「内因性フルクトース」代謝調整の意味
食事によって摂取した外因性フルクトースを代謝する、小腸・肝臓・腎臓以外にも、脳や筋肉、脂肪組織などにおいても、フルクトース代謝(Fructolysis)の能力があります。
内因性フルクトースが生体内で生成しているからです。
ではなぜグルコースをわざわざフルクトースに変換する必要があるのでしょうか?
フルクトースの特性
図は 化学のグルメ より引用
フルクトースは、グルコースの異性体で構造が異なります。
水溶液中のフルクトースは、ケトン基を有する鎖状構造のフルクトースが平衡状態で存在しています。
鎖状フルクトースのケトン基は、鎖状グルコースのアルデヒド基より反応性は低いです。
しかし、フルクトースはグルコースより鎖状構造での存在が大きいため、アミノ酸のアミノ基と反応するメイラード反応を起こしやすくなります。
フルクトースはグルコースと比べて、8~10倍の終末糖化産物(AGEs)を生成すると推定されています。
アルデヒド基を有する鎖状グルコースについては、関連記事をご参照ください ↓
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終末糖化産物(AGEs)については、関連記事をご参照ください ↓
ポリオール経路の役割
私たちのグルコースの代謝は、通常であれば解糖系(Glycolysis)で行われていますが、高血糖になると副経路であるポリオール経路が活性化されます。
グルコースが、アルドースレダクターゼ(AR)によって還元されてソルビトールを生成し、ソルビトールデヒドロゲナーゼによってフルクトースに変換されます。
高血糖状態では、ポリオール経路は体のグルコースの30%以上を利用すると推定されています。
フルクトース代謝(Fructolysis)によって、解糖系(Glycolysis)の律速酵素であるフルクトキナーゼ(PFK)をバイパスして、糖のエネルギー代謝反応を進めようとするホメオスタシスによる調整の現れです。
Fructolysisを併用することで、Glycolysisをより促進することができるようになります。
フルクトース代謝(Fructolysis)については、関連記事をご参照ください ↓
このポリオール経路の活性化が、AGEsの生成など、糖尿病性合併症の病因に大きな影響を与えていると考えられています。
しかし、ポリオール経路の活性化は、ホメオスタシスによる結果の現象であり、根本原因ではありません。
高血糖や過剰のNADHによる「還元ストレス」による、代替グルコース代謝経路の活性化については、関連記事をご参照ください ↓
セリン酸化グリシン開裂(SOGC経路)の一炭素循環
Metabolites. 2015 Jun 16;5(2):364-85. doi: 10.3390/metabo5020364.
糖の代謝(Glycolysis・Fructolysis)の中間体である3-ホスホグリセリン酸を、アミノ酸セリンの合成に転用することができます。
合成されたセリンの一部は、一炭素代謝経路と結合した反応でグリシンに変換され、ATPを生成します。
形成されたグリシンは切断を受けてCOを形成します。
糖の代謝(Glycolysis・Fructolysis)からのセリン酸化グリシン開裂(SOGC経路)の一炭素循環は、代替のエネルギー生成経路となってATPを生成します。
ワールブルク効果を説明するための経路になります。
一炭素経路の中間体は、脂肪酸合成に利用される重要な補因子であるNADPHの生成にも寄与します。
ワールブルク効果 (Warburg effect)については、関連記事をご参照ください ↓
脳のフルクトース代謝(Fructolysis)とアルツハイマー病
フルクトースは単に食事から来るだけでなく、体内でポリオール経路によって内因性フルクトースが生成しています。
小脳、海馬、皮質、および嗅球など、脳の特定領域では、KHKおよびアルドラーゼ酵素活性が高く、フルクトース代謝(Fructolysis)が可能であることがわかっています。
Brain Res. 2017 Feb 15;1657:312-322. doi: 10.1016/j.brainres.2016.12.022.
アルツハイマー病患者では、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)およびα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(AKGDH)複合体の活性が、低下しています。
アルツハイマー病患者では、TCAサイクルの活性が低下して、ミトコンドリア機能障害によるインスリン抵抗性が起こっています。
インスリン抵抗性については、関連記事をご参照ください ↓
解糖系およびTCA回路による細胞内グルコース利用が障害され、脳内でのグルコースレベルの上昇がみられます。
糖尿病に関連する高血糖状態は、アルドースレダクターゼ(AR)を活性化して、脳内での内因性フルクトースの代謝が活性化されています。
JCI Insight. 2017 Feb 23;2(4):e90508. doi: 10.1172/jci.insight.90508.
アルツハイマー病患者の脳でも、内因性フルクトース代謝が活性化されています。
グルコース、ソルビトール、フルクトースは、すべてのAD脳領域で著しく上昇しており、ポリオール経路フラックスの増加が認められます。
アルツハイマー患者の脳では、銅レベルが著しく不足しています。
ミトコンドリア電子伝達系複合体Ⅳの銅酵素チトクロームオキシダーゼI(COI)とCOIIへの銅供給の不足によって、ミトコンドリア代謝の低下が引き起こされます。
また活性酸素からの抗酸化防御を行う、銅酵素スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)とSOD3の活性低下につながり、細胞障害を引き起こします。
Sci Rep. 2016 Jun 9;6:27524. doi: 10.1038/srep27524.
ミトコンドリアの細胞呼吸の酵素活性を低下させて、ROS産生を減少させることにより、アミロイドβまたは他の神経毒に対するニューロンの抵抗性を発現しようとします。
ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ1(PDK1)および乳酸デヒドロゲナーゼA(LDHA)の発現の増加による、「好気性解糖」を上昇させます。
環境ストレスに応答して、耐性メカニズムとして代謝変化(ワールブルク効果)を示しています。
PLoS One. 2011 Apr 26;6(4):e19191. doi: 10.1371/journal.pone.0019191.
J Biol Chem. 2012 Oct 26;287(44):37245-58. doi: 10.1074/jbc.M112.366195.
ワールブルク効果 (Warburg effect)については、関連記事をご参照ください ↓
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まとめ
肥満によるインスリン抵抗性や、細胞内でのグルコースの代謝利用が低下して、高血糖を示すようになって2型糖尿病を発症します。
グルコースの代謝を少しでも進めるために、ポリオール経路が活性化して、フルクトースを生成します。
フルクトース(Fructolysis)を併用することで、解糖系(Glycolysis)を相乗的に進めることができます。
内因性フルクトースの生成は、生存のためにグルコースの代謝調整を行うホメオスタシスによる結果の現象です。
アルツハイマー病患者では、TCAサイクルの活性が低下して、ミトコンドリア機能障害によるインスリン抵抗性が起こっています。
そのため、アルツハイマー病は「第3の糖尿病」または「脳内の糖尿病」とも呼ばれています。
アルツハイマー病患者の脳内でも、ポリオール経路によって、内因性フルクトースの増加が認められています。
ミトコンドリアの機能障害によりTCA回路が回らず、ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ1(PDK1)および乳酸デヒドロゲナーゼA(LDHA)の発現の増加による、「好気性解糖」を上昇させます。
環境ストレスに応答して、耐性メカニズムとして代謝変化(ワールブルク効果)を示します。