「グルコ―スとフルクトース」糖質の質とエネルギー代謝

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【この記事のまとめ】
糖質の摂取を考える場合、「糖質の量」だけでなく「糖質の質」、それと同時に「脂質の量と質」を考えることが重要となります。

インスリン抵抗性など、血中の遊離脂肪酸が上昇して、脂肪酸を代謝する経路が活性化されると、グルコースの代謝経路での酵素の働きが阻害され、糖耐性が低下して高血糖になりやすくなります。

肝臓でフルクトースが代謝されると、ホスホフルクトキナーゼ(PFK)の反応をバイパスして、フルクトース-1,6-二リン酸を生成することができます。

このフルクトース-1,6-二リン酸が、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)を活性化して、ピルビン酸からアセチルCoAを合成して、グルコースの好気性代謝を促進して、脂肪酸の代謝を抑制します。

グルコースとフルクトースの相乗作用によって、糖のエネルギー代謝を高めて、肝臓でのグルコースの取り込み・貯蔵を促進することにより、血糖値を低下させる働きがあります。

 

世間一般には、砂糖(甘いもの)は体に悪いというイメージが定着しています。

いったい砂糖の何が体に悪いのでしょうか?

 

お茶碗1杯のご飯は、角砂糖14個と同じ量の糖質だという説明も目にします。

糖質制限の必要性を強調するための例えですが、非常に違和感を感じるものです。

「グルコ―スとフルクトース」糖質の質とエネルギー代謝

 

グルコースとフルクトースの代謝の違いについて、考えられていないのです。

 

グリセミック指数(GI値)とランドルサイクル

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グリセミック指数(glycemic index:GI値)

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図は 日本糖尿病学会誌 56(12):906~909,2013 より引用

 

グリセミック指数(GI値)は、食品ごとの血糖値の上昇度合いを間接的に表現する数値です。

食品の炭水化物50gを摂取した際の血糖値上昇の度合いを、ブドウ糖(グルコース)を100とした場合の相対値で表します。血糖値の時間変化をグラフに描き、その曲線が描く面積によってGI値を計算しています。

GI値が70以上の食品を高GI食品、56~69の間の食品を中GI食品、55以下の食品を低GI食品と分類しています。

 

高GI食品の代表例は、炭水化物の多い米飯(白米)、白パン、ジャガイモなどになります。

砂糖(ショ糖)はグルコースとフルクトースからなる二糖類で、GI値は65前後とグルコースよりも低く、果物(フルーツ)はその糖分の多くはフルクトースで、低GI食品となるものが多いです。

私たちが甘味を感じるフルクトース(果糖)は、GI値が20以下で、食後の血糖値を上げにくい特徴があります。

 

グリセミック指数(GI値)の問題点

食品のGI値は不変な値ではなく、様々な要因によって大きく変動することがわかっています。

食事は単品で摂取するわけではなく、炭水化物や食物繊維以外にタンパク質や脂肪も含まれ、また調理方法も異なっています。

一般的にデンプンは加水や加熱調理によって糊化し、アミラーゼなどの消化酵素の作用を受けやすくなり、血糖値が上昇し易くなります。

また血糖値の上昇は、食事前の体内の代謝の状態によっても大きく影響を受けます。

 

セカンドミール効果

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図は 新潟薬科大学 食品分析研究室 より引用

 

最初にとった食事(ファーストミール)が、次の食事(セカンドミール)の後の血糖値にも影響を及ぼします。

ファーストミールで血中の遊離脂肪酸を低く維持することで、セカンドミールでの血糖値の上昇を抑えることができます。

逆に遊離脂肪酸が高い状態で、糖質を摂取すると食後の血糖値の上昇が高くなります。

 

ランドルサイクル(glucose-fatty acid cycle)

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図は 新潟薬科大学 食品分析研究室 より引用

 

