コミナティ筋注「追加接種の有効性」

コミナティ筋注「追加接種の有効性」

コミナティ筋注「追加接種の有効性」

【この記事のまとめ】
特例承認時のコミナティ筋注の追加接種(ブースター接種)の有効性は、免疫原性によって評価されています。

しかし、その免疫原性は血清中和抗体価による液性免疫だけで評価されており、血清中和抗体価の低下とワクチン有効性の低下との相関性を示す根拠は不十分です。

また、追加接種後の血清中和抗体価の経時推移や、有効性の持続期間に関する情報は得られていません。

デルタ変異株に関しては、その後の臨床試験の中間報告で、2回接種と比較して、3回目接種後の短期間(2.5ヵ月)でのCOVID-19発症予防のワクチン効果95.6%が示されています。

オミクロン変異株に関しては、実験室レベルの研究で、2回目接種後、追加接種(3回目接種)後でも、血清中和抗体価が野生型と比べて大きく低下することがわかっています。

オミクロン変異株に対する、コミナティ筋注の追加接種によるCOVID-19発症予防効果は、臨床試験で確認できていません。

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンであるコミナティ筋注の追加接種(ブースター接種)は、2021年9月22日に米国で緊急使用が許可され、同年10月5日に欧州でも条件付きで承認されました。

2021年11月11日に日本国内でも、コミナティ筋注の追加接種が特例承認され、オミクロン変異株の感染拡大によって、日本国内でも追加接種(3回目接種)が本格化しています。

 

コミナティ筋注の追加接種の有効性について評価しています。

 

コミナティ筋注 追加接種(3回目接種)の免疫原性について

コミナティ筋注「追加接種の有効性」

コミナティ筋注 PMDA審査報告書(2021年11月10日)

コミナティ筋注の追加接種 PMDA申請資料概要

第Ⅱ/Ⅲ相パート-サブスタディ

初回免疫として本剤 30 µg を 2 回接種された被験者のうち、同意が得られた 18~55 歳の一部の被験者(約 600 例)を対象に、初回免疫の本剤 2 回目接種から 5~7 カ月後に本剤(BNT162b2)又は BNT162b2SA を追加接種したときの安全性及び免疫原性が検討されています。

被験者は本剤(BNT162b2)群と BNT162b2SA群に1:1で無作為割付され、盲検化されています。

※BNT162b2SAは南アフリカを起源とするベータ(B.1.351)変異株に基づくプロトタイプのmRNAワクチン

 

その他にも、BNT162B2SAの追加サブセットや新規コホートも行われています。

追加サブセット:第 3 相部分の 18~55 歳の被験者約 30 例に BNT162b2SAの 3 および 4 回目接種を行う。
新規コホート:COVID-19 ワクチン未接種の(過去に BNT162b2 接種を受けていない)COVID-19 に罹患していない被験者に BNT162b2SAを 21 日間隔で 2 回接種する。

※今回の特例申請に際しては、本剤(BNT162b2)群の成績のみが提出され、BNT162b2SA群の成績は提出されていません。

ベータ変異株からつくったmRNAワクチンの臨床試験結果は公表されない点から、結果が悪かった可能性があります。

 

免疫原性について

有効性は海外(米国)での参照株に対する免疫原性の臨床試験で評価されています。

2回目のワクチン接種から5~7ヵ月後、本剤の追加接種を行い、接種から1ヵ月後の、血清中の新型コロナウイルスに対する中和抗体の増加状況を確認しています。

(主要評価項目)「本剤 2 回目接種 1ヵ月後に対する本剤追加接種 1ヵ月後の中和抗体価の GMR」及び「本剤 2 回目接種1ヵ月後と本剤追加接種 1ヵ月後の中和抗体応答率の差」

 

GMR:幾何平均抗体価増加率(GMR)= 接種前の幾何平均抗体価/接種後の幾何平均抗体価×100

中和抗体応答率:1回目接種前の中和抗体価よりも4倍以上上昇した被験者の割合

 

コミナティ筋注「追加接種の有効性」

コミナティ筋注「追加接種の有効性」コミナティ筋注 PMDA審査報告書(2021年11月10日)

 

両項目において、追加接種後の中和抗体価は2回目接種後の中和抗体価に対して非劣性が示され、追加接種後の中和抗体価は2回目接種後よりも数倍高い値でした。

しかし、追加接種後の短期間の中和抗体価の情報のみであり、追加接種後の中和抗体価の経時推移や有効性の持続期間に関する情報は得られていません。

 

変異株に対する免疫原性

コミナティ筋注「追加接種の有効性」

コミナティ筋注 PMDA審査報告書(2021年11月10日)

 

コミナティ筋注「追加接種の有効性」

SARS-CoV-2 Neutralization with BNT162b2 Vaccine Dose 3

N Engl J Med. 2021 Oct 21;385(17):1627-1629. doi: 10.1056/NEJMc2113468.

