「漢方薬に副作用はない?」都合のよい言葉にご注意を
日本においての代替医療としては、何と言っても漢方医学(中医学)が一番身近なものだと思います。
病院でも保険適用で漢方薬が処方され、ある意味では、西洋医学と漢方医学(中医学)の統合医療が進んでいます。
しかし、漢方薬についての投薬、漢方薬に対する認識は、本来のものから大きくずれたものになっています。
「漢方薬は副作用がなくて安心して飲める」「漢方薬は長期間飲まないと効果がでない」と思っているなら、それは漢方薬に対する大きな誤解があります。
なぜこのように言われるようになったのか?その原因について解説いたします。
統合医療と呼べない
西洋医学
病気には必ず器質的な異常があると考え、人間の体を機械のパーツのように考え、検査を重視して細かく分析することで病変を追究して、それに対処していきます。
ある好ましくない病気の症状があれば、その症状を抑えたり改善したりするための薬物療法を行います。
アロパシー医学といわれる、対症療法が主流となります。
中医学
人体の自・他覚症状をもとに病変をとらえ、その状態を八綱、気血津液、臓腑、病邪など観点から、どのような障害が生じているのかを弁証します。
つまりは現在の証に基づき、それをより良い状態へ制御するための治法を導き出していきます。その時に処方されるのが、漢方処方です。
西洋医学と中医学ははそもそも人体の捉え方、病気の捉え方がまったく違います。
複数の視点から人体を捉えて病気の診断を行い、治療法も複数の医学的アプローチから行っていくことが統合医療です。
人体の状態をいろいろな角度から捉え、病気の状態の原因を探っていくことに価値があります。
検査をしても異常が見つからなかった場合に、西洋医学では対処することが難しいケースがあります。
そのような場合には、中医学を使って弁証することで、その治法を導き出すことができるというわけです。
西洋医学な診断を行い、その病名や症状に対して漢方薬を処方することは、本来のあり方ではない。
西洋医学的な診断をした病名に対して、効果があると言われている漢方薬を処方する。俗にいわれる”病名漢方”が、日本における漢方薬の一番多い使われ方になっています。
漢方薬の価値は、中医学の弁証論治にあります。
漢方薬は中医学的な弁証論治により導きだされて、初めて本当の効果を発揮できます。
西洋医学的な病名が同じでも、中医学的な弁証は異なる場合が多いです。
中医学の「同病異治」という考え方
症状や病名が同じでも、人体の内部状態が異なっているので、同じ処方が有効とは限らない。
中医学の「異病同治」という考え方
症状や病名が異なっていても、人体の内部状態が似通っている場合には、同じ処方が有効となります。
中医学の弁証論治については関連記事をご参照ください ↓
漢方薬に副作用はないのか?
中医学には副作用という考え方はありません。漢方薬に副作用はないと考えるのが正しいです。
漢方薬は個々に薬効をもった偏った性質を持つ生薬を組み合わせて、病態を好ましい状態へと整えていくものです。
ある方剤には適用する病態が必ずあります。
1つの方剤でぴったり合わない場合には、加減を行なったり、他の方剤を組み合わせて調整していきます。
病態の判断(弁証)を誤ったり、不適切な処方を投与すれば、好ましくない反応が現れることがあります。
これは「誤治」であり、副作用ではありません。
誤治(ごち)とは
過失により不適切な治療を施したため、症状を悪化させたり、新たな病気を生じさせてしまうこと。
漢方薬に副作用はないが、誤った弁証による、不適切な漢方薬の処方が多いのが現実です。
漢方薬は長期間服用しないと効果がでないのか?
「病院でもらって漢方薬をもう何年も飲んでいるけど、特に何も変わったように思わない」と言われる方がたくさんいます。
漢方薬は何年も飲まないと効果がでてこないものなのでしょうか?
風邪などの急性疾患であれば、数時間~数日で効果がでます。
慢性疾患の場合でも2週間~4週間程度で、何らかの好ましい体調の変化は認められます。
長い間慢性化した病変は、治癒するのに長期間かかる場合もあります。
適した漢方薬を服用している場合には、主訴の症状が改善しなくても、それ以外のところで必ず好ましい体調の変化がでてきます。
もしそうでない場合は、弁証論治を見直して、漢方薬の処方を見直す必要があります。
長期間飲んでも、何も変化を感じない場合には、誤った弁証論治による、不適切な漢方薬が処方されています。
都合のよい言葉にご注意を
「漢方薬に副作用はない」「漢方薬は長期間飲まないと効果がでない」という言葉は、非常に都合よい言葉として使われています。
中医学的な弁証を行い、病態を捉えた上で、漢方薬を処方されているなら、このような言葉を容易に使うことはありません。
やはり、日本における漢方薬の処方が、”病名漢方”になっていることが原因ではないでしょうか?
さらに言えば、瞑眩(好転反応)という言葉も、非常に都合のよい言葉として使われています。
瞑眩(めんげん)とは
服薬後に出現する予期せぬ症状の悪化で、その後に顕著に症状の改善が現れるときには、一種の好転反応と考えられます。もともと漢方では瞑眩という言葉が使われていましたが、それほど起こるものではありません。
病気の種類によっては、このような治癒過程を経て改善していく場合もありますが、「誤治」による不適切な漢方薬を服用したことが原因である場合が多いです。
健康食品などの分野でも、この好転反応という言葉が、「一時的に悪い症状がでるのは、症状がよくなるための予兆」のような意味合いで使用されています。
何か悪い症状が出てしまった時に、それをごまかす為の都合のよい言葉として、使われていると感じます。
このような言葉は、症状が完治した後で、その過程を振り返った時に使うべき言葉ではないでしょうか?
まとめ
漢方処方の本当の価値は弁証論治にあります。
中医学の視点によって、体の状態がどのようにあるのかを把握することが重要です。
症状あるいは病名から、漢方薬を処方することは、本来の効果を発揮できない可能性が高いです。
西洋医学の視点では、なかなか根本的な治療が難しい場合に、中医学の視点からアプローチすることで、解決できることがたくさんあります。
それが本当の統合医療の価値です。
「漢方薬に副作用がない」「漢方薬は長期間飲まないと効果でない」「好転反応(瞑眩)」などの言葉は、非常に都合がよい言葉として使用されています。
都合のよい言葉は、時として物事の本質を避けるために、便利に使われることがあります。
弁証に時間をかけずに、このような言葉だけを使用される先生にはご注意ください。
漢方薬だけでなく、健康食品やサプリメントなどでも、”副作用がなく長期間飲み続けられること”に価値が置かれることがあります。
しかし、それは本質からはずれていると断言できます。都合のよい言葉にはご注意ください。