血液中の遊離脂肪酸は、組織内に運ばれ、ミトコンドリア内でβ‐酸化をうけて、アセチル‐CoAになります。

このアセチルCoAは、ピルビン酸に作用する酵素であるピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)や、フルクトース‐6‐リン酸に作用するホスホフルクトキナーゼ(PFK)を阻害します。

その結果、組織中のグルコース‐6‐リン酸が蓄積し、グルコースに作用する酵素であるヘキソキナーゼ(HK)が阻害されて、血液中に存在するグルコースの取り込みが抑制されます。

脂肪酸を代謝する経路が活性化されて、アセチルCoAが生成されると、グルコースの代謝経路での酵素の働きが阻害されてしまうのです。

つまり、脂肪酸の代謝が活性化されると、糖耐性が低下して高血糖になりやすくなります。

 

ランドルサイクルについては、関連記事をご参照ください ↓

「糖質制限」糖尿病は糖質が原因なのか?

インスリン抵抗性が発現した病態は、脂肪細胞の中性脂肪が分解され、血中の遊離脂肪酸が増加しており、脂肪酸を代謝する経路が活性化されています。

そのため、グルコースの代謝経路がブロックされて、血中からのグルコースの取り込みが低下して、高血糖を示すようになります。

 

インスリン抵抗性については、関連記事をご参照ください ↓

「エネルギー代謝異常」インスリン抵抗性とは?

フルクトースの代謝

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グルコースとフルクトース代謝経路の違い

Fructose metabolism in humans – what isotopic tracer studies tell us

Nutr Metab (Lond). 2012 Oct 2;9(1):89. doi: 10.1186/1743-7075-9-89.

 

「グルコ―スとフルクトース」糖質の質とエネルギー代謝

グルコースの代謝は、フルクトース‐1,6-二リン酸に変換された後、ジヒドロキシアセトンリン酸とグリセルアルデヒド‐3-リン酸に切断されます。

フルクトース‐6-リン酸 からフルクトース‐1,6-二リン酸を合成する反応を触媒する酵素が、ホスホフルクトキナーゼ(PFK)です。

このPFKは解糖系の律速酵素であり、高レベルのATP、クエン酸、低pHや低酸素レベルによって阻害されます。

アロステリック制御によりフィードバック調整がされているのです。

 

フルクトースの代謝は、グリセルアルデヒドとグルコース経路の一般的な中間体であるジヒドロキシアセトンリン酸に切断されて、グルコースの代謝経路に途中から入ることができます。

フルクトースはPFKの代謝調整ステップをバイパスすることができ、糖の代謝を進めることができます。

 

「グルコ―スとフルクトース」糖質の質とエネルギー代謝

食事により摂取したフルクトースの平均酸化率は、3〜6時間以内に摂取量の45.0%(30.5〜59%の範囲)になりました。

運動条件下では、フルクトースの平均酸化率は、2〜3時間以内に45.8%(37.5〜62%の範囲)になりました。

酸化率とは、フルクトースの好気性エネルギー代謝によって、ATPを産生することです。

 

フルクトースからグルコースへの平均変換率は、正常な非運動被験者の摂取後3〜6時間で、摂取量の41%(29〜54%の範囲)でした。

摂取したフルクトースの約4分の1は、数時間以内に乳酸に変換されました。

 

外因性フルクトースの代謝臓器

Health outcomes of a high fructose intake: the importance of physical activity

J Physiol. 2019 Jul;597(14):3561-3571. doi: 10.1113/JP278246. 