 

変異株に対する免疫原性については、第Ⅰ相パートで探索的に評価され(例数23例)、ベータ株及びデルタ株に対する中和抗体価は、追加接種によりいずれの変異株でも 2 回目接種後を上回る上昇が確認されています。

また本剤追加接種後のベータ株及びデルタ株に対する中和抗体価は、追加接種後の野生型に対する中和抗体価よりも低いものの、本剤2回目接種後の野生型に対する中和抗体価よりも十分高値であることが確認されています。

しかし、次々と新たな変異株が出現しており、現在感染拡大しているオミクロン株についての中和抗体価は確認されていません。

また免疫原性を血清中和抗体価の推移による液性免疫だけで評価されていますが、細胞性免疫も関与するため、再感染による有事の際には、液性免疫が産生される可能性が高く、平時の血清中和抗体価の低下をワクチンの有効性の低下と結論づけることはできません。

やはり臨床試験によって、感染予防効果の有効性を評価する必要があります。

 

コミナティ筋注 追加接種(3回目接種)の有効性について

コミナティ筋注「追加接種の有効性」

ファイザー社プレスリリース(2021年10月21日)

2021年9月22日に米国で追加接種(ブースター接種)の緊急使用が許可された後、2021年10月21日にファイザー社は追加接種(3回目接種)によるCOVID-19発症予防効果を検証した第Ⅲ相無作為化対照試験の中間解析結果をプレスリリースで公表しています。

※詳細データは公表されていません

 

16歳以上の10,000人以上の被験者で実施され、コミナティ筋注を2回接種後、追加接種群とプラセボ接種群を1:1に割り付けました。

参加者の年齢の中央値は53歳で、16歳から55歳までの参加者の55.5%、65歳以上の参加者の23.3%でした。

2回目接種から追加接種(プラセボ接種)までの期間の中央値は約11ヵ月。

COVID-19の発生は、追加免疫(またはプラセボ)後少なくとも7日から測定され、追跡期間中央値は2.5か月でした。

ブースター群で5例、非ブースター(プラセボ)群で109例のCOVID-19が発生しました。

ワクチン効果(相対リスク減少率) 95.6%(95%CI:89.3、98.6)

※正確な例数が不明なので、絶対リスク減少率、NNTは計算できていません

 

2回目接種した人が、ブースター接種(3回目接種)するかしないかでの、短期間(2.5ヵ月)でのワクチン効果(相対リスク減少率)が95.6%を示しました。

ワクチン接種して初回免疫を獲得した人は、3回目の追加接種した方が、その後の短期間(2.5ヵ月)では感染予防効果が非常に高まる結果でした。

しかしこの臨床試験では、ワクチン未接種者と3回目接種者との比較はなく、オミクロン株の感染が主流の時期のデータではありません。

免疫原性の試験の結果と合わせて考察すると、追加接種(3回目接種)により、デルタ変異株においては短期間のCOVID-19発症予防効果は非常に期待できます。

オミクロン変異株での有効性については、この臨床試験からは判断することはできず、COVID-19発症を予防できるかどうかは不明です。

 

またこの臨床試験がしっかり継続されて、半年後の有効性と詳細データについて公表されることを望みます。

残念ながらコミナティ筋注の2回目接種後の臨床試験では、6ヵ月の観察期間を追跡していたのは、わずか7%の被験者しかおらず、正確に6ヵ月後の有効性を示したとは言い難いものでした。

 

コミナティ筋注の2回目接種後の6ヵ月の有効性については、関連記事をご参照ください ↓

コミナティ筋注(ファイザー社 COVID-19ワクチン)6ヵ月の有効性について

オミクロン株に対する中和抗体価について

コミナティ筋注「追加接種の有効性」

ファイザー社の実験室レベルの研究

ファイザー社プレスリリース(2021年12月8日)

 

