生体水の秩序性「EZ水」
私たちの生命の不思議の1つは、エントロピーが増大せずに生体の形が維持され、秩序性が保たれていることです。
なぜ生体内で起こる無数の化学反応(代謝)が、時間的・空間的に適切に行うことができるのでしょうか。
また私たちの身体の大部分を占める「生体の水」にその秘密が存在するかもしれません。
Tissutal and Fluidic Aspects in Osteopathic Manual Therapy: A Narrative Review
Healthcare (Basel). 2022 May 31;10(6):1014. doi: 10.3390/healthcare10061014
生体の秩序性と水
人体科学 第 25 巻第 1 号:81-83,2016
EZ水(Exclusion Zone Water)
水は細胞内に最も多く存在する分子であり、細胞全体の約70%を占めています。
細胞には小器官があり、核酸、タンパク質、脂質、糖質などの様々な高分子が細胞膜の中にしっかりと詰まっています。
このため細胞内の水分子は親水性表面から数ナノメートルの距離にあり、その多くは界面に存在して溶質を排除するという特徴を持っています。これを EZ水(Exclusion Zone Water)と呼びます。
この特徴は、細胞の健康と機能にとって、大きな意味を持ちます。
実験系では100μmとかなり厚い層として観察され、周囲のバルクの水と性質が大きく異なります。
EZ水は特定の化学的・物理的特性を持っており、バルクの水(親水性表面から離れている)よりも粘度が高く、より安定した構造をとり、分子運動性はより制限されています。
EZ水が液晶構造を持つとし、従来の固体(氷)・液体(水)・気体(蒸気)という三相で捉えられていた水に、「第四の層」があるとも論じられています。
筋肉の収縮、分泌、神経伝導などのほとんどの細胞機能は、タンパク質の折り畳みに依存しています。
このEZ水が不足すると、タンパク質は通常の機能環境から外れ、折り畳みに異常が生じてしまいます。
またEZ水は、コラーゲンの三重らせんの安定化や骨基質内のミネラル粒子の配向にも役立っています。
つまり、EZ(Exclusion Zone)の変化は、機能障害または病理学的機能を引き起こす可能性があります。
タンパク質間の結合を導き、自己組織化を可能する水和殻(EZ水)の働きについては、関連記事をご参照ください ↓
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この水の層は親水性の面の側にマイナスの電荷がチャージされており、一方その対側のバルクの水がプラスとなって電位勾配を持つことで、電子の供給源になると同時に、電池のごとくエネルギーを蓄える働きを持つと考えられます。
この層に赤外光(IR)を照射すると厚みを増すことから、生体が環境からエネルギーを得る機序としても考えられています。
Colloid Interface Sci Commun. 2021 May:42:100397
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心臓を超えた血液循環の原動力
On the driver of blood circulation beyond the heart
PLoS One. 2023 Oct 19;18(10):e0289652. doi: 10.1371/journal.pone.0289652
生理学的機能の中で、血液循環は最も基本的な機能の 1 つです。
この適切な循環がなければ生存できる細胞はほとんどありません。
血流を左右する要因は、主に心臓から発生する圧力であることは広く知られています。
一方で、心臓が鼓動していなくても血液は流れることができることも確認されており、心臓が循環の唯一の推進力ではない可能性があります。
圧力だけが流体の流れを動かす唯一の方法ではなく、管状の表面に関係する駆動力からも流れが発生する可能性があり、その流れは赤外線(IR)エネルギーによって促進されます。
血管壁のすぐ内側には、EZ(Exclusion Zone)が存在し、赤血球は排除されてありません。
水と表面との相互作用が血管系にも存在しています。
この EZ と表面の相互作用によって表面誘導流が引き起こされます。
毛細血管などの管状構造内では、流体が圧力勾配とは無関係に移動できるため、EZ が血流の駆動力として働いている可能性があります。
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コヒーレント・ドメイン(CD)
水分子が電磁場と相互作用をすることで、直径約100nmで、それ自体が電磁場をトラップしたコヒーレント・ドメイン(CD)としての水分子集団が形成され、これが生体に様々な機能を与えています。
生物組織では、利用可能な水中に電子が存在すると、化学反応(代謝)が発生する可能性が生じます。
このドメインは特に生体膜の近傍に形成されやすく、自由な電子をまとっており、生体の還元反応における電子の供給源として働いています。
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また、このドメインは、熱エネルギーなど外部からの乱雑なエネルギーをコヒーレントな振動に変換する働きを持ち、その振動モードは赤外光領域にあります。
様々な化学反応がこのドメインの元で生じ、反応に必要なエネルギーが与えられると同時に、このドメインの振動の共鳴が、反応の選択性や同時性・連続性に寄与しているとされます。
生体ではコヒーレント領域の空間的広がりが、細胞、器官、組織などの巨視的なサイズに達する可能性があります。
熱力学の観点からは、水のコヒーレント・ドメインは散逸構造と考えることができます。
散逸系は外部環境とのエネルギーの継続的な交換を通じて自己組織化することができ、そのエントロピーを減少させます。
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EZ水が織りなす液晶構造は、生体の秩序性の表れであり、生体におけるEZ水は、巨大なコヒーレント・ドメインであるとも論じられています。
まとめ
生体内の親水性表面近くの水は、溶質を排除するという特徴を持っており、 EZ水(Exclusion Zone Water)と呼ばれています。
このEZ水の特徴は、周囲のバルクの水と性質が大きく異なり、細胞の健康と機能にとって、大きな意味を持ちます。
EZ水はより安定した液晶構造をとって、粘度が高く分子運動性はより制限されています。
EZ水はタンパク質の折り畳みや、コラーゲンの三重らせんの安定化などにも影響を与えており、EZの不足は機能障害もしくは病理学的機能を引き起こす可能性があります。
EZ水の親水性の面の側にマイナスの電荷がチャージされており、一方その対側のバルクの水がプラスとなって電位勾配を持つことで、電子の供給源になると同時に、電池のごとくエネルギーを蓄える働きを持つと考えられます。
血管壁のすぐ内側には、EZ(Exclusion Zone)が存在し、赤血球は排除されてありません。
毛細血管などの管状構造内では、流体が圧力勾配とは無関係に移動できるため、EZ が血流の駆動力として働いている可能性があります。