「脂質クオリティと生命現象」脂肪酸の種類と特徴

「脂質クオリティと生命現象」脂肪酸の種類と特徴

「脂質クオリティと生命現象」脂肪酸の種類と特徴

【この記事のまとめ】
脂肪酸は代謝によってATPを生成する呼吸基質(エネルギー原料)としての役割だけでなく、体内にエネルギー源を貯蔵する役割を担っています。

貯蔵脂肪として適する脂肪酸と適さない脂肪酸があり、脂肪酸の種類(質)は糖質とのバランスを含めて、エネルギー代謝に大きな影響を与えています。

私たちの細胞膜はリン脂質の二重膜構造となっており、この構造が私たちの生命現象を支えています。リン脂質にある脂肪酸の種類を調節することで、膜の流動性を変化させることができます。

不飽和脂肪酸は、シス型の折れ曲がった構造によって、生体膜の流動性を高めることが大きな役割です。

脂肪酸の種類の多様性が、生体膜機能の多様性を生み出し、必要な部位での機能を高めています。

つまり、必要とする部位に必要となる種類の脂肪酸が、適切な量で供給されることが重要であり、私たちの体内では脂肪酸リモデリングによって、生体膜機能が調整されています。

脂質はエネルギー源という役割による量(quantity)だけなく、質(quality)が非常に重要であり、そのバランスが崩れると、生命機能に大きな影響を与えてしまいます。

 

悪い油と良い油があるという話は、聞いたことがあるのでしょうか?

動物性の脂(バターなど)は体によくないと言われて、植物性のマーガリンやサラダ油が、たくさん用いられるようになりました。

ところが植物性のω6脂肪酸のリノール酸を摂り過ぎると、アレルギー症状などを悪化させると言われるようになりました。

またマーガリンは製造過程でトランス脂肪酸を生成するので、体によくないと言われるようになりました。

そこで今度は魚油のω3脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)・ドコサヘキサエン酸 (DHA)が、健康によいと言われるようになりました。

ところがEPAやDHAは、酸化を受けやすく過酸化脂質を生成するため、体によくないと言われたりもしています。

 

いったい私たちは、どのように油を摂取すればよいのでしょうか?

 

油脂の構造と性質の違い

「脂質クオリティと生命現象」脂肪酸の種類と特徴

植物性と動物性の違い

脂肪と油脂は同じ意味ですが、油と脂は何が違うのでしょうか?

油は常温で液体で、基本的には植物由来のものです。一方、脂は動物由来のものです。

 

サラダ油、オリーブ油、ごま油など植物を原料とした植物油は、常温では液体の油です。

それと魚の油である魚油(fish oil)も、常温では固まらない融点の低い油です。

 

常温では液体ではなく固体となる油もあります。

熱帯地方の植物由来のパーム油やヤシ油(ココナッツオイル)などは、常温では固体となります。

脂はラード、バターなどの動物性の脂(あぶら)も常温では固体となります。

 

飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸

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図は 気になる生化学 より

 

脂肪(油脂)は温度に敏感で、温度が高いと酸化が進みやすいものがあります。

熱帯地方の植物や動物由来の油脂は、融点が高く安定した構造の飽和脂肪酸を多く含有するため、常温では固体となり酸化されにくい性質があります。

 

寒冷地方の植物や魚類由来の油は、多価不飽和脂肪酸を多く含有するため、融点が低く常温では液体となり、酸化されやすくなります。

青魚は冷たい温度の海域に生息しています。もし魚の油が水温が低くなって固まってしまっていたら、生きていけません。

魚油には、炭素の二重結合が多くて融点の低い、長鎖多価不飽和脂肪酸(EPA・DHA)が多く含まれているのは、このためです。

特に青魚の足がはやいのは、DHA・EPAが非常に酸化されやすく、過酸化脂質を生成して臭味の原因になっているからです。

寒冷地で育つ植物を温かい場所に移すと、直ぐに枯れてしまいます。長鎖不飽和脂肪酸が、酸化されて過酸化脂質を生成しやすくなるからです。

 

多価不飽和脂肪酸の酸化による過酸化脂質の生成は、動脈硬化の原因となっています。詳しくは関連記事をご参照ください ↓

「動脈硬化の真の原因」コレステロールではなく脂肪酸

熱帯地方の植物の油には、飽和脂肪酸が多く含有されており、気温が高くても酸化されることはありません。

つまり動植物は、自分達の生存する環境に適した脂質を生体内でうまく生成しています。

 

