コラム「不確実性の科学」
『不確実性の科学』
「医学は不確実性の科学であり、確率のアートである」
100年以上前に生きた医学者ウイリアム・オスラーが残した言葉である。
「不確実性の科学」とは、実にうまく言ったものだと思う。
不確実なものは科学ではないのだ。
100%の再現性を持ったものが科学ではないだろうか。
医学は大きく進歩したのかもしれないが、不確実性の科学であることに変わりはないと、私は思う。
またオスラーはこうも言った。
「医学は科学に基づいたアートである」
私たち人間は多様性がみられ、一人一人がアートな存在なのではないだろうか。
人間を扱う医療はアートなのだと思う。
多様性があるということは不確実性なのかもしれない。
医療におけるエビデンスとはいったい何なのだろう。
根拠に基づく医療(EBM:evidence based medicine)が主流になった現代医療は、エビデンスが重要視されるようになった。
エビデンスのことを科学的根拠と思ったりしていたが、これは科学ではない。
臨床試験で検証してみて、統計的に有意な結果がでればエビデンスになったりする。
多くの場合エビデンスとは、統計的な確率でいえることを根拠にしているのだ。
マジョリティ(多数派)がどうなる確率が高いかを示すものかもしれない。
マイノリティ(少数派)な人間にとっては、統計的な確率など当てはまらない。
エビデンスが私やあなたに当てはまるかどうかは、結局わからないのだ。
私たちは他人が治った例を基に、自分も高い確率で治るのではないかと期待したりするものだ。
不確実性であることは変わりないが、確率によって不安を解消しようとしているのだろう。
自分のことをマジョリティだと思える人間にとっては、安心材料になるのかもしれない。
「確率のアート」と表現したオスラーは、統計学による確率の世界が医療の中心になっていくことを見抜いていたのだろうか。