「マクロファージ」体内掃除と免疫力
一般的に免疫力とは、細菌やウイルスなど体外からの侵入者に対する防衛力として、捉えられています。そのため免疫力が高い人は、風邪をひきにくいと言われています。
新型コロナウイルスなどの感染症では、高齢者あるいは糖尿病・高血圧・心疾患・慢性呼吸器疾患・がん等の基礎疾患がある人や肥満が、重症化リスクを高めると言われています。
なぜ老化や肥満、生活習慣病のような基礎疾患があると、免疫力が低下してしまうのでしょうか?
マクロファージ(Macrophage)
マクロファージとは
マクロファージは白血球に分類される免疫細胞のひとつで、血液中の白血球の5%を占める単球から分化しています。単球は血液中の細胞で、血液から血管壁を通り抜けて、組織内に入るとマクロファージになります。
マクロファージが貪食した異物は、小胞(ファゴソーム)の形で取り込まれ、リソソームと融合してファゴリソソームを形成して、加水分解酵素の作用により分解されます。
マクロファージの活性が高い場合、異物侵入時にマクロファージ自身がを貪食・処理してしまいます。
マクロファージだけで処理できない時は、貪食した異物の断片を細胞表面に提示、ヘルパーT細胞を介して免疫の司令塔の役割も果たしています。異物の粒子の大きさによって、顆粒球あるいはリンパ球を誘導して、自らも残骸を貪食して侵入した異物を除去しています。
マクロファージが貪食するのは、細菌やウイルスなどの侵入者だけでありません。
寿命の終えた赤血球・白血球・血小板や死んだ細胞、ガン細胞、AGEs、酸化LDL-コレステロール、アミロイドβなど、細胞の新陳代謝や過剰な栄養を処理する役割も担っています。
マクロファージは「食べる」ことによって、体内の老化や変性を防いで、ホメオスタシス(恒常性維持)に大きな役割を果たしています。
マクロファージの中には組織に移動して定着しているものがあり、組織マクロファージと呼ばれています。
脳の組織マクロファージがミクログリアという名前で呼ばれており、神経細胞外に排出されたアミロイドβ(アミロイド線維)を貪食して分解しています。アミロイド線維の分解が追いつかなくて、蓄積してしまったのがアミロイド斑(老人斑)です。
アルツハイマー型認知症・アミロイドβについては、関連記事をご参照ください ↓
骨にいる組織マクロファージが破骨細胞です。骨の余分な部分を溶かして吸収する働きをしています。
このようにマクロファージは、定着している組織や器官によって異なった性質と働きも持っています。
オートファジーとアポトーシス
ミトコンドリアは、細胞の中にある小器官で、私たちが生命維持するために必要なエネルギー(ATP)を産生しています。
またミトコンドリアは、オートファジーによって細胞内を新陳代謝して、細胞内の小器官やタンパク質などを作り替え、機能を維持する役割も担っています。
機能が低下したミトコンドリアは、オートファジーによって分解され(マイトファジー)、これを補って新しいミトコンドリアが作られています。
ミトコンドリアのエネルギー代謝・オートファジー(マイトファジー)については、関連記事をご参照ください ↓
ミトコンドリアの新陳代謝は、マイトファジーにより古い損傷したミトコンドリアは分解されて、細胞外に排出されて、マクロファージによて貪食されて分解されることがわかっています。
マクロファージの活性が低下すると、細胞外に排出されたミトコンドリアの残骸が処理されずに溜ってしまい、ミトコンドリアのマイトファージーを低下させ、ミトコンドリアの機能低下を引き起こします。
つまりマクロファージがミトコンドリアの代謝を調節する役割も担っているのです。
ミトコンドリアのエネルギー代謝を回し続けて、細胞の新陳代謝を行い続けるためには、お掃除屋であるマクロファージの働きが非常に重要となります。
私たちの体では、1日に約3000億個の細胞がアポトーシスによって、死んでいると言われています。
アポトーシスにより死んだ細胞は、「ファインドミ―(find me)シグナル」「イートミー(eat me)シグナル」を出すことで、マクロファージに発見されて貪食されることがわかっています。
ところが、このマクロファージの活性が低下すると、死んだ細胞が蓄積し、それが抗原となることで炎症が誘導され、免疫細胞が自己の細胞を攻撃する「自己免疫疾患」の原因となることがわかっています。
