達)が失われているのが原因です。
水和は、コラーゲンの構造と力学の関係において重要な役割を果たしています。
コラーゲン原線維の力学は、水和の程度に大きく依存し、結合水の損失(脱水)は原繊維の収縮につながり、それに応じて機械的特性に影響を及ぼします。
コラーゲンに水和している結合水(水和殻)は、EZ水と呼ばれると特性を有して、水の第4の層である液晶構造をとっています。
液晶水(EZ水)は電気エネルギーを生成し、エネルギーや情報の伝達に優れており、ファシアの安定した構造を支えています。
真のファシアリリースとは、コラーゲン線維を引き剥がすことではなく、ファシアが正常に水和した状態を回復し、情報伝達する機能を高めて、本来の全体性(つながり)をとり戻すことにあります。