ファイザー社は、オミクロン(B.1.1.529)変異株対する疑似ウイルス(pseudovirus)中和試験の結果を発表しました。

ワクチン2回接種では、オミクロン変異体に対する中和力価は、野生型と比較して平均25分の1に著しく低下しました。

ブースター接種(3回目接種)により、中和抗体価がオミクロン変異体に対する2回接種と比較して25倍増加しています。ブースター接種後の力価は、野生型ウイルスに対する2回の投与後に観察された力価とほぼ同等になっています。

この結果により、メーカーであるファイザー社では、オミクロン変異株に対してはブースター接種(3回目接種)の必要性を強調しています。

 

コロンビア大学の研究

https://doi.org/10.1101/2021.12.14.472719 プレプリント

https://doi.org/10.1038/d41586-021-03826-3 nature論文

コミナティ筋注「追加接種の有効性」

オミクロン(B.1.1.529)変異体は、そのスパイクタンパク質には、中和抗体の主要な標的である受容体結合ドメイン(RBD)に少なくとも15を含む、30を超える変異が含まれています。

疑似ウイルス(pseudovirus)での、ファイザー社ワクチン(BNT162b2)を 2回接種後のオミクロン株に対する中和抗体の量は、野生型と比べて21分の1に著しく低下しました。

3回目のブースター接種後も、野生型と比べて平均6.5倍低く、オミクロン株に対して依然として感染のリスクをもたらす可能性があると述べられています。

コミナティ筋注「追加接種の有効性」

また、本物のSARS-CoV-2分離株(野生型およびB.1.1.529)を使用して、BNT162b2(ファイザー)およびmRNA-1273ワクチン(モデルナ)接種者の血清サンプルのサブセットを試験しています。

オミクロン変異株の中和抗体は、野生型に比べて大幅に減少がみられ、2回目接種後で平均6分の1、3回目接種後で平均4分の1に低下しました。

 

オミクロン変異株に対する有効性は不明

コミナティ筋注「追加接種の有効性」

 

臨床試験を行った時期から数ヵ月後には、新たな変異株の感染が拡大する事態になっており、オミクロン変異株に対するCOVID-19発症予防効果は、臨床試験で確認できていません。

現時点では実験室レベルでの血清中和抗体価についての研究データしかありません。

 

コミナティ筋注(BNT162b2)は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の全長体をコードするため、RBDの中和抗体だけでなく、NTDの感染増強抗体も産生しています。

追加接種(3回目接種)によって、NTDの感染増強抗体価が高くなるのであれば、変異株による中和抗体価の大きな低下は、潜在的リスクである感染増強を引き起こす懸念があります。

 

ADE(抗体依存性感染増強)については、関連記事をご参照ください ↓

新型コロナウイルス変異株「抗体依存性感染増強の懸念」

 

ウイルスの変異が進むスピードが速い中、ブースター接種によって3回目、4回目と接種を繰り返すことが、本当にベネフィットにつながるのか?

血清中和抗体価の推移だけで免疫原性を判断し、有効性を論じることは危険ではないかと考えます。

ただでさえ安全性に関しては不明なリスクが伴うため、有効性に関してはしっかりとしたエビデンスを示す必要があります。

 

まとめ

コミナティ筋注「追加接種の有効性」

 

特例承認時のコミナティ筋注の追加接種(ブースター接種)の有効性は、免疫原性によって評価されています。

しかし、その免疫原性は血清中和抗体価による液性免疫だけで評価されており、血清中和抗体価の低下とワクチン有効性の低下との相関性を示す根拠は不十分です。

また、追加接種後の血清中和抗体価の経時推移や、有効性の持続期間に関する情報は得られていません。

 

デルタ変異株に関しては、その後の臨床試験の中間報告で、2回接種と比較して、3回目接種後の短期間(2.5ヵ月)でのCOVID-19発症予防のワクチン効果95.6%が示されています。

オミクロン変異株に関しては、実験室レベルの研究で、2回目接種後、追加接種(3回目接種)後でも、血清中和抗体価が野生型と比べて大きく低下することがわかっています。

オミクロン変異株に対する、コミナティ筋注の追加接種によるCOVID-19発症予防効果は、臨床試験で確認できていません。

ただでさえ安全性に関しては不明なリスクが伴うため、有効性に関してはもっとしっかりとしたエビデンスを示す必要があると考えます。

ウイルスの変異が進むスピードが速い中、ブースター接種を繰り返すことが、本当にベネフィットにつながるのかを判断することは非常に難しいと思われます。

 

 

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