マクロファージの活性を維持することが、体の新陳代謝を行い続けて、老化や病気になるのを防ぐことになります。
ストレスと免疫力
ストレスはマクロファージの活性を下げて、免疫力を下げると言われています。
ストレス反応により、副腎からストレスホルモンが分泌されて、交感神経反応(闘争・逃走 反応)に備えようとします。
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そのため血中にブドウ糖を増加させて、解糖系によるエネルギー産生に備えます。脂肪組織から中性脂肪の分解も促進しますが、使われなかったブドウ糖は、内臓脂肪など異所性脂肪を増加させる原因にもなります。
ミトコンドリアのエネルギー代謝が阻害され、オートファジー機能も低下していきます。
マクロファージが処理する不要なものが増えてしまうと、炎症性サイトカインを分泌して、他の免疫細胞による炎症反応を引き起こします。
マクロファージでのエネルギー需要が高まると、エネルギーを産生する代謝経路(解糖系とTCAサイクル)のバランスを変化させて、炎症性サイトカインの制御を行い、炎症反応をコントロールしていることがわかっています。
マクロファージの活性とエネルギー代謝は深い関係があり、エネルギー代謝の乱れが免疫力の低下につながるのです。
ストレスにより、高血糖や内臓脂肪、ミトコンドリアでの代謝制御が起こり、それが慢性炎症を引き起こす原因となっているのです。
新陳代謝を調節する甲状腺ホルモンの活性が、マクロファージの炎症性サイトカイン産生による慢性炎症と関係があります。甲状腺ホルモンについては、関連記事をご参照ください ↓
免疫力とは何か?
ミトコンドリアの内呼吸によるエネルギー代謝の低下により、酸化ストレスが上昇しやすくなります。
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肥満により内臓脂肪が増加し、インスリン抵抗性による高血糖状態になると、マクロファージは過剰な栄養素の掃除に忙しくなります。
マクロファージが処理しきれない場合は、炎症性サイトカインを分泌して、他の免疫細胞が働く刺激となり、それが慢性炎症が引き起こします。
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またマクロファージが、変性した酸化LDLやAGEsを処理し続けた結果、動脈硬化を生じて高血圧や心疾患の原因となっています。
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COPDや気管支喘息などの慢性呼吸器疾患は、慢性炎症が原因で発症しています。
慢性炎症が進行すると線維化を起こし、組織の機能不全が起こると、癌を発症しやすくなります。
体内で慢性炎症が起こっている状態は、細菌やウイルスに対するマクロファージの処理能力は低下しており、それが感染症のリスクを引き起こしているのです。
マクロファージの活性低下は、ミトコンドリアの機能低下、細胞の新陳代謝低下という負のサイクルに入ります。それが免疫力の低下です。
免疫力を高めるとは、体内に不要なもの(老廃物や異物、過剰な栄養素など)がない状態を保つことです。体に侵入してきた細菌やウイルスなどに対して、マクロファージがすばやく貪食できる体内環境を維持することが重要です。
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まとめ
免疫力とはマクロファージの活性(掃除力)のことです。
免疫力を高めるとは、体内に不要なもの(老廃物や異物、過剰な栄養素など)がないクリーンな状態を保つことです。
①ミトコンドリアの内呼吸によるエネルギー代謝が回っていない状態
②新陳代謝が低下して老廃物が溜まった状態
③過剰な栄養素の摂取やそれが変性して毒性を示すようになった状態
上記のような状態では、酸化ストレスを上げて慢性炎症を引き起こします。
体内で慢性炎症が起こっている状態は、細菌やウイルスに対するマクロファージの処理能力は低下しており、それが感染症のリスクを引き起こしています。
そのため、高齢者や糖尿病・高血圧・心疾患・慢性呼吸器疾患・がん等の基礎疾患や、肥満・ストレスが感染症のリスク要因になっています。
マクロファージもまた、私たちのホメオスタシス(恒常性維持)のために、重要な役割を担っているのです。