私たち人間もまた体温が36~37℃で維持されている高温動物であり、基本的に体内で代謝により生合成するのは飽和脂肪酸あるいは一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)が主流となります。

 

身土不二

自分の生まれ育った土地に実った旬の植物を食べることは、非常に理にかなっています。自分が生息している温度に適した脂質を摂取することができるからです。

 

中性脂肪の役割と体内での脂質合成

「脂質クオリティと生命現象」脂肪酸の種類と特徴

 

脂質は、ミトコンドリアでの内呼吸によるATP産生の呼吸基質(エネルギー原料)としてだけでなく、体内でのエネルギー源の貯蔵役割があります。

私たちは動物は、一定の間隔をもって食事を摂取するため、その間に使用するためのエネルギーを貯蔵する必要があります。

糖質(グルコース)は一時的な備蓄しかできず、脂質(脂肪酸)を中性脂肪(トリアシルグリセロール)として備蓄し、必要時に分解して利用できるようになっています。

「脂質クオリティと生命現象」脂肪酸の種類と特徴

図は 気になる生化学 より

 

代謝と生命活動については、関連記事をご参照ください ↓

「代謝と生命活動」異化と同化とエネルギー

そのため過剰な糖質は、代謝によって脂肪酸に変換されますが、それを促進するのがインスリンのホルモンです。

インスリンは血中に過剰なグルコースがあると、脂肪組織へのグルコースの取り込みを促進して、そこで代謝により脂肪酸が合成され、中性脂肪として貯蔵されます。

 

インスリンの働き・インスリン抵抗性については、関連記事をご参照ください ↓

「エネルギー代謝異常」インスリン抵抗性とは?

体内で生合成される脂肪酸は、飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸(オメガ9)だけであり、多価不飽和脂肪酸(オメガ3・オメガ6)は生合成できません。

体内で合成できない多価不飽和脂肪酸のα-リノレン酸(オメガ3)・リノール酸(オメガ6)は、外界から摂取しなければならない必須脂肪酸と呼ばれています。

 

細胞膜と生命現象

「脂質クオリティと生命現象」脂肪酸の種類と特徴

リン脂質の機能と構造

私たちの身体の細胞は、それぞれの区切られた空間内で生命活動を行っており、必要な物質は出入り可能な構造となっています。この細胞膜で仕切られた構造が、私たちの生命現象を支えています。

細胞膜を構成している主成分の1つは、リン脂質のホスファチジルコリンです。

 

「脂質クオリティと生命現象」脂肪酸の種類と特徴

 

ジアシルグリセロールに1分子のリン酸が結合したものをホスファチジン酸といいます。ホスファチジン酸にコリンが結合したグリセロリン脂質をホスファチジルコリンといいます。

トリアシルグリセロールの3つのうちの1つが、アシル基ではなく、親水性のリン酸とコリンがついた構造になっています。

分子内に、疎水性と親水性の部分の二面性を併せ持ち、それが細胞膜をつくる上で重要となり、具体的な機能を生み出しています。

構成しているリン脂質同士は、まわりを水分子で囲まれているため、ゆるく結合していて、細胞の形を流動的に変化させることができます。これが私たちの細胞の動的な構造を支えています。

 

細胞膜の流動性

「脂質クオリティと生命現象」脂肪酸の種類と特徴

図は 気になる生化学 より

 

細胞膜のリン脂質は、アシル基(脂肪酸部分)に不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸のを1つずつ持っているものが多いです(2つの飽和脂肪酸から構成されているものもあります)。

脂肪酸の組み合わせにより、ホスファチジルコリンには、約1,500 種類の構造多様性があることが知られています。

脂肪酸には、飽和脂肪酸(パルミチン酸やステアリン酸)、一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)に加えて、多価不飽和脂肪酸(アラキドン酸、EPA、DHA)など多くの種類があります。

 

アシル基の不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の比率によって、膜の流動性が変化します。

二重結合を持つ不飽和脂肪酸は、折れ曲がった構造をしており、脂質の並び方に緩みができて隙間が生じ、それが膜の流動性(動きやすさ)につながります。

 

「脂質クオリティと生命現象」脂肪酸の種類と特徴

 

天然の不飽和脂肪酸の二重結合はシス(cis)型をとって、それが折れ曲がった構造を生み出し、融点が低く流動性を高くしています。

二重結合の数が多い長鎖多価不飽和脂肪酸の方が、より折れ曲がった構造が大きくなって、流動性を高めることができます。

不飽和脂肪酸は、二重結合のシス型構造によって、生体膜の流動性を高めることが大きな役割です。

 

