「ストレスとホルモン」副腎疲労症候群とは?

「ストレスとホルモン」副腎疲労症候群とは?

「ストレスとホルモン」副腎疲労症候群とは?

【この記事のまとめ】
私たちの身体はストレスに曝されると、副腎からホルモンを分泌して、糖質や脂質、タンパク質などの栄養素の代謝を促進して、交感神経反応(闘争・逃走 反応)を行うために心拍数・血圧や血糖値などの調整を行っています。

副腎皮質で合成・分泌されるコルチゾールは、視床下部-脳下垂体-副腎皮質軸 (HPA軸)で調整されており、その機能障害が起こると副腎疲労症候群の原因となります。

HPA軸のダウンレギュレーションが起こっているのが、副腎疲労症候群です。

慢性的なストレスによる交感神経の過緊張が、ミトコンドリアでのエネルギー(ATP)産生を低下します。ミトコンドリアの機能低下と脳疲労が、副腎疲労を起こしているのです。

 

現代社会で生きる私たちは、非常にストレスの多い生活をしています。

副腎はストレスに対するホルモンを合成・分泌して、私たちの身体をストレスから守り、ホメオスタシス(恒常性維持)ために大きな機能を果たしています。

しかし慢性的なストレスにより、ある日突然、体がだるくて疲れやすくなったり、朝起きれなくなったりすることがあります。

副腎疲労症候群と呼ばれる症状は、いったい何が原因で起こるのでしょうか?

 

副腎とホルモン

「ストレスとホルモン」副腎疲労症候群とは?

 

副腎は左右の腎臓上側にかぶさるような形をした、小さな臓器(内分泌器官)です。発生学的に異なる起源といわれている、皮質(中胚葉由来)と髄質(外肺葉由来)から構成されています。

副腎皮質からステロイドホルモン(コルチゾール・アルドステロン・アンドロゲン)が合成・分泌され、副腎髄質からカテコールアミン(アドレナリン・ノルアドレナリン)が合成・分泌されています。

 

コルチゾール

コルチゾール(糖質コルチコイド)は、副腎皮質の束状帯で合成・分泌されます。

別名「ストレスホルモン」とも呼ばれており、糖質や脂質、タンパク質などの栄養素の代謝を促進します。

またコルチゾールは抗炎症作用や免疫抑制作用にも大きく関わっています。

医薬品の有名な「ステロイド」は、この副腎皮質ホルモン(コルチゾール)と類似した化合物の総称です。

 

アルドステロン

アルドステロン(鉱質コルチコイド)は、副腎皮質の球状帯で合成・分泌されます。

主に塩分・カリウム・水分のバランスを調整しています。

アルドステロンの過剰分泌は高血圧を引き起こし、欠乏は不整脈、高カリウム血症、低血圧などを引き起こす原因になります。

 

アンドロゲン

アンドロゲンは副腎皮質の網状帯で合成・分泌されます。

男性ホルモンの総称です。女性の場合、アンドロゲンがエストロゲンという女性ホルモンに変換されます。

 

アドレナリン

副腎髄質から合成・分泌されるホルモンの約80%以上はアドレナリンです。

不安や緊張、興奮、怒り、恐怖といったストレスによって分泌され、交感神経に作用して危機的な状況に心身を対応させる神経伝達物質として働きます。

つまり交感神経反応(闘争・逃走 反応)を支えるホルモンで、心拍数の上昇・血圧の上昇・筋肉増強・脂肪の分解促進・消化吸収の制限などの作用があります。

 

ノルアドレナリン

副腎髄質から合成・分泌される、アドレナリンの次に多いホルモンが、ノルアドレナリンです。

アドレナリンと同様に、心拍数の上昇・血圧の上昇・筋肉増強・脂肪の分解促進・消化吸収の制限などの作用があります。

ただしノルアドレナリンは副腎髄質以外の場所(脳幹の青斑核)で主に合成・分泌されており、脳内で合成・分泌されたノルアドレナリンは、怒りやイライラ、やる気や恐怖心などの感情を生み出します。

アドレナリンと違って、脳内での中枢神経系での働きがメインとなります。

 

コルチゾール(副腎皮質ホルモン)

「ストレスとホルモン」副腎疲労症候群とは?

