「エネルギー代謝異常」インスリン抵抗性とは?

「エネルギー代謝異常」インスリン抵抗性とは?

「エネルギー代謝異常」インスリン抵抗性とは?

【この記事のまとめ】
糖質というのは、私たちが生命を維持するために、最も重要な栄養素(エネルギー源)であります。しかし過剰な糖は、私たちの体に有害な作用を引き起こして、様々な疾患の原因となる糖毒性を示します。

高血糖はインスリン抵抗性の結果であり、それを改善するためには脂肪の量と質のコントロールが重要となります。

またストレスによる交感神経の過緊張、ミトコンドリアの機能低下による内呼吸(細胞呼吸)の障害も、エネルギー代謝に大きな影響を与える要因でもあります。

糖質の単一病因論で解決できる問題ではなく、エネルギー代謝全体を考え、バランスを改善することが非常に重要となります

 

私たちが食事で摂取した栄養素(糖質、脂質、タンパク質など)は、体内で代謝されてエネルギー(ATP)に変換され、生命を維持する活動に使われています。

このエネルギー代謝が正常に機能していることが、ホメオスタシス(恒常性の維持)に非常に重要であり、私たちが健康な状態でいるための基盤となります。

つまりエネルギー代謝のバランスが崩れることが、様々な病気の原因となっているのです。

 

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インスリンと血糖コントロール

「エネルギー代謝異常」インスリン抵抗性とは?

 

私たちは食事した後、血糖値が上がると、膵臓からインスリンというホルモンが分泌されます。

インスリンはブドウ糖(グルコース)を必要とする細胞に取り込み、解糖系によるエネルギー代謝が行われるのに利用されます。

インスリンは細胞の表面にある受容体に結合することにより、ブドウ糖の細胞内へ取り込みを行っています。

「エネルギー代謝異常」インスリン抵抗性とは?

 

終末糖化産物(Advanced Glycation End Products:AGEs)と糖毒性

高血糖の状態が長く続くと、タンパク質とブドウ糖が結合して元に戻ることができなくなり、終末糖化産物(AGEs)に変化します

AGEsは、私たちにとって毒性の高い物質であり、老化をすすめる原因となると言われています(糖毒性を示します)。

 

私たちのエネルギー代謝にとって、糖はなくてはならない栄養素ですが、過剰な糖にさらされ続けると、私たちの体は逆に傷つけられてしまいます。

一定のレベルに調節された血糖値(血中のブドウ糖)を維持することが非常に重要となります。

 

過剰な糖があり続けることは、私たちにとっては有害となるため、エネルギー代謝が行われなかったブドウ糖は、インスリンの働きによって肝臓・骨格筋や脂肪細胞などへの糖の取り込みを行い、ブドウ糖をグリコーゲンや脂肪に変換して貯蔵されています。

 

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血糖コントロールに働くホルモン

「エネルギー代謝異常」インスリン抵抗性とは?

血糖値を下げる方向に働くホルモンは、膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンだけです。

血糖値を上昇させる方向に働くホルモンは、膵臓のα細胞から分泌されるグルカゴン以外にも、副腎から分泌されるストレスホルモン(アドレナリンやコルチゾール)など他にもあります。

内分泌ホルモンによって、外部・内部環境の変化に対して、血糖値がコントロールされて、私たちのホメオスタシス(恒常性の維持)が守られています。

現代社会に生きる私たちは、炭水化物や砂糖などの糖質の過剰摂取だけでなく、ストレスによる交感神経の過緊張により、血糖値が上がりやすくなっています。

そのためインスリンの働きは非常に重要となっています。

 

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インスリン抵抗性

「エネルギー代謝異常」インスリン抵抗性とは?

 

インスリンが分泌がされているのに、細胞へのブドウ糖の取り込み、ブドウ糖の脂肪への変換がされずに高血糖状態が続くようになります。

これはインスリンへの感受性の低下であり、インスリン抵抗性と呼ばれています。

 

砂糖や炭水化物の多い食事や、慢性的なストレスにより、体内に常に糖が過剰にある状態が続くと、過剰なインスリンの分泌が続いてしまいます。

体の細胞もインスリンの働きを常に受け続けることになり、やがて細胞ではインスリン受容体の数を減らして、インスリンへの感受性を低下させる、生体防御反応が起こってきます。

インスリン抵抗性は、インスリン受容体のダウンレギュレーションが起こっています。

 