トランス脂肪酸

トランス脂肪酸は、不飽和脂肪酸の二重結合がトランス(trans)型をとることで、折れ曲がり構造が軽減されて、流動性が低下して融点が高くなります。

トランス脂肪酸は、油脂の精製加工過程で生成したり、動物の体内でも微量は生成しています。

トランス脂肪酸というのは、不飽和脂肪酸内の二重結合のうちの1つでもトランス構造になった不飽和脂肪酸の総称です。

生体膜のリン脂質に組み入れられた時に、シス型とトランス型ではその性質が異なってきますが、エネルギー代謝を受けてATPを生産する場合には違いはありません。

 

同じ脂質であるコレステロールもまた、リン脂質の間の隙間に入って、生体膜の安定化と流動性を調整する役割をしています。

コレステロールは脂肪酸を固定する働きをし、その一方で、脂肪酸が環境の温度変化で流動性が下がらないようにもしています。

コレステロールもまた、私たちが細胞膜を維持するために必要な重要な物質の1つです。

コレステロールについては、関連記事をご参照ください ↓

「コレステロールとホルモン合成」動脈硬化は血管の慢性炎症 

脂肪酸の種類と機能

「脂質クオリティと生命現象」脂肪酸の種類と特徴

 

生体膜はたくさんの種類の脂質から構成されており、環境変化に対応できるように、その構成構造を変化させています。

脂肪酸リモデリング

リン脂質のアシル基(脂肪酸)をホスホリパーゼで脱アシル化した後、リン脂質アシル基転移酵素によって再アシル化することで、特徴的な脂肪酸鎖に入れ替えを行います。

 

生体膜のリン脂質の新規合成は、体内で生合成できる飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸の組み合わせで生成しやすく、脂肪酸リモデリングによって、多価不飽和脂肪酸などが導入されて、生体膜リン脂質の脂肪酸の多様性を生み出しています。

 

温度変化によっても、低温環境下では流動性の高い脂質分子に、高温環境下では流動性の低い脂質分子に変化して、膜の流動性を維持しようとします。

 

脳神経細胞

脳の乾燥重量の約50~60%が脂質であり、他の臓器に比べて脂質が多く含まれています。それはリン脂質の二重膜でできている部分の割合が大きいからです。

ヒトの脳はの神経回路は、それぞれの神経細胞が軸索を伸ばし、特定の神経細胞の樹状突起にたどり着いて、つながることで築かれ、さまざまな情報のやり取りを実現しています。

神経突起の伸長やシナプス形成など、高い細胞膜の流動性を維持する必要があり、脳の不飽和脂肪酸にはDHAが多く含まれています。

 

肺サーファクタント

肺呼吸をする際、肺胞が呼気によって潰されないように、肺細胞から表面張力を低下させる肺サーファクタントという界面活性剤が分泌されています。

肺サーファクタントの主成分が、ジパルミトイルホスファチジルコリン(二つのパルミチン酸鎖を持つホスファジルコリン)であり、構成する脂肪酸の構造によって、密度が変化して表面張力を抑える力の調整ができます。

呼気の表面張力を抑えないと肺胞が潰れてしまい、抑えすぎると呼吸困難になってしまいます。

 

このように役割に合わせて必要な機能を持たせるために、リン脂質を構成する脂肪酸の構成は変化しているのです。

 

貯蔵されやすい脂肪酸とされにくい脂肪酸

「脂質クオリティと生命現象」脂肪酸の種類と特徴

飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸(ω9)

体内で糖やタンパク質から代謝によってつくられる飽和脂肪酸(パルミチン酸・ステアリン酸)や一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)は、貯蔵脂肪の代表です。

これらを多く摂取すると、小腸から吸収されて、肝臓を通って脂肪組織に搬送され貯蔵されます。

 

DHA・EPA・α-リノレン酸(ω3)

脂肪が細胞中に貯蔵されるとき、脂肪滴はリン脂質で囲まれています。

魚油は、36~37℃の体温では、このリン脂質を溶かしてしまい、安定した脂肪滴をつくることができません。そのため貯蔵脂肪としては不適当です。

 

融点が低い多価不飽和脂肪酸は、体の一部でしか必要ではなく、大量にあると酸化されて過酸化脂質を生成するリスクがあります。

そのため、他の脂肪酸に先駆けて分解され、エネルギー代謝を受けます。

EPAやDHAを大量に摂取すると、細胞内にペルオキシソームという細胞小器官が増殖して、β酸化により短くなった炭素鎖の脂肪酸が、ミトコンドリアでエネルギーや熱に変換されます。

