身体と空間の自己イメージ「ぺリパーソナルスペース」
皮膚は自己と外部環境との境界としての役割をして、その内側を自己と認識している方が多いと思います。
しかし、私たちには他人に近付かれると不快に感じる空間(パーソナルスペース)があって、その空間の広さには個人差があり、また相手によっても差が生じます。
実はこのパーソナルスペースでは、脳が外部からの知覚と身体内部の知覚とを統合していて、私たちの自己意識と深い関わりがあります。
私たちの脳が認識している自己は、皮膚の内側ではなく、皮膚の外側の空間にも広がっているということです。
恒常性維持の脳機能
私たち生命は基本的に危うい存在であり、酸素や二酸化炭素の濃度や、体液の酸度(pH)、体内温度についても、かなり狭い範囲内でしか生存できません。
体内を循環する基本的な栄養素(糖質・脂質・タンパク質など)も、快適な範囲を超えると身体は不快に感じるようになっています。
こうしたバランスの取れた状態(恒常性)を維持することが、私たちの生命を維持するために非常に重要となります。
酸素や二酸化炭素の濃度については、関連記事をご参照ください ↓
体液の酸度(pH)については、関連記事をご参照ください ↓
体内温度については、関連記事をご参照ください ↓
糖質のコントロールついては、関連記事をご参照ください ↓
脂質のコントロールについては、関連記事をご参照ください ↓
ホメオスタシス(恒常性維持)については、関連記事をご参照ください ↓
私たちの神経系は、体内あるいは外部から常に情報を集めて、恒常性の範囲から外れないようにしています。
脳は外部あるいは身体内部からの知覚情報をまとめてマッピングして、イメージとして把握をしています。
恒常性からのずれを知らせる役目として、闘争・逃走反応などが「情動」として起こり、それが「心」となって現れます。
つまり「感情」が生まれることで、私たちは「情動」に気付くができるのです。
複雑になった知覚を統御するために、ニューロンのネットワークにおいて変化しないように、感覚の固定化を行うようになりました。それが記憶であり、自己意識の本質となります。
記憶のなかの自己の状態や刺激を思い出すことで、かつての状態の自己と、それを思い出している自己との連続性が生まれます。
過去から今という時間軸が生まれ、そして自己という自伝的なストーリーが生みだされていきます。
さらに学習・記憶から、効率的に未来の生存(恒常性維持)を選択するようになっていきます。
つまり自己の関わり深い情報を抽出して、それ以外の情報を無視するようになります。
学習・記憶のメカニズムであるシナプス可塑性については、関連記事をご参照ください ↓
記憶や自己については、関連記事をご参照ください ↓
トラウマ解放については、関連記事をご参照ください ↓
多感覚統合と自己意識
体性感覚は、皮膚感覚(触圧覚や温度覚・痛覚)と深部感覚(筋肉や関節などの受容器からの知覚)からなり、全身に分布しているという大きな特徴があります。
この体性感覚により、私たちは外部からの皮膚に加わる機械的な力や、姿勢や関節の動きなど(固有受容)を検知して、身体のおかれた状況を把握しています。
触覚と皮膚の感覚受容器については、関連記事をご参照ください ↓
固有受容感覚については、関連記事をご参照ください ↓
視覚を通して、直接眼で見ることができるのは体の前面に限られ、自身の顔面を見ることはできません。
しかし、視覚は身体周辺の空間情報を同時に収集できるため、身体の置かれた状況を客観的に捉えることができる点では、体性感覚にはない特徴があります。
私たちは、主に視覚と体性感覚によって、身体情報の知覚を行っていると考えられます。
外部からの自らの身体への刺激を視覚的に確認し、同時に刺激部位に触覚を感じることで、自己身体への帰属意識も形成されるようになります。
自己所有感の形成は、視覚と体性感覚の働きが特に重要であると考えられています。
私たちは自分の体が自分のものであることを当たり前だと思っていますが、多感覚の身体入力を操作することで、主観的な身体所有感は変更できます。
痛みと自己所有感については、関連記事をご参照ください ↓
