2型糖尿病の新薬ツイミーグ(イメグリミン) メトホルミンを超えられるのか?

2型糖尿病の新薬ツイミーグ(イメグリミン) メトホルミンを超えられるのか?2型糖尿病の新薬ツイミーグ(イメグリミン) メトホルミンを超えられるのか?

【この記事のまとめ】
近年、メトホルミンには多面的な作用があることがわかっており、様々な作用メカニズムの研究が行われています。

メトホルミンの心血管イベント抑制のベネフィットは、血糖コントロールによるベネフィットではなく、別のファクターによるものであるという認識がされています。

メトホルミンから化学修飾されたツイミーグ(イメグリミン)が発売され、メトホルミンとは異なるミトコンドリア機能を介した作用が注目されています。

薬により血糖値やHbA1c値のコントロールはできても、糖尿病の合併症予防に結びつかないケースが多いことは、これまでの大規模臨床研究でも証明されています。

真のエンドポイントで有効性を評価できていない薬剤は、メトホルミンから第一選択薬の座をとって代わることはあり得ないのです。

2021年9月16日、大日本住友製薬から2型糖尿病治療薬「ツイミーグ」(一般名:イメグリミン塩酸塩)の国内での発売が開始されました。

ツイミーグはテトラヒドロトリアジン構造を有する、新しいクラスの経口血糖降下剤で、日本が世界で初めての承認・発売となりました。

大日本住友製薬「ツイミーグ」 プレスリリース作用機序

 

ツイミーグ(イメグリミン)は、メトホルミンを超える夢の新薬となることができるのでしょうか?

 

ビグアナイドの負の歴史

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ビグアナイドのルーツは地中海沿岸に自生するマメ科の植物「ガレガソウ Galega officinalis」です。

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このガレガソウから「グアニジン、guanidine」という物質を分離され、グアニジンは血糖値効果作用が確認できたのですが、同時に毒性が強かったのです。

そこでグアニジンを2個結合させて、ビグアナイド(biguanide)という化合物にすることで、安全性を高めました。

1950年代後半になると、ビグアナイド系糖尿病治療薬として、「フェンホルミン」、「ブホルミン」、「メトホルミン」の3つが開発され、糖尿病治療薬の第一選択薬として広く使用されるようになりました。

 

フェンホルミン(Phenformin)

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ミトコンドリアの呼吸酵素複合体Ⅰの阻害により、ミトコンドリアでの酸素呼吸(酸化的リン酸化)が抑制されます。解糖系の最終生成物であるピルビン酸はミトコンドリアに入らずに、細胞質内の乳酸脱水素酵素によって乳酸に変換されます。

そのため血中乳酸値が上昇して、乳酸アシドーシスを起こすリスクがあり、重篤な乳酸アシドーシスによる死亡が多数報告されたため、1977年に米国で販売が中止となりました。

 

メトホルミン(Metformin)

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日本でも米国のフェンホルミンの販売中止を受けて、1977年以降メトホルミンは最大750㎎という投与量制限がされ、「SU薬が効果不十分な場合あるいは副作用等により使用不適当な場合」と条件が付けられ、高齢者への投与は禁忌とされました。

 

ビグアナイド系治療薬は、これによって使用頻度が少なくなり、糖尿病治療における第一選択薬の座から長い間退くこととなったのです。

 

メトホルミン・ルネッサンス

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乳酸アシドーシスのリスクに対する懸念から、一時ほとんど用いられなくなったメトホルミンですが、1998 年に発表されたUnited Kingdom Prospective Diabetes Study(UKPDS34)により、欧米での使用が著しく増加しました。

その後、メトホルミンは 2 型糖尿病の初期治療薬として推奨され、日本国内でも高用量(最大2250㎎)の使用が承認されて、2型糖尿病治療薬の第一選択薬となっています。

まさしくメトホルミンルネッサンスが起こったのです。

 

UKPDS34とUKPDS80

糖尿病トライアルデータベースより

UKPDS34

Effect of intensive blood-glucose control with metformin on complications in overweight patients with type 2 diabetes

