この恒常性を保つための調整過程において、普段ない不都合な症状がでてくると、それが病気の症状として捉えられています。
病気の症状というのは、静的に見れば身体のエラー(異常)と認識されますが、動的に見れば治癒過程の一部分にすぎないのです。
ではなぜ慢性的に症状が続いてしまうかといえば、それによって動的平衡が保たれバランスがとられているからです。
私たちの体は、炭素・水素・酸素・窒素からなるタンパク質・脂質・糖質やリン酸を中心とする高分子構造でできています。
生命とは、自発的かつ能動的に自己更新を続け、自らの内部をある一定状態に保ち続けるシステムです。
そう私たちの生命とは、自分で自分を作り直しながら、自らの秩序構造を安定的に維持している存在なのです。
静的な状態ではなく、常に変化しながら一定のバランスが保たれる「動的平衡」が、私たちの生命現象です。
スクラップ&ビルド(新陳代謝)を繰り返し、エントロピーの増大に逆らい続けています。
構成される糖質や脂質やタンパク質などの種類によって、私たちの体には多様性が生まれています。
細胞だけでなく、細胞と細胞の間のつながり、組織と組織のつながりなど、細胞外マトリックスに情報の場が存在しています。
皮膚で閉ざされた内側だけの閉鎖系ではなく、外部環境とのつながりを常に維持した開放系に存在し、生態系における植物や微生物との共生による物質(エネルギー)循環が起こっています。
外部から取り入れる物質は、私たちの体を作り直すための素材に変換したり、活動のためのATP(エネルギー)を作り出すために必要です。
そのため生体内では、代謝(異化と同化)を行い続けています。
生体内で合成したATP(アデノシン三リン酸)のエネルギーの多くは、膜電位をつくりだし、生命現象を維持するために消費されています。
私たちの生命は基本的に危うい存在であり、酸素や二酸化炭素の濃度や、体液の酸度(PH)、体内温度についても、かなり狭い範囲内でしか生存することができません。
内部環境を一定状態に保つ(恒常性を維持する)ために、ホメオスタシスと呼ばれる生体機能が働いています。
ホメオスタシスによって、体温、血圧、血糖値などの調整や、神経系・内分泌系(ホルモン)・免疫系などがコントロールされ、私たちの細胞が新陳代謝によってリモデリングされています。
体内の中心的な生理的反応は、決まったリズムで恒常的に維持される必要があり、私たちの意志で手足を動かすようにはコントロールはできません。
また過去の経験から学習して、未来をより効率的に生きるために、「記憶」という恒常性維持のシステムができました。
この恒常性を保つための調整過程において、普段ない不都合な症状がでてくると、それが病気の症状として捉えられています。
病気の症状というのは、静的に見れば身体のエラー(異常)と認識されますが、動的に見れば治癒過程の一部分にすぎないのです。
ではなぜ慢性的に症状が続いてしまうかといえば、それによって動的平衡が保たれバランスがとられているからです。
私たちは地球という生態系で暮らし、地球の自転のリズムに常に影響を受けています。
重力エネルギーの影響を常に受け、重力ストレスに打ち勝って、体の姿勢を維持して動かす必要があります。
私たちは社会的動物であり、人間関係など社会的なつながりや、社会的ストレスに大きな影響を受けています。
生きるために必要な不可欠な酸素は、同時に私たちを酸化する危険な物質です。
外呼吸(肺呼吸)によって酸素を取り込むだけでなく、ミトコンドリアの内呼吸(細胞呼吸)によってエネルギーを産生することが重要です。
現代医学は要素還元主義による機械論と細胞病理学によって、人体を部品ごとの組み合わせで考え、その部品を1つ1つ細かくミクロに研究することで、器質的な異常を発見し発展してきました。
人体のハード面の原因を探ることで治療法を見つけ出し、多くの場合はその原因を単一因子で解決しようとしています。
統計学的な確率論によるエビデンスにより、平均的概念の治療法が科学的であるといわれ、個人個人に合わせた医療は行われない傾向にあります。
私たちの生命を全体論では捉えず、開放系による動的平衡な存在とは、考えなくなってしまったのです。
病気の症状というのは、神経系・内分泌系・免疫系などによって、体内を動的にコントロールし続けた結果であり、私たちのホメオスタシスの働きによる現象です。
しかし、多くの治療法がこの治癒反応自体を止めてしまい、症状をでなくしようとしています。
対症療法と呼ばれる治療法の多くが、静的な健康状態をつくりだすために、病気の症状を消失させることを目指します。
しかし、体内の変化は原因ではなく、ホメオスタシスによる結果の現象であり、原因と結果のすり替えが行われいることに気付いていないのです。
結果として起きてきた単一因子にアプローチを行っても、根本的な治癒に導くことはできません。
それが生活習慣病と呼ばれる慢性疾患の多くで行われている治療の実態です。
生活習慣病の治療法では、真のエンドポイントにおいて、その恩恵を受け取ることができない人の割合が圧倒的に多いのです。
代替マーカーとしての、血圧・HbA1c値・LDL-コレステロール値などのコントロールが、真のエンドポントに結びつく確率を計算すると、実は非常に低いことがわかります。
栄養学によるカロリー計算は、機械に燃料を入れるかのごとく、食事で摂取する栄養素を捉えています。