ペルオキシソームは炭素鎖20以上の長鎖脂肪酸を短くする活性があります。

 

ペルオキシソームのβ酸化については、関連記事をご参照ください ↓

脂肪酸代謝による活性酸素種(ROS)発生のリスク

ミトコンドリアにも脂肪酸を分解するβ酸化を行う酵素があり、飽和脂肪酸やオレイン酸(オメガ9)、リノール酸(オメガ6)、α‐リノレン酸(オメガ3)など炭素鎖18以下の脂肪酸によく働きます。

 

α-リノレン酸は、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)、リノール酸(オメガ6)より優先的にエネルギーとして使われ、貯蔵されにくい脂肪酸です。

 

リノール酸(ω6)

リノール酸はオレイン酸とα‐リノレン酸の中間の軟らかさで、小腸からカイロミクロンとして各組織に運ばれます。

リノール酸は、ペルオキソームを増加させないので、α-リノレン酸より貯蔵されやすい脂肪酸です。

 

中鎖脂肪酸

飽和脂肪酸の中で、炭素数が8~12のものを中鎖脂肪酸と呼びます(細胞膜のリン脂質や貯蔵脂肪にある飽和脂肪酸は、炭素鎖16と18のものがほとんどです)。

カプリル酸(炭素数8)、カプリン酸(炭素数10)、ラウリン酸(炭素数12)は、MTCオイルやココナッツオイルに含まれている飽和脂肪酸です。

糖質制限を行う際のケトン食として、この中鎖脂肪酸が用いられています。

 

ミトコンドリア内に入る際、炭素鎖が短い中鎖脂肪酸は、カルニチンを必要としません。

小腸から門脈を通って肝臓に運ばれ、肝臓のミトコンドリアでβ酸化されて、アセチルCoAとなります。

そのため、中鎖脂肪酸は、長鎖脂肪酸に比べて吸収・代謝スピートが非常に速いのが特徴です。

糖(グルコース)の代謝が活発でなく、エネルギー不足の時は、ミトコンドリアで酸化的リン酸化によって、ATPを産生します。

糖のエネルギ―代謝が回って、エネルギーが充実している時は、アセチルCoAから飽和脂肪酸(パルミチン酸・ステアリン酸)などが合成され、貯蔵脂肪となっていきます。

 

このように各種脂肪酸には、貯蔵されやすさに違いがあり、糖質代謝にも大きな影響を与えます。糖尿病などの疾患には、糖質のコントロールだけでなく、脂質の質と量をコントロールすることが非常に重要となります。

 

糖質の代謝と糖尿病については、関連記事をご参照ください ↓

「糖質制限」糖尿病は糖質が原因なのか?

まとめ

「脂質クオリティと生命現象」脂肪酸の種類と特徴

 

脂肪酸は代謝によってATPを生成する呼吸基質(エネルギー原料)としての役割だけでなく、体内にエネルギー源を貯蔵する役割を担っています。

貯蔵脂肪として適する脂肪酸と適さない脂肪酸があり、脂肪酸の種類(質)は糖質とのバランスを含めて、エネルギー代謝に大きな影響を与えています。

 

私たちの細胞膜はリン脂質の二重膜構造になっており、この構造が私たちの生命現象を支えています。リン脂質にある脂肪酸の種類を調節することで、膜の流動性を変化させることができます。

不飽和脂肪酸は、シス型の折れ曲がった構造によって、生体膜の流動性を高めることが大きな役割です。

脂肪酸の種類の多様性が、生体膜機能の多様性を生み出し、必要な部位での機能を高めています。

つまり、必要とする部位に必要となる種類の脂肪酸が、適切な量で供給されることが重要であり、私たちの体内では脂肪酸リモデリングによって、生体膜機能が調整されています。

 

私たちが脂質を食物から大量に摂取した場合、私たちの体内には存在しない脂肪酸や高度不飽和脂肪酸なども含まれています。私たちの体内で利用可能な脂肪酸は、生体膜や脂肪滴に取り込み、不要な脂肪酸は代謝解毒するしかありません。

現代人の食生活は、調理方法を含めて過剰な油脂を摂取する傾向にあり、その質にも注意が必要です。

脂質はエネルギー源という役割による量(quantity)だけなく、質(quality)が非常に重要であり、そのバランスが崩れると、生命機能に大きな影響を与えてしまいます。

 

「脂質クオリティと生命現象」脂肪酸の種類と特徴