コラム「天元の音」
『天元の音』
碁盤の上に碁石を打つと「パンッ」と音が響く。
対局が始まり序盤に打ち合う「布石」の音の響きが、目に見えない駆け引きをいっそう駆り立てるような気がする。
自分では測り知れない「布石」を相手に打ち込まれると、何か大きなものを感じて圧倒されてしまったりするものだ。
「布石」には大きな意味がある。
序盤に打った石をうまく生かすように、お互いに戦略を立て合っている。
この「布石」をうまく生かせるように打った方が勝つのではないかと思う。
碁盤の上には9コの星があり、中心の星を“天元”という。
囲碁の世界では「布石」で“天元”に打つことは悪手と考えられている。
“天元”の石はその後すべての石に広く薄い影響を与えることになり、“天元”に打った「布石」を確実に生かすような戦略の型が見つかっていないのだ。
“天元”の「布石」を生かせるかどうかは、人知を超えたところにあるのだろう。
緻密に戦略を立て勝ちにいく囲碁においては、悪手と考えられてしまうのは仕方がないのかもしれない。
もし囲碁に究極の布石があるとしたら、初手にご真ん中に打つ“初手天元”ではないだろうかと思ったりする。
何もなかった盤上に力強く碁石を打ち込んで“天元の音”を響かせるのだ。
「この勝負の行方は天に任せる」
初手天元を打った棋士たちは、そういう気持ちで盤上の音を響き渡らせたのではないかと思ったりするのだ。
この天元には無限の可能性があり、まさに宇宙を感じる手ではないだろうか。
私の宇宙の中心は「私」。あなたの宇宙の中心は「あなた」。そう私たちは自分自身が宇宙の中心を生きている。
宇宙の中心で自分の音色を強く響かせる人には、とうてい敵わないと思ったりする。
ピンチの時こそあれこれ小賢しく考えるより、力強く“天元の音”を奏でる人でありたいと思う。
自分の中心に力強く意識をおいて、天に任せてみたいものだ。