脂肪酸代謝による活性酸素種(ROS)発生のリスク

脂肪酸代謝による活性酸素種(ROS)発生のリスク

脂肪酸代謝による活性酸素種(ROS)発生のリスク

【この記事のまとめ】
私たちは、ミトコンドリアの酸素を使ったエネルギー代謝により、大量のATPを獲得しています。しかし、それと同時に活性酸素種(ROS)による「酸化ストレス」のリスクを負っています。

私たちの細胞は、グルコースも脂肪酸もどちらも呼吸基質(エネルギー源)としてエネルギー代謝を行うことができます。

グルコースをエネルギー代謝する経路と、脂肪酸をエネルギー代謝する経路では、生成するFADH2 / NADH比が異なります。

脂肪酸のエネルギー代謝は、グルコースのエネルギー代謝と比較して、FADH2 / NADH比が高くなり、ミトコンドリアでの活性酸素種(ROS)の発生を増加させてしまいます。

酸化ストレスによって、ミトコンドリアの呼吸鎖(タンパク質)が障害を受けると、ミトコンドリア機能が障害されて、私たちにとって様々な負の影響がもたらされています。

 

私たちが日常生活や運動などで消費するエネルギー源は、主に糖質と脂質です。

一般的には、糖質(1gあたり4kcal)より脂質(1gあたり9kcal)の方が、効率がよいエネルギー源であると言われています。

 

しかし、私たちのエネルギー代謝には、プラスの面とマイナスの面があります。

その両面を考えた上で、エネルギー源について語るべきなのです。

 

活性酸素種(ROS)の発生と酸化ストレス

脂肪酸代謝による活性酸素種(ROS)発生のリスク

 

私たちは、ミトコンドリア内膜上の呼吸鎖複合体(電子伝達系Complex Ⅰ~Ⅳ)において、酸化還元反応を利用した電子伝達を行い、生体内で必要な90%以上のATPを産生しています。

Complex I ではNADH、Complex IIではコハク酸がそれぞれ酸化されて、ユビキノンを還元してユビキノールにします。

Complex IIIでユビキノールが酸化されて、シトクロムcを還元しています。複合体IVでシトクロムcが酸化されて、酸素分子(O2)に電子を伝達することで水(H2O)に還元します。

この過程で、ミトコンドリア内膜を隔ててH+勾配が生じて、膜電位が発生します。

それをComplex VであるF型H-ATPase(F1F0)が、このH+勾配を駆動力としてATPを合成していきます。

 

ミトコンドリアの電子伝達系でのATP産生については、関連記事をご参照ください ↓

「生命と電気エネルギー」膜電位とATP

 

活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)

活性酸素種(ROS)は、スーパーオキシド(O2•-)、過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシラジカル(OH)、一重項酸素(1O2)など、反応性が高い酸素種の総称です。

生体内のROSの主な発生源はミトコンドリアです。

脂肪酸代謝による活性酸素種(ROS)発生のリスク

図は 東邦大学 より引用

 

ミトコンドリアの電子伝達系では、Complex IやComplex IIIから漏れ出した電子によって、酸素分子(O2)が一電子還元され、スーパーオキシド(O2•-)が発生します。

ミトコンドリアは、生体内の約95%の酸素を消費し、そのうち1~3%がROSを生成していると考えられています。

 

ミトコンドリアの膜間腔側に発生したスーパーオキシドはSOD1が、マトリックス側に発生したスーパーオキシドはSOD2が、酸素と過酸化水素(H2O2)に不均化し、過酸化水素はグルタチオンペルオキシダーゼやペルオキシレドキシンによって水へと還元されます。

生体内では、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)など抗酸化酵素により、ROSを消去する防御システムがあり、恒常性が維持されています。

しかし、ROSの過剰発生や抗酸化能が低下することによって、抗酸化防御システムが崩れた状態を「酸化ストレス」といいます。

 

ミトコンドリアについては、関連記事をご参照ください ↓

ミトコンドリア・ダイナミクス 生命のエネルギー代謝

活性酸素と酸化ストレスについては、関連記事をご参照ください ↓

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ミトコンドリア以外では、好中球やマクロファージなどの貪食細胞が、NADPAオキシダーゼの酵素によって、スーパーオキシドを生成して、体内の異物を取り込み分解除去しています。

 

呼吸基質によるATP産生量の違い

脂肪酸代謝による活性酸素種(ROS)発生のリスク

 

