コラーゲン線維の圧電性と骨形成
さまざまな生命活動や病態に「物理的な力」が関与していることが分かり、メカノバイオロジーという分野が注目されています。
私たちの細胞は生化学的な要因だけでなく、自身に加わる力や変形といった力学環境の変化に応じて、増殖や代謝といった機能を調節しており、それが恒常性維持(ホメオスタシス)につながっています。
骨組織は主にコラーゲン線維とアパタイトミネラルで構成されていて、骨が重力や運動等のメカニカルストレスを受けると電気エネルギーが発生することが知られています。
コラーゲン線維の機械的変形が電気的エネルギーに変換され、それが骨の形成につながっています。
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圧電気(ピエゾ電気)piezoelectricity
The application of nanogenerators and piezoelectricity in osteogenesis
Sci Technol Adv Mater. 2019 Nov 19;20(1):1103-1117. doi: 10.1080/14686996.2019.1693880.
圧電性(圧電効果)は、機械的変形に応じて電界を生成する特定の固体材料の能力です。
この現象は、結晶材料における機械的状態と電気的状態の間の線形電気機械的相互作用に起因すると考えられています。
圧電材料における電場の起源は、反転対称性の破れであり、一部の原子を近づけたり遠ざけたりして、正の力と負の力のバランスを崩し、正味の電荷を発生させます。
この効果は構造全体に伝わり、正味の正と負の電荷が結晶の反対側の外面に現れます。
圧電材料には、石英、ベルリナイト、スクロース、トパーズなどの天然材料や、骨、絹、歯の象牙質、エナメル質のコラーゲンなど生物学的材料が知られています。
コラーゲンの圧電性
三重らせん構造を持つコラーゲン線維は、高度に配向されパターン化されています。
この構造は、張力、圧縮、ねじれなどの機械的応力に対して集合的で一貫した応答を示します。
圧電効果は、コラーゲン線維にせん断力を加えてコラーゲン線維を互いにすり抜けさせるときに現れます。
コラーゲン線維の三重らせん構造については、関連記事をご参照ください ↓
骨の圧電性と骨形成
私たちの骨は体のさまざまな部分を支え、保護する硬い器官です。
その構造は階層的であり、細胞外マトリックスと細胞成分(骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞および骨髄細胞)で構成されています。
細胞外マトリックスは、65% のミネラルマトリックスと 35% の有機マトリックスで構成されています。
I 型コラーゲンは有機マトリックスの約90% を構成し、細胞外マトリックスの引張強度に寄与する三重らせん構造を持っています。
骨の圧縮強度に関与する無機ミネラルは、カルシウムヒドロキシアパタイトの形でコラーゲン原線維に組み込まれています。
骨芽細胞は間葉系幹細胞から発生し、骨形成を担当します。
一方、破骨細胞は骨髄内の造血前駆細胞に由来する多核細胞であり、骨吸収を担当します。
骨細胞は、骨芽細胞と破骨細胞の活動を制御する機械センサー細胞であると考えられています。
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ウォルフの法則
骨はそれに加わる力に抵抗するのに、最も適した構造を発達させる。
つまり、骨に外力が加わると骨の内部に応力が生じ骨は歪むが、その応力が大きい部位ほど骨の組織が増殖し部厚く丈夫になって外力に抵抗します。また反対に、応力が小さい部位は骨組織が吸収されて薄くなります。
生物物理学的な観点から見ると、骨のリモデリングは骨芽細胞と破骨細胞の間の相互作用であり、骨の形成と吸収のプロセスを調節する役割を果たします。
骨折治癒は、骨芽細胞が活性化されて骨折部位の修復が促進される生理学的プロセスです。
骨は機械的に変形すると圧電気が発生します。
機械的な力によって骨内部のコラーゲンの圧電効果は、骨細胞の活性化に強い影響を与えることが示されています。
骨の機械的変形によって引き起こされる圧電は、骨の圧縮領域ではマイナスの電荷を帯び、牽引領域ではプラスの電荷を帯びます。
マイナス電荷によって、骨細胞上の電位依存性カルシウムチャネルが開かれます。
電位依存性カルシウムチャネルが開いた後、これが引き金となってシグナル伝達経路のカスケードが引き起こされ、最終的に骨形成が促されることになります。
まとめ
圧電性(圧電効果)は、機械的変形に応じて電界を生成する能力で、生物学的材料としてコラーゲン線維があります。
骨組織は主にコラーゲン線維とアパタイトミネラルで構成されていて、骨が重力や運動等のメカニカルストレスを受けると電気が発生することが知られています。
骨の機械的変形によって引き起こされる圧電は、骨の圧縮領域ではマイナスの電荷を帯び、牽引領域ではプラスの電荷を帯びます。
マイナス電荷によって、骨細胞上の電位依存性カルシウムチャネルが開かれます。
電位依存性カルシウムチャネルが開いた後、これが引き金となってシグナル伝達経路のカスケードが引き起こされ、最終的に骨形成が促されることになります。
ウォルフの法則「骨はそれに加わる力に抵抗するのに、最も適した構造を発達させる」を説明するための1つの理論として、骨の圧電性が考えられています。
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