「シナプス可塑性」学習・記憶のメカニズム
シナプス可塑性とは
私たちの体は、ニューロン(神経細胞)がシナプスを介してつながっていて、電子回路のようなネットワークをつくって情報を伝達しています。
ニューロンが受け取った情報がそのまま流れるのではなく、シナプスでの伝達効率によって情報の伝わりやすさが変化します。
私たちは体験や学習そして記憶によって、シナプスの結びつきを強くしたり弱くしたり、シナプスの数を増やしたり減らしたり動的に変化しながら暮らしています。
このシナプスの変化をシナプスの可塑性といいます。
物を覚えて記憶するだけでなく、体が覚えるような運動学習においても、シナプス可塑性が影響しています。
恒常性維持(ホメオスタシス)という生命の本質から生まれた調整システムで、学習・記憶により効率的に生命維持をしやすくしています。
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スパイク発火
ニューロン(神経細胞)は連続的な刺激の印加によってスパイクを発生させるます。この現象を発火といいます。
複数のニューロンが同時あるいは一定の間隔を保って発火するのを同期発火といいます。
同期発火により結びつけが行われて、感覚情報の統合が行われています。
ニューロンはシナプスによって他の細胞と配線されることで、様々な神経回路のネットワークを形成します。
このネットワーク上で、スパイク発火と呼ばれる短時間のインパルス的な電気信号のやり取りを行っています。
ニューロン間でのシナプス結合の有無や強度は、そのシナプスを介して伝播するスパイク発火によって変化していきます。
スパイク発火によってシナプス可塑性が起こります。
通常、ニューロンの電気的状態は、神経細胞の細胞膜内外での電位差(膜電位)が、およそ-70mVで維持されています。
スパイク発火と呼ばれる膜電位の急激な一過的上昇により活動電位となって、ニューロンが情報伝達を行うようになります。
膜電位とATPのエネルギーについては、関連記事をご参照ください ↓
またニューロンには、自身がスパイク発火を起こすことで、他のニューロンの膜電位を増加させる興奮性ニューロンと、抑制させる抑制性ニューロンの2種類が存在します。
シナプス可塑性の長期増強(LTP)と長期抑圧(LDT)
私たちが物事を学習し、そして記憶するときには、脳内ではニューロン同士のシナプス結合が動的に変化しています。
ニューロン間の情報伝達を行うシナプスでは、シナプス前ニューロン(情報を送る側の細胞)から神経伝達物質が放出され、シナプス後ニューロン(情報を受け取る側の細胞)表面に発現する受容体に結合し、興奮情報が伝達されています。
シナプスではシナプス後ニューロンに発現する受容体の数が増えることにより情報伝達が亢進する、いわゆる長期増強(long-term potentiation:LTP)と呼ばれる現象が起こります。
また、受容体の数が減少することにより伝達効率が低下する、いわゆる長期抑圧(long-term depression: LTD)と呼ばれる現象が起こります。
Hebbの法則
心理学者ドナルド・ヘブによって提唱された、脳のシナプス可塑性についての法則です。
シナプス前ニューロンの繰り返しのスパイク発火によって、シナプス後ニューロンにスパイク発火が起こると、そのシナプスの伝達効率が増強されます。
また逆に、スパイク発火が長期間起こらないと、そのシナプスの伝達効率は減退します。
Hebbの法則ではニューロンAから入力した後、ニューロンBがスパイク発火するとニューロンAとニューロンBのシナプス結合が強まります。
このニューロン同士のシナプス結合が強まるという現象が、記憶の基盤となります。
スパイクタイミング依存性シナプス可塑性(Spike-Timing-Dependent synaptic Plasticity:STDP)
ニューロンAからの入力とニューロンBのスパイク発火のタイミングによって、ニューロンAとニューロンBのシナプス結合で長期増強(LTP)と長期抑圧(LTD)が生じます。
すなわち、シナプス前ニューロンのスパイク発火の後に、シナプス後ニューロンのスパイク発火が発生したときは、シナプスは増強されます。
シナプス後ニューロンのスパイク発火の後に、シナプス前ニューロンのスパイク発火が発生したときは、シナプスは減弱されます。
このスパイクタイミング依存性シナプス可塑性は、学習メカニズムの1つであると考えられています。
シナプス後電位の加重
1つのニューロンから複数のニューロン、あるいは複数のニューロンから1つのニューロンへといった形でシナプスは結合をしています。
興奮性シナプスでは、シナプス前ニューロンの興奮に対してシナプス後ニューロンが必ず興奮(発火)するわけではありません。
次のニューロンで活動電位が生じるためには、多数のシナプス入力を受けて、興奮性シナプス後電位(EPSP)が加重されることが重要となります。
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まとめ
私たちの体は、ニューロン(神経細胞)がシナプスを介してつながっていて、電子回路のようなネットワークをつくって情報を伝達しています。
ニューロンが受け取った情報がそのまま流れるのではなく、シナプスでの伝達効率によって情報の伝わりやすさが変化します。
私たちは体験や学習そして記憶によって、シナプスの結びつきを強くしたり弱くしたり、シナプスの数を増やしたり減らしたり動的に変化しながら暮らしています。
このシナプスの変化をシナプスの可塑性といいます。
ニューロン(神経細胞)は連続的な刺激の印加によってスパイクを発生させるます。この現象を発火といいます。
複数のニューロンが同期発火することで結びつけが行われて、感覚情報の統合が行われています。
シナプスではシナプス後ニューロンに発現する受容体の数が増えることにより情報伝達が亢進する、いわゆる長期増強(long-term potentiation:LTP)と呼ばれる現象が起こります。
また、受容体の数が減少することにより伝達効率が低下する、いわゆる長期抑圧(long-term depression: LTD)と呼ばれる現象が起こります。
Hebb則によると、シナプス前ニューロンの繰り返しのスパイク発火によって、シナプス後ニューロンにスパイク発火が起こると、そのシナプスの伝達効率が増強されます。
また逆に、スパイク発火が長期間起こらないと、そのシナプスの伝達効率は減退します。
スパイクタイミング依存性シナプス可塑性(STDP)によると、シナプス前ニューロンのスパイク発火の後に、シナプス後ニューロンのスパイク発火が発生したときは、シナプスは増強されます。
シナプス後ニューロンのスパイク発火の後に、シナプス前ニューロンのスパイク発火が発生したときは、シナプスは減弱されます。