UKPDS80

10-year follow-up of intensive glucose control in type 2 diabetes

 

発症早期の肥満2型糖尿病患者を対象とした、イギリスの10年間の臨床研究UKPDS34で、メトホルミンがSU薬およびインスリン製剤と比較して、心筋梗塞などの心血管イベントや、脳卒中、全死亡の相対リスクを有意に低下することが明らかになりました。

さらにUKPDS80試験において、これらの効果はUKPD34終了後の観察期間10年が経過しても、持続することが示されました(合計20年間)。

つまり、メトホルミンによる2型糖尿病の早期介入における10年間の血糖コントロールが、その後の観察期間10年まで影響を与える レガシー効果(遺産効果)が示されました。

 

糖尿病患者の死亡原因の上位は、悪性腫瘍そして動脈硬化に起因する心血管イベントであり、その発症を抑制することが、真のエンドポイントだと考えられます。

 

真のエンドポイントについては、関連記事をご参照ください ↓

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メトホルミンはこの目的に沿うことが証明された、数少ない経口糖尿病治療薬なのです。

 

糖尿病治療の真のエンドポイント

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糖尿病治療薬によりHbA1cの代替マーカーによる血糖コントロールを行っても、心血管イベントの抑制や死亡率の低下につながるとは限らず、むしろ増加する場合があります。

米国で行われた大規模臨床研究ACCORD、ADVANCE、VADTは、そのことを鮮明に印象づけた結果となりました。

糖尿病トライアルデータベースより

ACCORD試験

Effects of Intensive Glucose Lowering in Type 2 Diabetes

ADVANCE試験

Intensive Blood Glucose Control and Vascular Outcomes in Patients with Type 2 Diabetes

VADT試験

Glucose Control and Vascular Complications in Veterans with Type 2 Diabetes

 

薬により血糖値やHbA1c値のコントロールはできても、糖尿病の合併症の予防に結びつかないケースが多く、代替エンドポイントとしての役割を果たせていません。

 

糖尿病の治療の有効性を評価する場合には、必ず真のエンドポイントでの評価が重要となります。

 

真のエンドポイント、代替エンドポイントについては、関連記事をご参照ください ↓

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メトホルミンの多面的な作用と最新研究

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メトホルミンの考えられている作用機序

メトホルミンはミトコンドリアの呼吸酵素複合体Ⅰ(電子伝達複合体Ⅰ)を阻害し、ATPの産生を減らします。それのよってAMP/ATP比が上昇して、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)が活性化されます。

AMPKは心臓や肝臓、筋肉など種々の臓器におけるエネルギー代謝を調節する酵素です。AMPKを介した細胞内シグナル伝達系を刺激することによって糖代謝を改善します。

筋肉・脂肪組織においてインスリン受容体の数を増加して、インスリン作用を増強してグルコースの取り込みを促進します。さらに肝臓に作用して糖新生を抑え、腸管でのグルコース吸収を抑制します。

 

メトホルミンの心血管イベント抑制のベネフィットは、血糖コントロールによるベネフィットではなく、別のファクターによるものであるという認識がされています。

インスリン抵抗性を改善し、さらに血管内皮機能や酸化ストレスの改善を介して、糖尿病における催血栓作用を改善するためとも考えられています。

 

インスリン抵抗性については、関連記事をご参照ください ↓

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メトホルミンとフェンホルミンの違い

ミトコンドリアの呼吸酵素複合体Ⅰを阻害し、ミトコンドリアの酸素呼吸を抑制する作用機序では、単なるミトコンドリア毒となります。

両化合物は化学構造の違いによる、ミトコンドリアの膜透過性や結合性の差があり、メトホルミンでは酸化的糖利用を抑制しないと考えられています(その詳細メカニズムはわかっていません)。

そのため血中乳酸値の上昇が、フェンホルミンに比べて弱く、乳酸アシドーシスのリスクが低いと考えられています。

 