 

コルチゾールはストレスホルモンと呼ばれるように、肉体的、精神的、生理的なものすべてのストレスに対して反応・分泌され、生体内のホメオスタシス(恒常性維持)のための調整を行っています。

人間関係や将来に対する不安などでも、私たちはストレスを感じ、コルチゾールが分泌されています。

 

コルチゾールの働きについては、関連記事をご参照ください ↓

「コルチゾール」ステロイドの抗炎症・免疫抑制作用とは?

 

コルチゾールは、エネルギー源となるブドウ糖を血中に増加させて、交感神経反応(闘争・逃走 反応)に備えるために働きます。

交感神経反応(闘争・逃走 反応)は、解糖系による即効的なエネルギー供給を必要とするからです。

 

代謝と生命活動については、関連記事をご参照ください ↓

「代謝と生命活動」異化と同化とエネルギー

 

肝臓では糖新生(アミノ酸から糖をつくりだす)を行うために、筋肉などのタンパク質が分解されてアミノ酸を供給しようとします。

脂肪組織からは、中性脂肪を分解して血中へ脂肪酸・グリセロールが放出されます。

それによって血糖値が上昇していきます。

 

コルチゾールは、コレステロールを原料として副腎皮質のミトコンドリア内で合成されています。

実はホルモンをつくっているのは、ミトコンドリアなのです。

コレステロールからのホルモン合成については、関連記事をご参照ください ↓

「コレステロールとホルモン合成」動脈硬化は血管の慢性炎症 

 

ミトコンドリアは内呼吸(細胞呼吸)によるエネルギー代謝を行い、私たちの生命活動に必要なエネルギー(ATP)を産生しています。

ミトコンドリアのエネルギー代謝については、関連記事をご参照ください ↓

「ミトコンドリア・ダイナミクス」生命のエネルギー代謝

ミトコンドリアは、内分泌ホルモンの合成・分泌を行うことで、外呼吸と内呼吸の調整、血圧、血糖値やミネラル濃度までもコントロールしています。

 

内呼吸・外呼吸については、関連記事をご参照ください ↓

「つながりの呼吸」自律神経を整える

 

ミトコンドリアは、エネルギー(ATP)産生からホルモン合成まで、私たちのホメオスタシスにとって欠かせない働きを担っています。

私たちはミトコンドリアなしでは、生きていけないようになっています。

 

ストレス反応のしくみ

「ストレスとホルモン」副腎疲労症候群とは?

 

私たちのストレスに対する反応として、大きく2つの経路があります。

 

視床下部-交感神経-副腎髄質軸 (sympathetic-adrenal-medullary axis: SAM軸)

私たちがストレスに曝されるとSAM軸では、視床下部を介して副腎髄質と交感神経からアドレナリン、ノルアドレナリンが分泌され、交感神経反応(闘争・逃走 反応)が制御されます。

 

視床下部-脳下垂体-副腎皮質軸 (hypothamic-pituitry-adrenal axis: HPA軸)

私たちがストレスに曝されるとHPA軸では、視床下部は副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)を分泌します。

CRHは脳下垂体を刺激して、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が放出されます。

そしてACTHが副腎皮質を刺激して、コルチゾールの合成・分泌を促進します。

それによって血糖値が上昇して、交感神経反応(闘争・逃走 反応)の瞬発的な力を発揮できるように、解糖系ででのエネルギー産生に備えようとします。

 

「ストレスとホルモン」副腎疲労症候群とは?

 

本来、コルチゾール(グルココルチコイド)が出過ぎた時には、負のフィードバックが働きます。

コルチゾールが、海馬・視床下部・下垂体を介して、CRHおよびACTH分泌を抑制するようになります。

 

ストレスの伝染「セカンドハンド・ストレス」については、関連記事をご参照ください ↓

「セカンドハンド・ストレス」ストレスの伝染

副腎疲労症候群(Adrenal Fatigue)の正体

「ストレスとホルモン」副腎疲労症候群とは?