内呼吸に用いられるエネルギー源(有機物)は、主に糖質(グルコース)か脂質(脂肪酸)で呼吸基質と呼ばれています。

グルコースを呼吸基質とする場合と、脂肪酸を呼吸基質とする場合では、ミトコンドリアの電子伝達系に与える影響が、実は少し異なっています。

 

グルコースのエネルギー代謝

1分子のグルコースの好気性代謝では、解糖系・ピルビン酸→アセチルCoA変換・TCAサイクル(クエン酸回路)という一連の代謝過程で4分子のATP、10分子のNADH、2分子のFADH2を生成します。

電子伝達系では、NADHからは10個のHがマトリクスから膜間腔に移動、FADH2からは6個のH+がマトリクスから膜間腔に移動します。

F型H-ATPase(F1F0)でATPを産生する場合には、4個のHの濃度勾配による移動が必要となります。

つまり、1分子のNADHからは、2.5分子のATPが生成し、1分子のFADH2からは1.5分子のATPが生成することになります。

よって、1分子のグルコースからは、合計32分子のATPが生成することになります。

 

脂肪酸のエネルギー代謝

飽和脂肪酸のパルミチン酸(C15H31COOH)をエネルギー源とした場合について考えてみます。

パルミチン酸を活性化してパルミトイルCoAに変換するのに、ATPを消費します(最終的には2分子のATPを消費します)。

ミトコンドリアでβ酸化を7回行うことによって、8分子のアセチルCoA、7分子のNADH、7分子のFADH2を生成します。

1分子のアセチルCoAからTCAサイクルで、1分子のATP、3分子のNADH、1分子のFADH2が生成します。

1分子のパルミチン酸から、β酸化とTCAサイクルで、6分子のATP、31分子のNADH、15分子のFADH2が生成します。

電子伝達系からF型H-ATPase(F1F0によって、1分子のパルミチン酸から最終的には106分子のATPが生成することになります。

 

ココナッツオイルの主成分である中鎖脂肪酸のラウリン酸(C11H23COOH)の場合には、1子のラウリン酸から最終的には78分子のATPが生成することになります。

 

以上のことより、グルコースより脂肪酸をエネルギー源とした方が、たくさんのATPを産生することができます。

これが糖質より脂質の方がエネルギー効率がよいと言われる理由です。

 

ATP(アデノシン三リン酸)・代謝については、関連記事をご参照ください ↓

「代謝と生命活動」異化と同化とエネルギー

呼吸脂質による活性酸素の発生量の違い

脂肪酸代謝による活性酸素種(ROS)発生のリスク

 

How to deal with oxygen radicals stemming from mitochondrial fatty acid oxidation

Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2014 Jul 5;369(1646):20130446. doi: 10.1098/rstb.2013.0446.

Can All Major ROS Forming Sites of the Respiratory Chain Be Activated By High FADH2/NADH Ratios?: Ancient evolutionary constraints determine mitochondrial ROS formation

Bioessays. 2019 Jan;41(1):e1800180. doi: 10.1002/bies.201800180.

 

FADH 2 / NADH比とROS形成

脂肪酸代謝による活性酸素種(ROS)発生のリスク

グルコースの代謝によって生成されるFADH2 / NADH比が0.2で、脂肪酸の代謝によって生成されるFADH2 / NADH比は、長鎖脂肪酸になるほど0.5に近づきます(パルミチン酸0.484、ラウリン酸0.478)。

ユビキノンはComplex ⅡのFADH2からの電子供与も受けるため、FADH2の比率が多くなると、Complex ⅠでのNADHからのユビキノンへの電子供与が競合によって低下します。

QH2/ Q比の増加によって、ユビキノンプールからの逆電子移動(RET)が起こって、Complex ⅠでROSの発生が増加します。

FADH2 / NADH比が高いと、活性酸素種(ROS)の生成が増加することがわかっています。

つまりグルコースのエネルギー代謝経路から脂肪酸のエネルギー代謝経路に切り替わると、活性酸素種(ROS)の発生が増加してしまい、酸化ストレスを引き起こすリスクが高まるということです。

 

長鎖脂肪酸のβ酸化は、ミトコンドリアだけでなくペルオキシソームでも行われることや、長鎖脂肪酸や酸化脂肪酸によって、UCP(脱共役タンパク質)の活性化が行われることは、ROSの発生を減らし酸化ストレスを回避するためと考えられています。

