「デトックス」エントロピーと生命のつながり
エントロピーとは、乱雑さ、無秩序、不確定性を意味します。簡単に言うと、錆びたり、壊れたり、失われたり、散らばったりすることです。
熱力学の第二法則(エントロピー増大の法則)という物理の有名な法則があります。
物理現象は必ずエントロピー(乱雑さ)が増大する方向に進み、やがて環境との区別がつかなくなってしまいます。それが私たちが「死んで土に還る」ということです。
このエントロピーという視点から、私たちの生命を考えた場合、デトックス(排出)が如何に重要かがわかってきます。
エントロピーと生命のつながり
私たちは約37兆個の細胞が集まり個体として存在しています。皮膚で閉ざされた内部が自己であり、独立して生きる存在であると思われがちです。
しかし、自己という意識は、「脳による記憶」によって生み出されたものであり、私たちの生命維持の本質とは関係ありません。
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私たちの生命は、自己完結型のシステムではなく、他の存在との共生を前提として進化してきました。
ミトコンドリアは、共生進化を経て細胞小器官(オルガネラ)となったと考えられています。
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私たちの口や鼻の粘膜、胃や腸、皮膚などには、ヒトの細胞の10倍以上の約1000兆個の常在菌が存在しています。
人体の免疫システムをコントロールして、排除されることなく共生しています。
私たちの体は、老廃物が溜まったり、毎日たくさんの細胞が死んで、エントロピーが増大していきます。
私たちが生きるということは、新陳代謝によりリモデリングを行い、このエントロピー増大に逆らい続けることです。
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私たちの体は、外部から必要な食物を取り入れ、常に新しいものに置き換えられて、エントロピーを一定の状態に保ち続けています。
消化吸収のしくみは、常在菌との共生を前提としてつくられており、人体だけでは必要な栄養素を十分取り入れることはできません。
また私たちの体の状態によって、共生する細菌は絶えず影響を受け、その分布(構成)は常に変化してバランスがとられています。
人体の恒常性を維持するためのシステムとして、人体も微生物も一体となり働いているのです。
このような共生関係は、人間と微生物だけではありません。
動物と植物、植物と微生物など、この地球上の生命現象は、すべて共生システムにより成り立っています。
エントロピーと感染症
細菌理論
細菌理論とは、病気は身体の外からくる微生物が、第一の原因となっているという考えです。
19世紀のルイ・パスツールによって提唱され、現代医学においても支持され、ワクチンなどの感染症対策が行われています。
しかしながら、インフルエンザやコロナウイルスなどの感染は、接触しても感染する人と感染しない人がいます。
感染症とは宿主側の体内のエントロピーの問題であり、ウイルスや細菌が根本原因ではありません。
体内に不要なもの(老廃物や異物、過剰な栄養素など)が溜まって処理できない状態になると、マクロファージは炎症性サイトカインを放出して、炎症反応を起こして処理しようとします。これがずっと続いている状態が慢性炎症です。
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慢性炎症(くすぶった・弱い炎症)が続いても、体内掃除が進まずエントロピーがどんどん増大してくると、ウイルスや細菌が増殖して、免疫細胞により強い炎症反応が引き起こされます。
これによって、体内のエントロピーを一気に放出することができるのです。
捨てきれず体内に蓄積してしまったエントロピーを、排出(デトックス)するのが炎症反応であり、それが病気の症状として現れています。
個の視点では、細菌やウイルス感染は命を脅かすリスクがあり、悪と考えられます。
生命のつながりの視点から見ると、感染症もまた私たちのホメオスタシスの一部であり、炎症反応を起こして体内のエントロピーを下げるために、細菌・ウイルス等や協働している結果でもあります。
私たちが不要・排出したものは、他の生物や微生物がエサとして利用し、その代謝物を私たちが摂取して利用する循環があります。
もともと私たちは、常在菌や常在ウイルスなどたくさんの微生物との共生によって、生命を維持しています。
外部とのつながり(循環)の中で、動的平衡を維持することが、生命の本質となります。
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足し算より引き算
足し算より引き算
免疫力を高めるために、薬やサプリメントを飲んだり、ある特定の栄養素を摂ろうとする傾向がよくあります。
しかし、免疫力の低下とは、体内が過剰なもので溢れて掃除できなくなり、エントロピーが増大している状態です。
何かをプラスして摂るのではなく、不要なものをマイナスしていくことが重要となります。
私たちは受けた教育によって、誤った認識をしていることがたくさんあります。
「1日3食しっかり食べないと、体が不健康になる」
「体調が悪い時は、しっかり食べて栄養を摂らないといけない」
現代人の大半は過食により、不健康になっています。
たくさん食べても体に備蓄できる栄養素は限られており、エントロピーが増大して不健康になっていきます。
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モノと情報で溢れる社会
人の体だけでなく、私たちの社会もモノで溢れかえっています。
便利なものが次々とでてきて、私たちの生活に足し算ばかりするようになりました。
人とのつながり、社会とのつながりが希薄になり、自分ひとりで生きていけると錯覚をしているように思われます。
人のつながり・社会とのつながりについては、関連記事をご参照ください ↓
世の中には、「〇〇が健康にいい」という情報も溢れかえり、たくさんの健康食品やサプリメントが推奨されています。
今までの生活に何かをプラスするだけで、健康で幸せになれたら、それほど楽で簡単なことはありません。
脳が自律神経をコントロールし、たくさんのホルモン分泌によっても調整され、免疫系の細胞によって不要物を除去し、エネルギー代謝を行い、細胞の新陳代謝を行い続けることで、エントロピーを一定の状態に保っています。
複雑な因子により影響を受けて、恒常性を維持している私たちの生命は、単一因子により単純に制御できるようなものではありません。
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現代の慢性疾患の多くは、過剰になった不要物を排出してエントロピーを下げようとする、ホメオスタシスによって調整された結果でもあります。
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まとめ
熱力学の第二法則(エントロピー増大の法則)という物理の有名な法則があります。
私たちが生きるということは、新陳代謝によりリモデリングを行い、エントロピー増大に逆らい続けることです。
捨てきれず体内に蓄積してしまったエントロピーを、デトックス(排出)するのが炎症反応であり、それが病気の症状として現れています。
感染症もまた、エントロピーを下げるための炎症反応であり、私たち(宿主)のエントロピーの状態によって感染が起こっています。
たくさんの微生物との共生・つながり(循環)の中で、恒常性を維持することが生命の本質です。
健康は「足し算ではなく引き算」を行うこと、体内に何を取り入れるかよりも、如何にエントロピーをうまく排出するかが重要となります。