 

副腎疲労症候群(Adrenal Fatigue)

副腎の機能低下が続くと、慢性的な疲労(疲れやすい・疲れが取れない)、精神不安(睡眠障害・うつ症状・やる気がでない)、朝起きれない、低血圧、低体温、低血糖、下痢、アレルギー症状など様々な症状を引き起こすと言われています。

この副腎疲労症候群の症状は、ミトコンドリアの機能低下で起こる症状と非常によく似ています。つまりミトコンドリアの機能低下が起こっているのです。

 

HPA軸機能障害

脳の視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)が分泌され、脳下垂体がその命令を受けてACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を分泌します。

それを受けた副腎皮質がコルチゾールを分泌し、コルチゾールが出過ぎないように視床下部と下垂体に負のフィードバックをかけます。

これによってCRHとACTHのバランスが保たれて調整されています。

視床下部、脳下垂体、副腎の連携が上手く働かなくなった状態をHPA軸機能障害といい、副腎疲労症状群の原因となります。

 

コルチゾールが出過ぎる場合

コルチゾールが出過ぎた場合、通常は負のフィードバックがかかって、視床下部と下垂体にこれ以上刺激ホルモンを出さないように抑制がかかります。

うつ病患者では、ACTHとコルチゾールが出続けてしまい、血中コルチゾール濃度が上昇します。HPA軸の負のフィードバック機能障害が認められています。

 

コルチゾールが出にくい場合

副腎疲労(慢性疲労症候群)では、基礎コルチゾールの分泌低下がみられます。

概日周期及び朝のACTH分泌レベルが低下しており、脳下垂体の機能が低下しています。

副腎疲労症候群とは、脳下垂体のACTH分泌低下による、コルチゾールの分泌低下が原因です。

すなわち副腎疲労は、脳疲労が原因で起こっているのです。

 

脳のアイドリングと脳疲労については、関連記事をご参照ください ↓

「自律神経失調症」脳のアイドリングによる脳疲労

概日リズムによるホルモン分泌については、関連記事をご参照ください ↓

「概日リズムとホルモン分泌」セロトニン・メラトニン

 

慢性的なストレスによりコルチゾールの分泌が続くと、ミトコンドリアでのエネルギー(ATP)産生が抑制され、ミトコンドリアのマイトファジーが低下することがわかっています。

 

機能不全を起こしたミトコンドリアによる活性酸素の産生が増加して、海馬にあるグルココルチド受容体の破壊・消失により、CRH分泌低下を指示する負のフィードバックが働らかなくなっていきます。

持続的なコルチゾールの分泌により、海馬などの脳組織の萎縮が起こってくることがわかっています。

 

海馬の機能障害については、関連記事をご参照ください ↓

「記憶と自己」海馬とトラウマとアルツハイマー

 

のためストレスがかかってもコルチゾールを分泌しないように、脳下垂体からACTHを出さないように調整されていきます(ダウンレギュレーション)。

 

ダウンレギュレーションについては、関連記事をご参照ください ↓

「エネルギー代謝異常」インスリン抵抗性とは?

まとめ

「ストレスとホルモン」副腎疲労症候群とは?

 

私たちの身体はストレスに曝されると、副腎からホルモンを分泌して、糖質や脂質、タンパク質などの栄養素の代謝を促進して、交感神経反応(闘争・逃走 反応)を行うために心拍数・血圧や血糖値などの調整を行っています。

副腎皮質で合成・分泌されるコルチゾールは、視床下部-脳下垂体-副腎皮質軸 (HPA軸)で調整されており、その機能障害が起こると副腎疲労症候群の原因となります。

慢性的なストレスによるコルチゾールが過剰に分泌され続けると、やがて海馬のCRH分泌抑制によるHPA軸の負のフィードバックが働かなくなります。

そのためストレスがかかってもコルチゾールを分泌しないように、脳下垂体からのACTHを出さないように調整されていきます。

このようにHPA軸のダウンレギュレーションが起こっているのが、副腎疲労症候群です。

慢性的なストレスによる交感神経の過緊張が、ミトコンドリアでのエネルギー(ATP)産生を低下します。

ミトコンドリアの機能低下と脳疲労が、副腎疲労を起こしているのです。

 

「ストレスとホルモン」副腎疲労症候群とは?