「痛みと身体所有感」ボディマッピング
体が硬い、どこか痛みがでる、うまく力が入らない場合には、神経からの情報が不足して脳の身体イメージ(ボディマッピング)の精度が低くなっています。
しばらく動かなくなった部位では、脳への感覚情報が不足して、脳がその部位の認識を低下させていきます。
つまり、身体の部分的な自己所有感が薄れてしまいます。
そうすると、痛みの知覚が活性化されて、侵害受容による内受容が行われやすくなります。
痛みの知覚と身体表現
Spatial sensory organization and body representation in pain perception
Curr Biol. 2013 Feb 18;23(4):R164-76. doi: 10.1016/j.cub.2013.01.047.
私たちはの多くは、痛みという症状を不都合な身体的なエラー(異常)のように捉えています。
本来、痛みというのは、私たちの体を守るための主観的な知覚です。
侵害刺激を検出するのは、体表面のほぼ全体を覆う末梢求心性神経、Aδ 繊維および C 繊維の侵害受容器の働きです。
Aδ線維 および C 繊維の侵害受容器については、関連記事をご参照ください ↓
私たちの脳は、身体周辺空間(ペリパーソナルスペース)で内受容と外受容の多感覚を統合した身体イメージをマッピングしています。
ペリパーソナルスペースについては、関連記事をご参照ください ↓
ボディマッピング(脳の身体イメージ)の観点から考えると、侵害受容システムの最も重要な機能は、潜在的な損傷から身体を保護することです。
痛みというのは、即座に防御行動を引き起こし、体に損傷を与える可能性のある危険を回避してくれます。
触覚や固有受容などの非侵害性刺激だけでなく、侵害性刺激による痛みの知覚もまたボディマッピング(脳の身体イメージ)に深く関わっています。
触覚については、関連記事をご参照ください ↓
固有受容感覚については、関連記事をご参照ください ↓
末梢では、Aβ線維は神経支配密度が高く、受容野が小さいのに対して、Aδ/C線維は神経支配密度が低く、受容野が大きくなります。
にもかかわらずAδ線維の侵害受容マップは、Aβ線維の非侵害性の機械受容の反応マップと高度に一致しています。
痛みと触覚をもたらす情報を伝達する求心性システムでは、侵害受容入力と非侵害受容入力の両方のきめの細かいマップが相互作用していると考えられます。
侵害刺激と非侵害刺激の相互作用については、関連記事をご参照ください ↓
私たちの脳は、複数の感覚信号を統合して、身体イメージを再マッピングして、侵害刺激情報に対して適切な運動反応を起こしています。
慢性疼痛と身体所有感
An illusion of disownership over one’s own limb is associated with pain perception
Sci Rep. 2023 Mar 1;13(1):2801. doi: 10.1038/s41598-023-29993-z.
私たちは、視覚や触覚および固有受容などによって、手足や身体の一部を自分のものとして多感覚的に認識しています。
健康な人では、「私の体は私のもの」という感覚は当然のことと考えられており、身体の所有感を意識することはほとんどありません。
痛みは複雑で意識的な経験であり、複数の脳領域がトップダウン制御に関与して、痛みの経験を調節しています。
自分自身の身体を見ること(視覚的フィードバック)によって活性化される身体の認知表現は、痛みの強さの主観的評価が低くなり、侵害刺激によって誘発される脳の反応が減少します。
また、視覚と固有受容の間の空間的不一致が、手足の所有感覚の喪失を誘発することがあります。
身体に関する神経情報にズレが生じると、ボディマッピング(脳の身体イメージ)が不鮮明になり、部分的に身体所有感が低下します。
ボディマッピング(脳の身体イメージ)がぼやけていると、潜在的な損傷の予測が低下するため、痛みの閾値の低下が警告システムとして機能しています。
そのため不動による拘縮が起こると、侵害受容による痛みの知覚が活性化されるのです。
呼吸による身体所有感の再調整
Respiratory rhythm affects recalibration of body ownership
Sci Rep. 2023 Jan 17;13(1):920. doi: 10.1038/s41598-023-28158-2.
身体の知覚は、自己意識を確立するために不可欠なものです。
自己意識については、関連記事をご参照ください ↓
呼吸というのは、ちょうど内受容と外受容の境界のような役割があり、身体知覚の再調整に寄与する可能性があります。
呼吸の最も重要な機能はガス交換ですが、認知機能に影響を与えることも知られています。
例えば、呼吸を操作すると記憶力と認知能力が向上することが報告されています。
呼吸については、関連記事をご参照ください ↓
位置感覚や所有感覚において、身体知覚の成立に呼吸リズムが関与しています。
手の知覚は、体性感覚(皮膚感覚や固有受容感覚など)の入力なしで、視覚と呼吸リズムの時間的および空間的統合によって再調整されます。
つまり、呼吸リズムの視覚的フィードバック環境を構築し、環境を空間的および時間的に操作することにより、手の所有感を変更することができます。
呼吸リズムは内受容として、ボディマッピング(脳の身体イメージ)の再調整に関与していると考えられます。
まとめ
本来、痛みとは私たちの体を守るための主観的な知覚です。
痛みというのは、即座に防御行動を引き起こし、体に損傷を与える可能性のある危険を回避してくれます。
触覚や固有受容などの非侵害性刺激だけでなく、侵害性刺激による痛みの知覚もボディマッピング(脳の身体イメージ)に深く関わっています。
ボディマッピングの観点から考えると、侵害受容システムの最も重要な機能は、潜在的な損傷から身体を保護することです。
私たちの脳は、複数の感覚信号を統合して、身体イメージを再マッピングして、侵害刺激情報に対して適切な運動反応を起こしています。
私たちは、視覚や触覚および固有受容などによって、手足や身体の一部を自分のものとして多感覚的に認識しています。
身体に関する神経情報にズレが生じると、ボディマッピングが不鮮明になり、部分的に身体所有感が低下します。
ボディマッピングがぼやけていると、潜在的な損傷の予測が低下するため、痛みの閾値の低下が警告システムとして機能します。
呼吸には、ガス交換という大きな役割がありますが、内受容としてボディマッピングの再調整にも関与しています。