「セカンドハンド・ストレス」ストレスの伝染

「セカンドハンド・ストレス」ストレスの伝染

「セカンドハンド・ストレス」ストレスの伝染

【この記事のまとめ】
共感とは、「自分」と「他者」の境界が一時的になくなるように感じられる現象であり、わたしたちの日常生活において、良好なコミュニケーションの構築に重要な役割を果たしています。

共感の負の側面として、他人のイライラや怒りが情動伝染して、自身のストレスになってしまいます。

「セカンドハンド・ストレス」とは、私たちが直接的に受けるストレスではなく、イライラしたり怒ったりしてストレス状態にある他人を見たり、その声を聞いたりすることで、間接的に受けるストレスのことです。

私たちは、ストレスを抱える他人を見ただけで、コルチゾール(ストレスホルモン)が分泌されてしまうのです。

 

近くにイライラしたり怒ったりしている人がいると、自分もイライラしまうことがよくあります。

ストレスを抱えた人から間接的に受けるストレスのことを、「セカンドハンド・ストレス」と呼びます。

ストレスというのは、他者へと情動伝染する厄介な存在なのです。

 

 

Embodied stress: The physiological resonance of psychosocial stress

Psychoneuroendocrinology. 2019 Jul;105:138-146. doi: 10.1016/j.psyneuen.2018.12.221.

ストレス反応

「セカンドハンド・ストレス」ストレスの伝染

 

ストレスとは、外部または内部の影響によって生物の恒常性が脅かされていると認識された状態です。

視床下部-下垂体-副腎 (HPA 軸)によってコルチゾールと、交感神経系によってカテコールアミン(ノルエピネフリン・エピネフリン)が放出され、特に行動、代謝、心血管、免疫、胃腸の機能が調節されます。

 

本来、ストレス反応というのは、急性の課題に直面した場合の健康的な適応機能です。

私たちが逆境に直面した時、交感神経反応(闘争・逃走反応)を行うために必要な動機とエネルギーを提供してくれます。

しかし、短期的には適応するためのメカニズムも、慢性的に長期化すると、病態生理学的変化を促進してしまいます。

アロスタティック負荷と呼ばれる、長期的なストレスにより蓄積された体と脳の消耗状態につながります。

特に交感神経系および HPA軸のそれぞれの生理学的変化は、心血管疾患、代謝性疾患、自己免疫疾患、精神疾患等と関連しています。

 

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情動伝染

「セカンドハンド・ストレス」ストレスの伝染

Ventromedial prefrontal neurons represent self-states shaped by vicarious fear in male mice

Nat Commun. 2023 Jul 3;14(1):3458. doi: 10.1038/s41467-023-39081-5.

 

共感とは、「自分」と「他者」の境界が一時的になくなるように感じられる現象であり、わたしたちの日常生活において、良好なコミュニケーションの構築に重要な役割を果たしています。

 

他者が怖いと感じている様子を見ることで、その感情が移ったかのように、自分自身も怖いと感じるようになることが知られています。
この時、脳内で「他者の感情」と「自分の感情」がどのように情報処理されるかを調べたところ、前頭前野という脳領域に「自分と他者の感情の情報を、同時に合わせ持って表現する」神経細胞が存在することが発見されました。

共感時に「自分」と「他者」の情報を合わせ持つニューロンは、自他の境界がなくなるように感じられる脳内メカニズムに寄与する可能性があります。

 

私たちはペリパーソナルスペースと呼ばれる身体周辺空間で、内的な身体イメージと周囲の空間とを感覚統合しています。

皮膚の外側にある身体を取り囲む空間(ペリパーソナルスペース)は、多感覚を統合するための知覚空間として存在しおり、私たちの脳はそれを自己と認識しています。

ペリパーソナルスペースは、自己と他者との間で共有することができ、自己と同じように他者のペリパーソナルスペースにも、私たちの脳は反応してしまいます。

 

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身体と空間の自己イメージ「ぺリパーソナルスペース」

自己と環境の相互作用「ペリパーソナルスペースの動的変化」

「セカンドハンド・ストレス」

「セカンドハンド・ストレス」ストレスの伝染

 

私たちは人間は、社会生活を行う動物であり、生活の中で互いに影響し合っています。

特に他者と協働する場合、自分自身の行動を最適化するために、他者の行動、目標、状況を感覚的な経験を含めて理解する必要があります。

 

ミラーニューロン(Mirror Neuron)

ミラーニューロンとは、脳内で自ら行動する時と、他人が行動するのを見ている状態の時の、両方で活動電位を発生させる神経細胞のことです。

主に運動前脳と頭頂部の脳領域に見られ、他人の行動の視覚的イメージを自分の行動のイメージと直接一致させます。

他人の行動を見て、まるで自身が同じ行動をとっているかのように”鏡”のような反応をすることから名付けられました。

 

共感とは、最初にその状態を経験した人と、その状態を観察するもう一人の人との間で感情状態を共有することです。

私たちは他人の行動や感情をイメージだけではなく、まるで自分が体験しているかのような共感として感じ取る能力があります。

ミラーニューロンが、他人がしていることを見て、自分のことのように感じる共感能力を司っていると考えられています。

 

ミラーニューロンについては、関連記事をご参照ください ↓

身体と空間の自己イメージ「ぺリパーソナルスペース」

 

セカンドハンド・ストレス(Secondhand Stress)

「セカンドハンド・ストレス」とは、私たちが直接的に受けるストレスではなく、イライラしたり怒ったりしてストレス状態にある他人を見たり、その声を聞いたりすることで、間接的に受けるストレスのことです。

 

他人のストレスを感じてしまうのは、ミラーニューロンの働き、あるいはペリパーソナルスペースの共有による共感だと考えられます。

つまり、共感の負の側面として、他人のイライラや怒りが情動伝染して、自身のストレスになっています。

私たちは、ストレスを抱える他人を見ただけで、コルチゾール(ストレスホルモン)が分泌されてしまうのです。

 

コルチゾール(ストレスホルモン)については、関連記事をご参照ください ↓

「コルチゾール」ステロイドの抗炎症・免疫抑制作用とは?

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まとめ

「セカンドハンド・ストレス」ストレスの伝染

 

皮膚の外側にある身体を取り囲む空間(ペリパーソナルスペース)は、多感覚を統合するための知覚空間として存在しおり、私たちの脳はそれを自己と認識しています。

ペリパーソナルスペースは、自己と他者との間で共有することができ、自己と同じように他者のペリパーソナルスペースにも、私たちの脳は反応してしまいます。

 

共感とは、「自分」と「他者」の境界が一時的になくなるように感じられる現象であり、わたしたちの日常生活において、良好なコミュニケーションの構築に重要な役割を果たしています。

共感の負の側面として、他人のイライラや怒りが情動伝染して、自身のストレスになってしまいます。

「セカンドハンド・ストレス」とは、私たちが直接的に受けるストレスではなく、イライラしたり怒ったりしてストレス状態にある他人を見たり、その声を聞いたりすることで、間接的に受けるストレスのことです。

私たちは、ストレスを抱える他人を見ただけで、コルチゾール(ストレスホルモン)が分泌されてしまうのです。

 

 

「セカンドハンド・ストレス」ストレスの伝染