「筋膜リリース」コラーゲン線維の可塑性
細胞外マトリックスと筋膜の構造
細胞外マトリックス
細胞外マトリックスは、細胞(線維芽細胞)と基質(プロテオグリカン、グリコサミノグリカン)と繊維(コラーゲン、エラスチンなど)と水分によって成り立っています。
その中で大部分を占めるのが、コラーゲン線維です。
代表的な基質の1つは、グリコサミノグリカン(ムコ多糖)であるヒアルロン酸です。
基質は、大量の水分と結びつくことができる性質があります。
熱や動きによるエネルギーによって、ゼリーのような状態から溶解した状態(ゾル化)へと水和変化を起こす性質があります。
基質に水分が少なければ、ゼリー状で粘着性が高い状態となり、細胞への栄養分の取り込みや、代謝物の排出が低下します。
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筋膜の構造
筋膜は、ファシア(Fascia)と総称される繊維性結合組織(細胞外マトリックス)です。
筋膜は皮下の組織(表皮・真皮・脂肪組織)の下層に存在して、浅筋膜・深筋膜・筋外膜・筋周膜・筋内膜と5つに分けることができます。
皮下組織にある浅筋膜、筋肉の上を覆っている深筋膜(腱膜筋膜)、筋肉の表面にある薄い筋外膜、筋外膜が筋肉内に入り込んで筋の束を包む筋周膜、その束の中で筋線維一本一本を包んでいる筋内膜です。
いずれの筋膜も結合組織に分類され、組織同士の隙間を埋めて結び付ける働きをしています。
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コラーゲン線維の構造
コラーゲン線維は、細胞外マトリックスに多量に存在し、生体内の全タンパク質の3分の1を占めると言われています。
コラーゲンの構造は、アミノ酸配列は3残基ごとにグリシンが存在し、一般式として(G-X-Y)nで表されます。
X位置にはプロリン、Y位置には特有のアミノ酸であるヒドロキシプロリンが多く、両イミノ酸で全残基の20~25%を占めます。
このイミノ酸の構造が、α鎖のらせん構造を安定化して、約3残基で1回転の左巻き螺旋を形成しています。
ヒドロキシプロリンのOH基で形成される水素結合によって、3本鎖の螺旋構造を安定化しています。
図は コラーゲンLabo.com より引用
繊維芽細胞によって、トロポコラーゲンとして生成され、トロポコラーゲンが規則正しく重合して、不溶性の線維を形成します。
線維型コラーゲンは、分子が一定の距離だけ規則正しくずれて会合しているため、顕微鏡にて観察すると67nm の間隔の周期的な縞模様が観測されます。
もう一つコラーゲンに特有のアミノ酸であるヒドロキシリジンが存在して、リジルオキシターゼで酸化後、シッフ塩基を形成してポリペプチド間の架橋結合を形成して、コラーゲン特有の強固な線維構造がつくられています。
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コラーゲン線維の架橋化
年齢とともに、筋膜のコラーゲン線維が変性して、ランダムに架橋が増えて線維化が強くなります。
歳をとると、体が硬くなるのは、この「老化架橋」が一つの要因です。
筋肉が硬くなるのではなく、筋膜が硬くなっているのです。
糖化による架橋
図は 昭和女子大学大学院生活機構研究科紀要 Vol. 30 37~45(2021)より引用
糖化反応では、蛋白質のリジン残基のアミノ基あるいはアルギニン残基のグアニジル基と、糖のカルボニル基が非酵素的に反応し、シッフ塩基、アマドリ生成物を経た後、タンパク質とタンパク質を結ぶ架橋構造を形成します。
コラーゲンのように生体内での代謝回転が遅いタンパク質は、糖化反応の影響を大きく受けると考えられています。
コラーゲン線維の糖化によりコラーゲン線維の固さなどの物性が変化します。
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活性酸素種(ROS)やアルデヒドによる架橋
活性酸素種(ROS)や、多価不飽和脂肪酸(PUFA)から生成するグルタルアルデヒド(マロンジアルデヒド)によっても、コラーゲン分子の架橋が生成します。
グルタルアルデヒドは、隣接するリジン残基のアミノ基の間で架橋を引き起こします。