しかし、食べたものがすべてエネルギーに変換されるわけではありません。代謝する能力によって、個人差が大きくでるのです。
食事よって摂取した栄養素は、異化反応によってエネルギーを取り出し、同化反応によって私たちの体を構成する物質に変換しています。
食べ物は私たちにとっては異物であり、うまく代謝できずに過剰に存在すると、私たちの体にとって有害となります。
もっとも重要なエネルギー源であるグルコース(ブドウ糖)は、血液中に高濃度に存在すると、反応して私たちの体に変性を引き起こします。
それが終末糖化産物(AGEs)による糖毒性です。
そのため血液中の濃度は、限定された範囲内でコントロールされており、エネルギーを貯蔵する物質としては適していません。
生体内での中長期的なエネルギー源の貯蔵は、体の中での反応性がない中性脂肪という形で行われています。
過剰になった糖質やタンパク質は、代謝によって中性脂肪に変換されています。
肥満により過剰になった中性脂肪の貯蔵システムが限界を超え、分解されて放出された遊離脂肪酸が、脂肪毒性を示します。
この中性脂肪の貯蔵システムが崩壊することで、さらに血糖のコントロールシステムの機能が障害がされます。
それがインスリン抵抗性です。
酸化されやすい多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、生体内でも酸化されて過酸化脂質を形成して、最終的には低分子アルデヒド誘導体を生成しています。
この低分子アルデヒド誘導体はグルコースよりもさらに高い反応性を示し、私たちの体を変性させて機能障害を起こします。
それが終末脂質過酸化物(ALEs)による毒性です。
変性したタンパク質や脂質や、過剰な中性脂肪などは、私たちの体にとっては不要物であり、それをマクロファージが炎症反応を起こして処理しています。
様々な疾患の病態でみられる慢性炎症は、マクロファージなどが体内掃除によりエントロピーを下げる働きをしている現象です。
現代の慢性疾患の多くは、栄養素の過剰摂取という量の問題と、その質の問題で起こっています。
特に調理油などで大量に油脂を摂取している現代人は、脂肪酸の質と量に大きな影響を受けています。
脂質や糖質などの栄養素には、エネルギー源としての役割だけでなく、生体を構成する成分としての役割、情報を司るシグナルとしての役割があることを忘れてはいけません。
私たちのエネルギー代謝の中心となる物質は、糖(グルコース)です。
酸素を使ったミトコンドリアの好気性代謝によって、大量のエネルギー(ATP)と二酸化炭素と水を生成します。
そのエネルギーによって、体の新陳代謝を行い、体内をクリーンな状態に維持し、免疫力を高めることができます。
ミトコンドリアのエネルギー代謝が正常に回っていることが、私たちの健康にとって一番重要だといえます。
甲状腺ホルモンは、このミトコンドリアの量と機能を高めてくれます。
正しい呼吸ができていないと、ミトコンドリアでの内呼吸(エネルギー代謝)が低下します。
私たちは、酸素を使わない嫌気性代謝(解糖系)と、酸素を使う好気性代謝(ミトコンドリアの酸化的リン酸化)によるエネルギー産生を、使い分けています。
嫌気性代謝は、生命の危機管理のために、瞬発的なエネルギー供給を目的に利用され、交感神経反応(闘争・逃走 反応)への対応を担っています。
社会的ストレスが多い日々の生活を送っていると、過剰に嫌気性代謝に偏り、ミトコンドリアの機能を低下させる原因となります。
ミトコンドリアでの好気性代謝は、糖をエネルギー源とする代謝の経路と、脂肪酸をエネルギー源とする代謝の経路を使い分けています(ランドルサイクル)。
糖のエネルギー代謝が流れている時には、脂肪酸のエネルギー代謝はブロックされて、食事よって摂取した脂質は中性脂肪に変換されやすくなります。
脂肪酸のエネルギー代謝が流れている時には、糖の内呼吸によるエネルギー代謝はブロックされて、高血糖になりやすくなります。
肥満によって中性脂肪の貯蔵システムが限界を超え、分解されて遊離脂肪酸となると、脂肪酸のエネルギー代謝を行う流れとなっていきます。
そのため糖の内呼吸によるエネルギー代謝が抑えられ、インスリン抵抗性が引き起こされます。
そして血糖コントロールができなくなって、高血糖(糖尿病)の状態になっていくのです。
脂肪酸のエネルギー代謝の経路が中心となると、活性酸素種(ROS)の発生が増加して、酸化ストレスを引き起こすリスクが高まります。
このようにエネルギー代謝の場が乱れ、肥満やインスリン抵抗性が起こると、さらに食事によって摂取する栄養素の代謝はスムーズにいかなくなります。
脂肪酸のエネルギー代謝を抑制し、インスリン抵抗性を改善して、糖のエネルギー代謝を促進するためには、グルコースとフルクトースの相乗作用が有効です。
グルコースの代謝調整を行うために、ポリオール経路が活性化して、内因性フルクトースが生成しています。
生存するために代謝酵素の活性変化がリプログラミングされ、代償的な代謝経路を不可逆的に獲得したのが癌細胞です。
細胞外マトリックスの剛性が、細胞骨格のリモデリングに影響を与え、細胞呼格タンパク質の重合による張力を誘発します。
細胞骨格タンパク質の重合により代謝酵素との相互作用が変化することで、代謝活性が動的に変化します。
細胞外マトリックス(筋膜)の緊張は、メカノトランスダクションとして解糖系の代謝活性を促進し、交感神経反応(闘争・逃走 反応)を引き起こします。