 

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ペルオキシソームのβ酸化

脂肪酸代謝による活性酸素種(ROS)発生のリスク

ペルオキシソーム

ペルオキシソームは1重の生体膜に包まれた細胞内小器官(オルガネラ)で、長鎖脂肪酸のβ酸化の代謝に関わっています。

 

私たちの細胞には、ミトコンドリアとペルオキシソームという2つの脂肪酸酸化に関わる小器官(オルガネラ)が存在します。
脂肪酸をβ酸化するという働きは共通していますが、その酸化反応が異なります。

 

ミトコンドリアでは、アシルCoAデヒドロゲナーゼによって、脱水素化(酸化反応)によって2重結合を導入してFADH2 を生成します。

脂肪酸代謝による活性酸素種(ROS)発生のリスク

 

一方、ペルオキシソームでは、アシルCoAオキシダーゼによって、酸素(O2)との酸化反応によって2重結合を導入して、過酸化水素(H2O2)を生成します。

この反応がミトコンドリアとペルオキシソームのβ酸化の違いです。

 

ペルオキシソームでは、必ずROSである過酸化水素(H2O2)を生成します(FADH2を生成しません)

できた有害な過酸化水素は、ペルオキシソーム内にあるカタラーゼによって分解されます。

 

ミトコンドリアの場合、脂肪酸のβ酸化によって得られるアセチルCoA・FADH2・NADHは、TCAサイクルと電子伝達系と共役して、ATP産生に利用されます。

 

一方、ペルオキシソームにはそのようなATP産生機能がなく、脂肪酸のβ酸化によって生じるアセチルCoA・NADHは、直接ATP産生に利用されません。

ペルオキシソームは、ミトコンドリアと違って、ATP(エネルギー)産生とは共役していないのです。

ぺルオキシソームの脂肪酸のβ酸化は、生体内成分として利用できない脂肪酸を、脂肪酸リモデリング(必要な脂肪酸合成)を行う役割があります。

また、ミトコンドリア内でのROS発生を、軽減する役割があるのではないかと考えられます。

ペルオキシソームで特に長鎖脂肪酸のβ酸化を行うことにより、ミトコンドリアでのFADH2 / NADH比を下げています。

 

脂肪酸の種類や特性・脂肪酸リモデリングについては、関連記事をご参照ください ↓

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まとめ

脂肪酸代謝による活性酸素種(ROS)発生のリスク

 

私たちは、ミトコンドリアの酸素を使ったエネルギー代謝により、大量のATPを獲得しています。しかし、それと同時に活性酸素種(ROS)による酸化ストレスのリスクを負っています。

私たちの細胞は、グルコースも脂肪酸もどちらも呼吸基質(エネルギー源)としてエネルギー代謝を行うことができます。

グルコースのエネルギー代謝の経路が流れている時には、脂肪酸のエネルギー代謝の経路が抑制され、脂肪酸のエネルギー代謝の経路が流れている時には、グルコースのエネルギー代謝の経路が抑制されています。

代謝酵素の働きが調整され、同時にグルコースと脂肪酸のエネルギー代謝を進めることができず、適宜切り替えを行っているのですこれはランドルサイクルと呼ばれています。

 

グルコースをエネルギー代謝する経路と、脂肪酸をエネルギー代謝する経路では、生成するFADH2 / NADH比が異なります。

それがミトコンドリアでの電子伝達系の複合タンパク質での、活性酸素種(ROS)の生成に影響を与えます。

脂肪酸のエネルギー代謝は、グルコースのエネルギー代謝と比較して、FADH2 / NADH比が高くなり、ミトコンドリアでの活性酸素種(ROS)の発生を増加させてしまいます。

 

肥満により脂肪酸のエネルギー代謝が活性化され、グルコースのエネルギー代謝が抑制されているのが、インスリン抵抗性の状態です。

高血糖による糖毒性(糖化リスク)だけでなく、脂肪酸のエネルギー代謝が中心になることで、ミトコンドリアでの活性酸素種(ROS)の発生を増加させ、酸化ストレスを引き起こすリスクが高まります。

 

酸化ストレスによって、ミトコンドリアの呼吸鎖(タンパク質)が障害を受けると、ミトコンドリア機能が障害されて、私たちにとって様々な負の影響がもたらされています。

 

 

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