メトホルミンの最新研究

60年以上臨床現場で使用されているメトホルミンですが、近年、抗がん作用や抗老化作用に注目が集まり、様々な作用メカニズムの研究が行われています。

実はまだどのようなメカニズムで血糖降下作用がでているのか、心血管イベントの抑制作用がでているのか、はっきりとは解ってはいないのです。

 

神戸大学の研究

Enhanced Release of Glucose Into the Intraluminal Space of the Intestine Associated With Metformin Treatment as Revealed by [18F]Fluorodeoxyglucose PET-MRI

https://doi.org/10.2337/dc20-0093

2020年6月3日、神戸大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科学の研究チームが、メトホルミンが「便の中にブドウ糖を排泄させる」という作用を持つことを研究発表しました。

 

メトホルミンの作用により、小腸の肛門に近い部分(回腸)から先の腸の中に、ブドウ糖がたくさん集まることが明らかとなりました。

血液中のブドウ糖を便の中へ排出させるメカニズムが解明されたのです。

 

消化器症状の副作用が多いメトホルミンは、腸内細菌叢の変化が起こることはすでに報告されています。

ブドウ糖など栄養素の変化は細菌の増殖に影響を及ぼすため、便にブドウ糖を出すことが腸内細菌叢の変化と関係している可能性が高いと思われます。

 

メトホルミンは生物学的利用率が50%程度であり、生体内では代謝されずに腸粘膜に血漿の約30~300倍の濃度で蓄積されるという報告もあります。

Metformin and the intestine

 

メトホルミンの血糖降下作用は、肝臓での全身的なメカニズムと考えられていましたが、腸がメトホルミンの血糖降下作用の多くを担っている可能性がでてきています。

The Primary Glucose-Lowering Effect of Metformin Resides in the Gut, Not the Circulation: Results From Short-term Pharmacokinetic and 12-Week Dose-Ranging Studies

 

ツイミーグ(イメグリミン)

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イメグリミンの作用機序

イメグリミンはメトホルミンを化学修飾して、環状構造にしたテトラヒドロトリアジン骨格を有しています。

そのためイメグリミンは化学構造的には、メトホルミンとはかなり違う物性や特性があるのではないかと思われます。

2型糖尿病の新薬ツイミーグ(イメグリミン) メトホルミンを超えられるのか?

メーカーはNAMPT(NAD合成系酵素)遺伝子、ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰへの作用を介して、膵β細胞におけるグルコース濃度依存的なインスリン分泌を促す膵作用と、肝臓・骨格筋での糖代謝を改善する膵外作用(糖新生抑制・糖取り込み能改善)という2つのメカニズムで血糖降下を示すと説明しています。

 

しかし、メトホルミンの研究でもわかるように、その詳細なメカニズムを解明することは非常に難しく、まだはっきりとわかっていないのが現状だと思われます。そのことが、PMDAの審査報告書にも書かれています。

 

ツイミーグ PMDA審査報告書

以下、審査報告書より抜粋

本薬は化学構造上は既存のビグアナイド系薬剤と一部の構造が共通することから、既存の BGであるメトホルミンとの作用機序等の異同について、以下のとおり検討した。申請者は、本剤はインスリン分泌促進作用とインスリン抵抗性改善作用の両者を有する旨を主張している。インスリン分泌促進作用については、非臨床薬理試験の結果を踏まえると、機序は必ずしも明らかにされたとは言い難いが、本薬がインスリン分泌に影響を及ぼす可能性はあるものと考えられる。また、2 型糖尿病患者を対象とした海外第 II 相試験におけるグルコースクランプによる 006 試験及び OGTT による 009 試験の結果からは、本剤投与によりインスリン分泌量が増加する傾向が認められることを考慮すると、本剤がインスリン分泌促進作用を有する可能性も考えられる。インスリン抵抗性改善作用については、非臨床薬理試験において肝臓のミトコンドリアの機能の回復や糖新生作用の抑制、骨格筋における糖の取込み能の改善が認められており、海外第 II 相試験(009 試験)の結果も考慮すると、本薬によるインスリン抵抗性改善作用は期待できるものと考える。一方で、本薬とメトホルミンの差異の検討にあたり、メトホルミンの作用機序は主にミトコンドリアComplex I の阻害による肝臓における糖新生の抑制等と考えられており、当該作用については本薬と共通している可能性があるが、メトホルミンは複数の作用を有するとされていることや、実施された非臨床試験及び臨床試験においてメトホルミンが対照薬として必ずしも設定されていなかったこと等を考慮すると、本薬とメトホルミンの作用機序やその効果の大きさの異同を現時点で明確に判断することは困難と考える。

