自己と環境の相互作用「ペリパーソナルスペースの動的変化」
私たちは人それぞれ違う世界を経験しています。
同じ時代に、同じ場所に住み、同じ現実世界を生きたとしても、人によって知覚している世界・現実は異なっています。
実は私たちは直接的にこの世界を経験してはいないのです。
身体記憶の神経科学
The neuroscience of body memory: From the self through the space to the others
Cortex. 2018 Jul;104:241-260. doi: 10.1016/j.cortex.2017.07.013.
固有受容は姿勢などによって動的に変化する性質がありますが、私たちには長期的な身体イメージを保有する「身体記憶」が存在すると考えられています。
私たちの外界に対する経験は直接的には起こっていません。
私たちが経験する外界は、常に知覚情報によって媒介され、私たちの内部情報による影響を受けています。
つまり、保存されていた身体記憶によって調整されたものが、自らの経験となります。
私たちはペリパーソナルスペース(身体周辺空間)で内受容感覚と外受容感覚を統合したものが、自己の経験として認識されるようになっています。
私たちが自己として感じている身体の視点からしか外界を体験できません。
外部からの情報を知覚する際に、同じ時間・同じ場所にいたとしても、人ぞれぞれの経験は異なってしまうのです。
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ペリパーソナルスペースの防御的役割
Approaching threat modulates visuotactile interactions in peripersonal space
Exp Brain Res. 2016 Jul;234(7):1875-1884. doi: 10.1007/s00221-016-4571-2.
私たちはこの世界で一人では生きてはいません。多くの場合、私たちの周りの空間は他の人や動物、物で満たされ、常にそれらと交流しています。
ところが身の回りのすべてが無害というわけではありません。
近くにいる動物、人、物との接触によって起こりうる結果を予測することで、適切な対応を準備する必要があります。
接近する脅威への適切な反応には、ペリパーソナルスペースが特に重要となり、防御的な役割をしています。
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個人のペリパーソナルスペースの領域サイズは特性不安と相関しており 、不安が強い個人ではより大きなペリパーソナルスペースを持っています。
近づいてくる視覚刺激を脅威として知覚すると、刺激との身体的接触の否定的な結果が予測され、触覚処理が強化されます。
急性ストレスとペリパーソナルスペース
Acute stress affects peripersonal space representation in cortisol stress responders
Psychoneuroendocrinology. 2022 Aug;142:105790. doi: 10.1016/j.psyneuen.2022.105790.
ストレスとは、困難な状況に直面し、生物の恒常性を回復および維持することを目的とした一連の心理生理学的反応です。
急性ストレスは主に闘争・逃走反応による交感神経の活性化が起こります。
HPA軸によりコルチゾールが分泌され、血圧、心拍数、解糖系の増加とともに代謝が調整がされ、中枢神経と運動系への血液供給が強化されます。
ストレス反応・HPA軸については、関連記事をご参照ください ↓
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コルチゾールストレス反応を示すと、体に近い刺激に対して視覚触覚統合が強化され、遠くの刺激に対しては減少します。
より近い空間での情報処理が強化され、遠い空間に割り当てられたリソースの削減が行われるようになります。
ペリパーソナルスペースの近距離空間と遠距離空間の間の視触覚統合の差が生じるようになります。
他者との空間的接近でのペリパーソナルスペース
Spatial proximity to others induces plastic changes in the neural representation of the peripersonal space
iScience. 2022 Dec 26;26(1):105879. doi: 10.1016/j.isci.2022.105879.
身体的信号と多感覚信号から構築された ペリパーソナルスペースが、自己と他の境界を定義します。
体の近くで発生する外部刺激と、体から離れて発生する外部刺激を区別する適応機能があり、体の保護をサポートします。
他の誰かの空間的近接は、多感覚反応が発生する空間の部分を縮小し、ペリパーソナルスペース の領域サイズが減少します。
通常「私の空間」としてコード化されているものが、「あなたの空間」として再コード化されると考えられます。
逆に共感覚を生む親しい関係性では、自分と他人の体の共有マッピングを作成するための統合のスペースを拡大します。
ペリパーソナルスペースの共有については、関連記事をご参照ください ↓
まとめ
私たちの外界に対する経験は直接的には起こっていません。
私たちが経験する外界は、常に知覚情報によって媒介され、私たちの内部情報による影響を受けています。
私たちはペリパーソナルスペース(身体周辺空間)で内受容感覚と外受容感覚を統合したものが、自己の経験として認識されるようになっています。
接近する脅威への適切な反応には、ペリパーソナルスペースが特に重要となり、防御的な役割をしています。
個人のペリパーソナルスペースの領域サイズは特性不安と相関しており 、不安が強い個人ではより大きなペリパーソナルスペースを持っています。
他の誰かの空間的近接は、多感覚反応が発生する空間の部分を縮小し、ペリパーソナルスペース の領域サイズが減少します。通常「私の空間」としてコード化されているものが、「あなたの空間」として再コード化されると考えられます。
コルチゾールストレス反応を示すと、体に近い刺激に対して視覚触覚統合が強化され、遠くの刺激に対しては減少します。より近い空間での情報処理が強化され、遠い空間に割り当てられたリソースが削減がされます。
共感覚を生む親しい関係性では、自分と他人の体の共有マッピングを作成するための統合のスペースを拡大します。