 

「グルコ―スとフルクトース」糖質の質とエネルギー代謝

 

フルクトースをリン酸化してフルクトース-1-リン酸に変換する代謝酵素ケトヘキソキナーゼ(KHK)には、 フルクトースとの親和性が高いKHK-C と、フルクトースとの親和性が低い KHK-A の 2 種類があります。

フルクトースの代謝能力が高いKHK-C は、小腸、肝臓、腎臓に存在しております。一方、KHK-A は幅広い臓器に存在しています。

 

食事で摂取した外因性のフルクトースは、主に小腸および肝臓で代謝されると考えられています。

少量のフルクトースを摂取した場合は、フルクトースはほとんど小腸で代謝されます。

フルクトースの摂取量が多く、小腸での代謝能を超える場合には、小腸から門脈循環に入り肝臓の細胞に取り込まれ代謝されます。

肝細胞内でグルコースと乳酸に変換されたものは、体循環に放出され、体の他の細胞のエネルギー基質として機能します。

合成されたグルコースの一部は肝臓に残り、肝臓のグリコーゲン貯蔵を補充します。

運動中には、フルクトースから変換されたグルコースと乳酸は、肝臓から骨格筋に効率的に移動します。それが運動後の筋肉内グリコーゲンの再合成に寄与しています

運動していない人では、肝臓での新規(de novo)脂質生成の増加が認められます。

 

グルコースとフルクトースの相乗効果

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Normal Roles for Dietary Fructose in Carbohydrate Metabolism

Nutrients. 2014 Aug; 6(8): 3117–3129.doi: 10.3390/nu6083117

Mechanisms of fructose-induced hypertriglyceridaemia in the rat. Activation of hepatic pyruvate dehydrogenase through inhibition of pyruvate dehydrogenase kinase

Biochem J. 1992 Mar 15;282 ( Pt 3)(Pt 3):753-7. doi: 10.1042/bj2820753.

Metabolic responses to fructose-1,6-diphosphate in healthy subjects

Metabolism. 2000 Jun;49(6):698-703. doi: 10.1053/meta.2000.6249.

 

ランドルサイクルで説明したように、通常、脂肪酸の代謝が活性化してアセチルCoAが生成している時には、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)やホスホフルクトキナーゼ(PFK)の酵素の働きが阻害されて、グルコースの代謝は抑制されています。

それによって、血液中からグルコースのと取り込みが抑制されて、高血糖を示しやすくなります。

 

肝臓でフルクトースが代謝されると、ホスホフルクトキナーゼ(PFK)の反応をバイパスして、フルクトース-1,6-二リン酸を生成することができます。

このフルクトース-1,6-二リン酸がピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)を活性化して、ピルビン酸からアセチルCoAを合成して、グルコースの好気性代謝を活性化します。

それによって、脂肪酸の代謝は抑制されます。

外因性のフルクトースは、肝臓でのグルコースの取り込み・貯蔵を促進する働きがあり、血糖値を低下させる働きがあります。

グルコースとフルクトースの相乗作用によって、呼吸基質として糖のエネルギー代謝を促進させる働きがあります。

 

それによって、ミトコンドリアの電子伝達系での活性酸素種(ROS)の生成を抑制することができます。

脂肪酸代謝による活性酸素種(ROS)の発生リスクについては、関連記事をご参照ください ↓

脂肪酸代謝による活性酸素種(ROS)発生のリスク

ミトコンドリアの電子伝達系については、関連記事をご参照ください ↓

「生命と電気エネルギー」膜電位とATP

糖尿病の血糖コントロールへのフルクトースの効果

「グルコ―スとフルクトース」糖質の質とエネルギー代謝

Effect of Fructose on Glycemic Control in DiabetesA systematic review and meta-analysis of controlled feeding trials

Diabetes Care. 2012 Jul;35(7):1611-20. doi: 10.2337/dc12-0073.

 

50〜55%の炭水化物、20〜35%の脂肪、および15〜30%のタンパク質の食事内容で、他の炭水化物とフルクトースを等カロリーで交換しています。

フルクトースの投与量は、中央値60.0 g /日(IQR 55〜120 g /日)

ベースラインのHbA1cの中央値は、8.5%(IQR 7.9–10.1%)

患者の年齢の中央値は、54.2歳(IQR46.9–61歳)

ベースラインHbA1cの中央値は、8.5%(IQR 7.9–10.1%)

追跡期間中央値は、8週間(IQR 4〜14.3週間)

化血液タンパク質(糖化アルブミン・HbA1c) SMD -0.27 (95%CI -0.49〜-0.04)

この減少はHbA1cの約0.53%の減少に相当します。

糖尿病患者に対して、他の炭水化物からフルクトースに60g/日変換することで、HbA1cの約0.53%の減少による長期的な血糖コントロールの改善が認められました。

 

Fructose replacement of glucose or sucrose in food or beverages lowers postprandial glucose and insulin without raising triglycerides: a systematic review and meta-analysis

Am J Clin Nutr. 2017 Aug;106(2):506-518. doi: 10.3945/ajcn.116.145151.