ペリパーソナルスペース(peripersonal space:PPS)
私たちの脳は、空間を通して身体の誘導を促進するため、内的な身体イメージと周囲の空間とを統合する必要があります。
ペリパーソナルスペース(PPS)は、身体を取り囲む空間(知覚領域)と定義されています。
環境に関連する視覚または聴覚入力が、特定の身体部分に関する触覚および固有受容感覚と統合される多感覚空間となります。
ペリパーソナルスペースは、様々な経験の後に塑性的に再マッピングされています。
皮膚の外側にある身体を取り囲む空間は、多感覚を統合するための知覚空間として存在しおり、私たちの脳はそれを自己と認識しています。
つまり、私たちの身体は皮膚で覆われた内側だけに存在するのではなく、皮膚の外側の空間にも広がっているということです。
ペリパーソナルスペースの動的変化については、関連記事をご参照ください ↓
自分と他人とのペリパーソナルスペースの共有
A behavioral approach to shared mapping of peripersonal space between oneself and others
Sci Rep. 2018 Apr 3;8(1):5432. doi: 10.1038/s41598-018-23815-3.
人間は社会生活を行う動物であり、生活の中で互いに影響し合っています。
特に他者と協働する場合、自分自身の行動を最適化するために、他者の行動、目標、状況を感覚的な経験を含めて理解する必要があります。
他人の行動と身体を脳内の自分自身のイメージに再マッピングするために、ミラーニューロンと呼ばれるシステムを使用しています。
ミラーニューロン
ミラーニューロンは、主に運動前脳と頭頂部の脳領域に見られ、他人の行動の視覚的イメージを自分の行動のイメージと直接一致させるため、他人の行動を認識して模倣するなどの社会的認知機能に関与していると考えられています。
つまり、脳が他人の行動や認識を、自分自身の身体イメージに再マッピングすることで解釈しています。
私たちが直接相互作用する出来事や物体のほとんどは、私たちの体のすぐ近くにあります。
ペリパーソナルスペースは、外部の物体に関連して目標指向の防御行動を誘発するために極めて重要であると考えられます。
ペリパーソナルスペースと呼ばれる身体部分のすぐ周りの空間は、自分自身と他人との間で共有することができます。
自分自身と同じように他の人のペリパーソナルスペースにも、私たちの脳は反応してしまいます。
他の人や自分自身を脅威から守る際に、自分の行動を最適化するために役立っています。
家族や近い人たちとの関係性によって、病気の症状が生まれたりするのは、このペリパーソナルスペースの共有による影響も考えられます。
ストレスの伝染「セカンドハンド・ストレス」については、関連記事をご参照ください ↓
人とのつながり・社会とのつながりについては、関連記事をご参照ください ↓
まとめ
私たちの神経系は、体内あるいは外部から常に情報を集めて、恒常性の範囲から外れないようにしています。
複雑になった知覚を統御するために、ニューロンのネットワークにおいて変化しないように、感覚の固定化を行うようになりました。それが記憶であり、自己意識の本質となります。
脳は、外部の知覚情報と身体内部の知覚情報を統合してマッピングし、イメージとして把握しています。そこに自己意識が存在します。
皮膚の外側にある身体を取り囲む空間は、多感覚を統合するための知覚空間、ペリパーソナルスペースと呼ばれています。
私たちの脳はペリパーソナルスペースも自己と認識しています。
つまり、私たちの身体は皮膚で覆われた内側だけに存在するのではなく、皮膚の外側の空間にも広がっているということです。
他人の行動と身体を脳の自己イメージに再マッピングするために、ミラーニューロンと呼ばれるシステムを使用しています。
脳は他人の行動や認識を、自己の身体イメージに再マッピングすることで解釈しています。
ペリパーソナルスペースは、自分自身と他の人との間で共有することができます。
自分自身と同じように他人のペリパーソナルスペースにも、私たちの脳は反応してしまいます。