 

ツイミーグ(イメグリミン)の有効性

〇国内第Ⅲ相単独療法試験(プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験)

(対象)食事・運動療法又は食事・運動療法に加え経口血糖降下薬単剤による治療で十分な血糖コントロールが得られていない日本人 2 型糖尿病患者 

(主な選択基準)スクリーニング時及び無作為化前来院時の HbA1c が 7.0%以上10.0%未満

(主要評価項目)ベースラインから投与 24 週時までの HbA1c 変化量

 

しかしながら、これは代替エンドポイントであるHbA1cの評価であり、真のエンドポイントである心血管イベントの抑制効果で臨床試験が行われていません。

つまり、この臨床試験だけでは、イメグリミンの本当の評価はできないのです。

 

〇国内第 III 相単独及び併用療法長期投与試験(非盲検試験)

(対象)食事・運動療法又は食事・運動療法に加え血糖降下薬による治療で十分な血糖コントロールが得られていない日本人 2 型糖尿病患者

(主な選択基準)単独療法群についてはスクリーニング時の 12 週前から食事・運動療法のみで治療中でスクリーニング時の HbA1c が 7.0%以上 10.0%未満

併単独療法群については併用療法群についてはスクリーニング時の 12 週前から食事・運動療法に加え血糖降下薬(SU、グリニド、BG、α-GI、TZD、DPP-4 阻害薬、SGLT2 阻害薬又は GLP-1 受容体作動薬)単剤が一定の用量で投与され、スクリーニング時の HbA1c が 7.5%以上 10.5%未満

GLP-1併用群でHbA1cの低下の効果が低いという、興味深い結果となりました。BG併用群(メトホルミン)との併用でも、HbA1cの低下が認められています。

 

ツイミーグの薬価

ツイミーグ錠500㎎ 34.4円(1日薬価137.6円)

(参考)メトグルコ錠500㎎ 13.2円

(参考)メトホルミン塩酸塩錠500㎎(メトグルコの後発品) 10.1円

メトホルミンと比較すると、3倍前後の薬価となります。

 

まとめ

2型糖尿病の新薬ツイミーグ(イメグリミン) メトホルミンを超えられるのか?

 

メトホルミンは、安価かつ真のエンドポイントである心血管イベントの抑制効果やレガシー効果により、2型糖尿病の早期治療の第一選択薬としての地位を築いています。

近年、メトホルミンには多面的な作用があることがわかっており、様々な作用メカニズムの研究が行われています。

メトホルミンの心血管イベント抑制のベネフィットは、血糖コントロールによるベネフィットではなく、別のファクターによるものであるという認識がされています。

 

メトホルミンから化学修飾されたツイミーグ(イメグリミン)が発売され、メトホルミンとは異なるミトコンドリア機能を介した作用が注目されています。

ツイミーグ(イメグリミン)は、血中乳酸値の上昇による乳酸アシドーシスのリスクが非常に少なく、ビグアナイドの欠点を克服した薬剤となっています。

しかしながら、承認時の臨床試験では、代替エンドポントであるHbA1cによる血糖降下作用しか評価されておらず、真のエンドポイントでの評価がされていません。

 

薬により血糖値やHbA1c値のコントロールはできても、糖尿病の合併症予防に結びつかないケースが多いことは、これまでの大規模臨床研究でも証明されています。

真のエンドポイントで有効性を評価できていない薬剤は、メトホルミンから第一選択薬の座をとって代わることはあり得ないのです。

 

2型糖尿病の新薬ツイミーグ(イメグリミン) メトホルミンを超えられるのか?