「酸化ストレスと還元ストレス」酸化還元バランス
これまで活性酸素種(ROS)による障害である「酸化ストレス」のみに注目が集まり研究されてきました。
ROSによる酸化は、老化や病気の原因であり、抗酸化(還元)が重要であると言われ続けてきました。
そのためアンチエイジングを謳った抗酸化サプリメントが、私たちのまわりには溢れています。
しかし、「還元ストレス」という新たな酸化還元(レドックス)状態が提唱されて、抗酸化サプリメントの摂取が必ずしも有益になるとは限らないことがわかりました。
レドックス(酸化還元)バランスを保つことが重要であると考えられます。
酸化還元(レドックス)反応
酸化還元反応とは、化学反応の中で反応物から生成物が生ずる過程において、原子やイオンあるいは化合物間で電子のやり取りがある反応のことです。
還元(Reduction)/ 酸化(Oxidation) から、レドックス (Redox)反応 とも呼ばれています。
酸化(Oxidation)とは、電子を失う反応のことです。
還元(Reduction)とは、電子を受け取る反応のことです。
酸化される物質(電子を失うもの)があれば、必ず還元される(その電子を受け取る)物質があります。
つまり、一組の酸化される物質と還元される物質があることで、酸化還元反応が行われています。
相手を酸化する物質を「酸化剤」、相手を還元する物質を「還元剤」といいます。
酸化還元反応は、細胞内で行われている様々な代謝反応(化学反応)の中で最も重要な反応の一つです。
生体内の代謝反応については、関連記事をご参照ください ↓
レドックス(酸化還元)バランスとレドックス(酸化還元)ストレス
Metabolic Responses to Reductive Stress
Antioxid Redox Signal. 2020 Jun;32(18):1330-1347. doi: 10.1089/ars.2019.7803.
私たちは酸化還元(レドックス)反応によって、エネルギー(ATP)を生成し、栄養素から様々な体内物質を合成して、恒常性を維持しています。
還元剤から酸化剤に電子が流れていきます。
NAD+/NADH、NADP+/NADPH、GSH/GSSGがレドックス対(酸化還元対)となって、生体内の代謝に大きく関与しています。
このレドックス対は、細胞のレドックス環境を細胞のエネルギーと結びつけています。
NAD +は解糖をサポートする電子シンクとして機能します。
NADH は、ミトコンドリアの酸化的リン酸化 (OXPHOS)に電子を提供します。
NADPH は脂肪酸と核酸の還元生合成の主要な電子源となります。
細胞のレドックス恒常性がエネルギー代謝の調整に不可欠となります。
レドックス状態の不均衡は、心血管疾患、神経変性疾患、癌、老化などのさまざまな病的状態に関与しています。
生体内で酸化剤と抗酸化(還元)剤のバランスが崩れると、「酸化ストレス」や「還元ストレス」などのレドックスストレスが発生します。
還元ストレスから酸化ストレスへ
Pathogenesis of Chronic Hyperglycemia: From Reductive Stress to Oxidative Stress
J Diabetes Res. 2014;2014:137919. doi: 10.1155/2014/137919.
グルコースの好気性分解からの電子は、主に酸素還元と ATP 生成のために NADH に保存されます。
NADH は還元剤であり、過剰になると還元ストレスを引き起こします。
NADH の過剰生産または NAD+の不足は、NADH の蓄積を誘発し、NADH と NAD+の間の不均衡を引き起こします。
偽低酸素症として知られる状態を作り出し、酸素を効率よく消費できない状態となります。
過剰生産された NADH によって、ミトコンドリア複合体 I はその能力の範囲内で応答して、より多くの NADH を NAD +に酸化します。
ミトコンドリア複合体 I に大きな負担をかかり機能障害が起こると、NADH が蓄積して「還元ストレス」を誘発します。
ミトコンドリアの電子伝達系の複合体Ⅰ については、関連記事をご参照ください ↓
複合体 I によって NADH が酸化される過程で、漏れ出した電子によって酸素分子が一電子還元されて、スーパーオキシドを発生させます。
スーパーオキシドは、「酸化ストレス」を引き起こす様々な活性酸素種(ROS)の前駆体となります。
ROSは、タンパク質、脂質、および DNA の酸化を引き起こす可能性があります。
ミトコンドリアの電子伝達系でのNADH のオーバーフラックスによる「還元ストレス」が、電子漏れを増やしてROSの生成増加による「酸化ストレス」をつくっています。
活性酸素種(ROS)については、関連記事をご参照ください ↓
酸化ストレスについては、関連記事をご参照ください ↓
高血糖による代謝変化
NADH と ROS の両方のレベルが上昇すると、解糖系のグリセルアルデヒド 3-リン酸デヒドロゲナーゼ (GAPDH) を阻害し不活化します。
その結果、解糖系が遮断され、経路に沿ってグリセロール 3-リン酸とその前の代謝産物が蓄積されます。
この蓄積により、ポリオール経路などの代替グルコース代謝経路が活性化されて処理を開始します。
これらすべての代替グルコース代謝経路は、活性酸素種( ROS )の産生につながり、「酸化ストレス」を悪化させます。
ポリオール経路とフルクトース代謝については、関連記事をご参照ください ↓
高血糖状態は、GAPDH 活性を阻害する NADH 及びミトコンドリア ROS の過剰発生を誘発します。
これによって代替グルコース代謝経路が活性化され、糖尿病および糖尿病合併症の発症の原因となる糖毒性に関与する ROS がさらに生成されることになります。
活性酸素種(ROS)による「酸化ストレス」は、高血糖とNADHの過剰よる「還元ストレス」が原因で起こっています。
高血糖(糖尿病)の原因については、関連記事をご参照ください ↓
まとめ
NAD+/NADH、NADP+/NADPH、GSH/GSSGがレドックス対(酸化還元対)となって、生体内の代謝に大きく関与しています。
生体内で酸化剤と抗酸化(還元)剤のバランスが崩れると、「酸化ストレス」や「還元ストレス」など、レドックス(酸化還元)ストレスが発生します。
ミトコンドリア複合体 I に大きな負担をかかり機能障害が起こると、NADH が蓄積して「還元ストレス」を誘発します。
私たちはグルコースから電子を受け取って、解糖系→TCAサイクル→電子伝達系へと流して、最終的には酸素に電子を受け渡しています。その過程で生成するプロトンによって、ATP(エネルギー)を合成しています。
この流れがどこかで滞ると、「還元ストレス」が発生して、途中で電子が漏れ出し酸素分子と反応して、活性酸素種(ROS)を発生させています。
ミトコンドリアの電子伝達系でのNADH のオーバーフラックスによる「還元ストレス」が、電子漏れを増やして活性酸素種(ROS)の生成増加を引き起こします。
この活性酸素種(ROS)が「酸化ストレス」を引き起こしていますが、高血糖や過剰のNADHによる「還元ストレス」がその原因と考えられます。
つまり「酸化ストレス」の根底には、まず「還元ストレス」が存在しているのです。
サプリメントや食品による抗酸化物質の摂取よりも、ミトコンドリアの酸化的リン酸化 (OXPHOS)を正常化して、「還元ストレス」を解消することが重要となります。