ダウンレギュレーション Down Regulation

継続的に常に同じ刺激や過度な刺激が加わり続けると、体はそれに対する反応を鈍くしていきます。

特定の刺激に細胞がさらされ続けないようにするため、生体防御の反応として起きるのが、ダウンレギュレーションです。

体内の神経伝達物質やホルモンは、細胞に働くときに受容体と呼ばれる部分に結合して作用します。

過剰になった物質に対して、生体は細胞の受容体の数を減らして、細胞に刺激が伝わりにくくするように働きます。

 

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インスリン抵抗性が様々な病気の原因

このインスリン抵抗性の状態が長期に続くと、インスリンは体内でうまく機能しなくなり、血糖値が高い状態になってしまいます。

つまり2型糖尿病というのは、インスリン抵抗性が続いた結果の状態の一つです。

また脳内のインスリン抵抗性が続いた結果が、アルツハイマー型認知症などの神経変性疾患の発症につながっています。

 

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2型糖尿病という生活習慣病は、血糖値が高いことが原因で起こる病気ではなく、インスリン抵抗性の結果として、血糖値が高い状態が続いてしまうことです。

血糖値が高くても、特に問題となる症状がでていない場合も多く、いわゆる生活習慣病は「未病」の状態に病名をつけた疾患なのです。

生活習慣病については、関連記事をご参照ください ↓

「生活習慣病」という名の「未病」

インスリン抵抗性の状態が続くと、膵臓からのインスリンの分泌が減少していき、インスリンの分泌能の低下起こってきます。

 

インスリン抵抗性のメカニズム

「エネルギー代謝異常」インスリン抵抗性とは?

 

脂肪組織は脂肪を蓄え、人体に必要なエネルギー貯蔵をするだけでなく、アディポサイトカインと総称される様々な生理活性物質を産生する内分泌臓器でもあり、私たちのホメオスタシス(恒常性維持)に大きく関与しています。

脂肪細胞にまだ脂肪が貯蔵できる空きがあると、脂肪細胞からアディポネクチンというホルモンを分泌して、貯蔵するための脂肪合成を促します。

そして、インスリンがブドウ糖を脂肪細胞に取り込み、脂肪合成を促進します。

脂肪細胞が脂肪でいっぱいになると、アディポネクチンの分泌量が減り、レプチンというホルモンが分泌されて、脳に働いて食欲を抑えています。

 

脂肪細胞に余地がなくなると、体は脂肪を蓄える他の場所を探します。

肝臓などの臓器や、骨格筋などの非脂肪組織に異所性脂肪が蓄積するようになって、臓器の機能障害(脂肪毒性)を示すようになります。

本来あるべき皮下脂肪組織から、内臓脂肪(異所性脂肪)にシフトして、様々な生活習慣病の原因となっていきます。

「エネルギー代謝異常」インスリン抵抗性とは?

星薬科大学オープン・リサーチ・センターより 引用

 

内臓脂肪細胞が分裂増殖・肥大化して、大きさが上限に達して、これ以上脂肪を取り込めない状態になると、インスリン抵抗性が現れてきます。

肥大化脂肪細胞から、tumor necrosis factor-α(TNF-α)、脂肪酸、レジスチンなど、インスリン抵抗性を惹起する物質が分泌されます。

そしてインスリン受容体の感受性をよくする、アディポネクチンの分泌が低下します。

 

肥大化脂肪細胞から単球走化性因子 monocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)が分泌され、MCP-1があるところに単球が引き寄せられるように毛細血管から遊走します。

毛細血管から外へ遊走した単球は、活性化されてマクロファージとなり、脂肪細胞の周りに集まり、このマクロファージが炎症性サイトカインTNF-αを分泌します。

TNF-αは全身へ運ばれ、インスリン受容体の感受性を低下する(インスリン抵抗性)原因となります

 

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まとめ

「エネルギー代謝異常」インスリン抵抗性とは?

 

糖質というのは、私たちが生命を維持するために、最も重要な栄養素(エネルギー源)であります。

しかし、過剰な糖は私たちの体に有害な作用を引き起こして、様々な疾患の原因となる糖毒性を示します。

近年は糖質オフ、カロリーゼロなど、糖質制限ブームとなっていますが、糖尿病やアルツハイマー型認知症(脳内のインスリン抵抗性)などの疾患が益々増加する傾向にあります。

 

機械論による要素還元的な思考による、糖質の単一病因論で解決できる問題ではなく、エネルギー代謝全体を考え、バランスを改善することが重要となります

 

高血糖はインスリン抵抗性の結果であり、それを改善するためには、「糖質の量と質」「脂質の量と質」のコントロールが重要となります。

 

またストレスによる交感神経の過緊張、ミトコンドリアの機能低下による内呼吸(細胞呼吸)の障害も、エネルギー代謝に大きな影響を与える要因でもあります。

 

 

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