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不動化・筋緊張による筋膜への影響
不動により筋緊張状態が続くと、筋膜はコラーゲン線維を増やして肥厚することが認められています。
サイトカインTGF-βの働きにより、線維芽細胞が活性化されてコラーゲン線維を増やします。
コラーゲン線維が乱雑に配列されると、伸ばされた方向に線維の配列が整わずに、伸張性が低下します。
さらに長期の不動により血流が低下し、コラーゲン分子間の架橋生成が起こりやすくなります。
いわゆる老化架橋が生成して、さらに筋膜の伸張性が低下します。
細胞外マトリックスの石灰化
コラーゲン線維は、細胞外マトリックスとして、皮膚、血管、軟骨、腱、靭帯、骨などの結合組織を構成しています。
硬組織と軟組織の大きな違いは、軟組織では大量の水分があるのに対して、硬組織では水分が無機成分(カルシウム塩)に置き換わっています。
私たちの体は、組織中の水分、基質、繊維の種類等の割合を変化させることにより、様々な種類の構築素材を生成しています。
骨は大変密度の高い、革のような性質の繊維をもち、水分は押し出され、基質がリン酸カルシウムに置き換えられています。
軟骨も、骨によく似た構成で、基質がコンドロイチン硫酸(プロテオグリカン)に置き換えられています。
腱・靭帯・軟骨の石灰化
石灰化とは軟組織にカルシウム塩が沈着した状態で、結果として硬化した組織が形成されます。
筋膜の癒着による不動化が続くと、細胞の代謝障害などにより、細胞外基質の変化と共に水分が消失します。
コラーゲン線維の隙間にあった水分が、リン酸カルシウムに置き換わって、硬化した組織に変化します。
肩関節の腱板の石灰化、アキレス腱の石灰化、関節軟骨(膝関節・股関節・肋軟骨)の石灰化などがあります。
また慢性腎不全・糖尿病など代謝障害によっても、動脈壁など血管内に石灰化が起こり、臓器障害を引き起こします。
筋膜の可塑性と筋膜リリース
筋膜がよじれて、コラーゲン線維に偏りがててダマになってしまうと、基質の密度が変化して流動性が低下します。
筋膜がゲル状に固まってしまい、滑走性が低下して、筋肉が正しく動くことができなくなります。
また筋膜は、血液やリンパ、神経の通路でもあるため、血液やリンパ液の流れも滞り、神経の伝達が妨げられる原因になります。
筋膜リリースとは
筋膜には可塑性(かそせい)という特徴があります。
筋膜に圧力を加えて、基質に水和変化を起こさせゾル化(液状化)し、コラーゲン線維の滑りをよくします。
そうして筋膜のコラーゲン線維を伸張させることで、塑性変形が作り出されます。
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筋膜リリースすることで、姿勢を正して柔軟に連動する体をとり戻すことができます。
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まとめ
細胞外マトリックスは、細胞(線維芽細胞)と基質(ヒアルロン酸など)と繊維(コラーゲン、エラスチンなど)と水分によって成り立っています。
細胞外マトリックスである筋膜は、コラーゲン線維が主成分である繊維性結合組織です。
コラーゲン分子は、3本鎖の螺旋構造をとり、それが規則正しく重合して、不溶性の線維を形成しています。
アミノ酸ヒドロキシリジンが存在して、リジルオキシターゼで酸化された後、コラーゲン分子間に架橋結合を形成して、強固な線維構造がつくられています。
糖化や活性酸素種(ROS)・アルデヒドによって、老化架橋による変性が起こり、ランダムにコラーゲン分子間の架橋結合が形成され、繊維化が強くなります。
長期の不動により血流が低下すると、老化架橋が生成して、筋膜が硬くなります。
基質は、大量の水分と結びつくことができる性質があります。
熱や動きによるエネルギーによって、ゼリーのような状態から溶解した状態(ゾル化)へと水和変化を起こす性質があります。
筋膜には可塑性(かそせい)という特徴があります。
筋膜リリースとは、筋膜に圧力を加えて、基質に水和変化を起こさせゾル化(液状化)し、コラーゲン線維の滑りをよくします。
そうして筋膜のコラーゲン線維を伸張させることで、塑性変形が作り出されます。
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