メカノバイオロジー「重力と張力」
近年、さまざまな生命活動や病態に「物理的な力」が関与していることが分かってきました。
メカノバイオロジーという分野が注目されています。
私たちの細胞は生化学的な要因だけでなく、自身に加わる力や変形といった力学環境の変化に応じて、増殖や代謝といった機能を調節しており、それが恒常性(ホメオスタシス)につながっています。
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メカノトランスダクション(mechanotransduction)
細胞が力学環境の変化を感知して、それを生化学的信号に変換するプロセスをメカノトランスダクションと言います。
細胞には自らに負荷された力、すなわち機械的(力学的)情報を感知するメカノセンサーがあり、生化学的情報(イオンチャネルの開閉、酵素活性の制御、タンパク質との結合の調整など)に変換して、細胞の発生、分化、増殖、疾患や治癒など様々な生命現象に関わっています。
ではいったいどのようにメカノセンサーが働き、メカノトランスダクションを起こして、生化学的シグナルに変換されているのでしょうか?
細胞は自らが接着する基質(細胞外マトリックス)の硬さを認識して応答しています。
つまり、力学的な作用・反作用の法則が働いています。
硬い足場(基質)の上では、細胞内ミオシンに起因する細胞収縮力は大きく、柔らかい足場(基質)の上では、細胞収縮力は小さくなります。
この細胞収縮力の大きさの違いを、細胞内外の要素が感知して、細胞応答(生化学的反応)を引き起こしています
私たちはの細胞は、細胞内外にタンパク質や糖などで力学的に釣り合った強度の構造をつくっています。
細胞骨格はタンパク質の重合と脱重合により動的な形態を維持し、それが代謝酵素との相互作用において、化学反応の活性を制御して、エネルギーの産生と消費を調節すると同時に、かたちの維持と張力の発揮も行っています。
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癌細胞の代謝変化
細胞や組織の緊張は、生物の発生と維持に重要な役割を果たしています。
細胞の張力が細胞の代謝を調節して、解糖系(Glycolysis)と酸化的リン酸化(OXPHOS)の選択に影響を与えています。
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細胞周囲の細胞外マトリックス (ECM))の剛性が、アクチンと呼ばれる繊維状細胞タンパク質の再編成を促進して、グルコースからエネルギーを生成する重要な代謝経路である解糖系を促進します。
解糖系の律速酵素であるホスホフルクトキナーゼ(Phosphofructokinase:PFK)の活性に影響を与えます。
通常、PFKにはユビキチンープロテアソーム、特にTRIM21(Tripartite motif-containing protein 21)が作用して分解してPKF活性を制御しています。
機械的刺激によりFアクチンの重合(F-actin bundling)により、TRIM21が細胞内で移動できなくなって、PFKと相互作用できなくなり、結果としてPFKの活性化が維持されて解糖系が促進します。
これは癌細胞のワールブルク効果を引き起こす要因となっています。
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重力場とメカノセラピー
私たちは重力に抗い活動することができるのは、重合と脱重合により動的な張力を発揮するタンパク質ポリマーによる細胞骨格のシステムがあるからです。
重力とエイジング(老化)には関係性があります。
老化とは、重力に負けて捉えられやすくなることであり、動きにくくなるだけでなく、私たちの代謝に大きな影響を与えています。
私たちの体の構造は、テンセグリティーと呼ばれる構造モデルによって、張力を使って重力に拮抗するようになっています。
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体が緊張してこわばって硬くなった部位ができると、張力バランスをとるために、別の部位が硬くなって緊張していきます。
そうやって筋膜(細胞外マトリックス)や筋肉を固めて、常に力が入った緊張状態をつくってしまいます。
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細胞外マトリックス(筋膜)の緊張は、メカノトランスダクションとして解糖系の代謝を活性し、交感神経反応(闘争・逃走 反応)を引き起こします。
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人体に力学的刺激を加えたり除いたりすることで、力学的環境をコントロールする医療をメカノセラピーと言います。
筋膜リリースは、筋膜(細胞外マトリックス)に圧力を加えて、コラーゲン線維を可塑変形させて力学的環境を変化することができます。
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まとめ
私たちの細胞は生化学的な要因だけでなく、自身に加わる力や変形といった力学環境の変化に応じて、増殖や代謝といった機能を調節しており、それが恒常性(ホメオスタシス)につながっています。
細胞には自らに負荷された力、すなわち機械的(力学的)情報を感知するメカノセンサーがあり、生化学的情報(イオンチャネルの開閉、酵素活性の制御、タンパク質との結合の調整など)に変換して、細胞の発生、分化、増殖、疾患や治癒など様々な生命現象に関わっています。
私たちはの細胞は、細胞内外にタンパク質や糖などで力学的に釣り合った強度の構造をつくっています。
細胞骨格はタンパク質の重合と脱重合により動的な形態を維持し、それが代謝酵素との相互作用において、化学反応の活性を制御して、エネルギーの産生と消費を調節すると同時に、かたちの維持と張力の発揮も行っています。
細胞の張力が細胞の代謝を調節して、解糖系(Glycolysis)と酸化的リン酸化(OXPHOS)の選択に影響を与えています。
細胞周囲の細胞外マトリックス (ECM)の剛性が、アクチンと呼ばれる繊維状細胞タンパク質の再編成を促進して、グルコースからエネルギーを生成する重要な代謝経路である解糖系を促進します。
細胞外マトリックス(筋膜)の緊張は、メカノトランスダクションとして解糖系の代謝を活性し、交感神経反応(闘争・逃走 反応)を引き起こします。