 

15〜100 gの広い用量範囲で、食品または飲料のブドウ糖またはショ糖の代わりにフルクトースを使用すると、トリグリセリドに悪影響を与えることなく、食​​後の血糖およびインスリン分泌が低下することがわかりました。

このメタアナリシスによって、ブドウ糖またはショ糖のいずれかをフルクトースへの等エネルギー置換で、食後血糖のピークが-2.34 mmol / L(95%CI:-2.62、-2.06 mmol / L)減少しました。

サブグループ解析により、糖尿病患者ほど食後血糖のピークを下げることがわかりました。

正常血糖の人 -2.06mmol/ L(95%CI:- 2.30、-1.81 mmol / L)

1型糖尿病患者 -3.33mmol/ L(95%CI:-5.21、-1.45 mmol/ L)

2型糖尿病患者   -4.66 mmol / L(95%CI:-5.84、-3.47 mmol / L)

 

食後インスリンのピークが -45.15 IU / mL(95%CI:-52.76、-37.53 IU / mL)の明らかな減少を示しました

耐糖能障害のある集団では、-60.13 IU / mL(95%CI:-72.64、-47.62 IU / mL)と、食後インスリン分泌がさらに大幅に減少しました。

また懸念される食後の血中トリグリセリドの有意な増加は生じませんでした。

 

デンプン(グルコース)の炭水化物の一部を、フルクトースで等エネルギー変換すると、グルコースとフルクトースの相乗作用によって、血糖コントロールの改善が起こっています。

特に2型糖尿病などインスリン抵抗性がある患者において、その有益性が高いことが示されています。

 

ただし、食後にフルーツや砂糖の入った甘いものをプラスして摂取することは、等エネルギー変換ではなく、プラスによる糖質の過剰摂取になって、中性脂肪を増やす原因になるのでご注意ください。

 

まとめ

「グルコ―スとフルクトース」糖質の質とエネルギー代謝

 

現代の生活習慣病の多くは、糖質や脂質の過剰摂取が原因になっているのは間違いありません。

脂質の摂取を考える場合には、脂質の量だけでなく質のコントロールが非常に重要となります。

糖質の摂取を考える場合には、「糖質の量」だけでなく「糖質の質」、それと同時に「脂質の量と質」を考えることが重要となります。

インスリン抵抗性など、血中の遊離脂肪酸が上昇して、脂肪酸を代謝する経路が活性化されると、グルコースの代謝経路での酵素の働きが阻害され、糖耐性が低下して高血糖になりやすくなります。

 

肝臓でフルクトースが代謝されると、ホスホフルクトキナーゼの反応をバイパスして、フルクトース-1,6-二リン酸を生成することができます。

このフルクトース-1,6-二リン酸が、ピルビン酸デヒドロゲナーゼを活性化して、ピルビン酸からアセチルCoAを合成して、グルコースの好気性代謝を促進して、脂肪酸の代謝を抑制します。

グルコースとフルクトースの相乗作用によって、糖のエネルギー代謝を高めて、肝臓でのグルコースの取り込み・貯蔵を促進することにより、血糖値を低下させる働きがあります。

 

 

脂肪酸の質については、関連記事をご参照ください ↓

「脂質クオリティと生命現象」脂肪酸の種類と特徴

内因性フルクトースの意味と代謝調整については、関連記事をご参照ください ↓

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「グルコ―スとフルクトース」糖質の質とエネルギー代謝